福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2025年1月号 月報

あさかぜ基金だより

月報記事

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 社員弁護士 滝本 祥平(75期)

直近のあさかぜ

先月号では、藤田大輝弁護士が対馬への赴任が決まったことを報告しました。赴任する弁護士がいる以上、新人弁護士を採用しなければなりません。11月下旬に開催された東京三弁護士会オンライン就職合同説明会では、2名の修習生が法科大学院で受けた講義により司法過疎問題に関心を持ち、当事務所のオンライン説明会に参加されました。

また、11月のあさかぜ研修として福岡城南法律事務所において西野裕貴弁護士から解雇のテーマで講義を受けました。さらに、研修から数日あと、労働事件の共同受任までしていただきました。このように、あさかぜの養成体制は指導担当以外の弁護士から提供されるOJTの機会をもらっています。

共同受任でなくとも、当番待機日や法律相談の交代でも構いませんので、あさかぜ所員へ実務経験の機会の提供に引き続き協力をお願いします。

1年ぶりの自己紹介

ちょうど1年前の月報に自己紹介を掲載しました。改めて自己紹介させていただきます。 生まれも育ちも北海道札幌市です。札幌には10の行政区があり、私が育ったのは手稲区です(画像1実家からの眺望)。そして、地元の小中を卒業し、地元の進学校である札幌西高校→浪人1年→北海道大学法学部→同大学大学院のロースクール既修者コースへ飛び入学しました。このように、司法試験受験まではだいたい道民として人生うまくいっていたのですが、司法試験とは相性が悪く、合格まで何度も挑戦をせざるを得ませんでした。

合格後、修習地が仙台となってしまい、生まれて初めて道外で生活することになりました。そして、道外でも生きていけるんだなと確信をすることができました。とはいえ、北海道をはなれると、画像2(士別市郊外の風景令和4年4月2日)のような一面の雪景色を見るだけで満足するぐらい北海道への愛着が高まりましたから、いずれは帰るという思いが強まったのです。そこで、司法過疎対策に関心が従前よりあった私は、東京八王子に本部があり、北海道士別支部へ赴任させる新人を募集していた事務所に応募し、採用していただきました。そこで、数年間八王子で居住したのちに士別へ赴任するつもりでいました。

ところが、事情により事務所を辞めざるを得ないことになりました。ちょうど、そのころ、あさかぜ基金法律事務所で所員が不足していた事情を聞いて応募し、中途採用していただくことになったのです。

九州を離れたくない人と結婚するといった特段の事情ない限り、いずれは北海道へ帰るつもりです。それでも、九州弁護士会連合会とりわけ福岡県弁護士会には大変お世話になり経験を積ませていただいていますので、1年後くらいに壱岐へ赴任し、さらに2年後に北海道のひまわりへ赴任というのが今のところの最有力シナリオになっています。会員の皆様にはご支援とご指導をどうぞよろしくお願いします。

福岡県弁護士会 あさかぜ基金だより 福岡県弁護士会 あさかぜ基金だより
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法律相談センターだより 法律相談合同研修会報告

月報記事

筑後部会法律相談センター運営委員会委員長 田中健太郎(55期)
法律相談センター運営委員会委員 塗木 麻美(62期)
筑豊部会法律相談センター運営委員会委員長 渡邉 敦史(63期)
北九州部会法律相談センター運営委員会委員 後藤 啓太(71期)

第1 「福岡県法律相談連絡協議会」とは

「福岡県法律相談連絡協議会」は、1997年(平成9年)、福岡県弁護士会、福岡県、福岡市、各自治体、社会福祉協議会が呼びかけ人となり、設立されました。設立趣旨には、「各相談機関が連携を取りながら、より早く、より適切に助言し、問題の解決まで住民を導くことができるトータルなシステムづくりを行い、相談機関同志の相互協力によって一層充実した相談サービスを提供すること」とあります。その目的を達成するための重要な活動として、毎年、県内4地区において、研修会を開催しています。

以下、福岡、北九州、筑後、筑豊の各研修会について、開催された日時の順に報告します。

第2 北九州(後藤)
1 はじめに

令和6年10月11日、ウェル戸畑において、法律相談合同研修会が開催されましたのでご報告致します。

本年度は24名の参加となり、参加者数は前年度の約3倍となりました。

福岡県弁護士会 法律相談センターだより 法律相談合同研修会報告

部会長挨拶(北九州)

2 第1部 身寄りのない高齢者支援

迫田学部会長による開会挨拶の後、平尾真吾会員による講演「身寄りのない高齢者支援」が始まりました。

平尾会員は、2年前にも同じテーマで講演されておりますが、最新の情報にアップデートされた講演内容となっておりました。

例年のアンケートでは、生活困窮問題に関する講演を希望するものも多く、平尾会員の講演に参加者の皆様は熱心に耳を傾けておりました。

3 第2部 インターネット上の誹謗中傷問題

平尾会員の講演終了後、眞子幸人会員による講演「インターネット上の誹謗中傷問題」が開始されました。

同講演では、誹謗中傷になりうる場合や、発信者情報開示手続や削除までの流れなど、一連の流れについてわかりやすく解説されました。

インターネット上の誹謗中傷問題は、近年顕在化してきており、どのような場合に誹謗中傷となるのかについて非常に勉強になる内容でした。

4 来年度に向けて

参加者のアンケートも好評であり、特に事例に基づいた解説やニーズに基づいた講演内容が評価されておりました。今後も参加者のニーズに応えた講演を行っていこうと思います。

第3 筑豊(渡邉)
1 はじめに

令和6年10月30日午後1時30分から飯塚市役所1階多目的ホールにおいて、法律相談合同研修会が開催されました。昨年度は「離婚を巡る法律問題」というテーマで講演しましたが、実施後のアンケートで成年後見に関する講演を希望される方が多くいましたので、今年度は「高齢者を巡る法律問題」というテーマで、約1時間の講演をしました。当日は、筑豊地区の各自治体、社会福祉協議会、人権擁護委員協議会から31名の方々にご参加いただきました。

2 講演について

「高齢者を巡る法律問題」ということで、財産管理契約、任意後見制度、法定後見制度(補助、保佐、成年後見)、民事信託制度、相続を主な内容として講演をしました。私たち弁護士は、日常業務としてこれら事案に携わることは多いところですが、参加者の方々も高齢者と接する機会の多い方々ということもあって、いかに理解しやすく説明するかということに努めながら講演を行いました。参加者の方々には真剣に耳を傾けて頂き、参加者からは「今後の高齢者の相談に役立つと思う。高齢者に関するいろいろな問題と解決に向けての手段・方法が理解できた」等比較的好評いただいたかと思います。

3 終わりに

法律相談合同研修会という場で、様々な法律問題に関わっておられる方々の日常の活動に少しでも役に立つ話をと毎年企画しているところですが、次年度以降も研修会に参加して良かったと思ってもらえるよう工夫し、実施していきたいと思います。

第4 福岡(塗木)
1 はじめに

11月12日(火)、福岡県弁護士会館(2階大ホール)で、福岡県法律相談連絡協議会の合同研修会(福岡地区)が開催されました。

申込みは福岡市、福岡県や那珂川市、大野城市など福岡地区の自治体の相談業務関係者から45名、当日参加は36名と今年度もたいへん盛況でした。
小柳業務事務局長の司会進行により弁護士会の徳永響会長のご挨拶を頂き、さっそく研修会に入りました。

福岡県弁護士会 法律相談センターだより 法律相談合同研修会報告

講演1(福岡)

2 講演の内容

まず、田坂幸弁護士から「自治体におけるカスタマーハラスメント対策」についての講演がありました。各自治体の取組や、具体的なハラスメントへの対応など、まさに自治体の方が直面している問題ということもあり、参加者の熱意を感じました。

次に、塩飽梨栄弁護士から「相続に関する諸問題(外国籍の方の相続など)」についてご講演いただきました。被相続人の国籍、遺産が国外にある場合などいろいろなパターンへの対応についてわかりやすく説明され、参加者も弁護士も聞き入っていました。

アンケートではどちらの講演についても参加者の大多数が「役に立った」と回答され、「自治体の職員としてとてもためになった」、「日頃疑問であり、調べる方法もわからなかったのでとても参考になった」など、実践的に役立つ内容であったことがわかる回答が多くありました。

また、塗木麻美弁護士((法律相談センター運営委員会)より「士業が担当する相談業務について」と題して、自治体での他士業の相談業務などに際して、弁護士にしかできないことや他士業の得意分野についてお話ししました。アンケートで「士業の方々が担当される業務の内容が確認できて、参考になりました」という感想を頂き、意義があったと感じた次第です。

3 おわりに

今年度も多くの参加を頂き研修会を実施することができました。次年度以降もアンケートの意見を踏まえて有意義な研修を実施できればと思います。田坂先生、塩飽先生におかれては素晴らしい研修を実施いただき感謝いたします。ご協力を頂いた皆様ありがとうございました。

福岡県弁護士会 法律相談センターだより 法律相談合同研修会報告

講演2(福岡)

第5 筑後(田中)
1 はじめに

令和6年11月15日、久留米シティプラザにおいて、法律相談合同研修会(筑後地区)が開催されました。研修会の前半では、中野和信会員に「相続登記の義務化とそれに関連する諸問題」というテーマでご講演をいただき、後半では、参加者の皆さんと当部会の弁護士との意見交換会を実施しました。当日は、筑後地区の各自治体や社会福祉協議会から21名にご参加いただき、当部会からは9名の弁護士が参加しました。

2 講演について

相続に関する問題については、参加者の皆さんも普段から相談が多い分野であり関心が高いテーマであったと思います。その中でも、相続登記の義務化や所有者不明土地を巡る昨今の法改正について最新の知識を身につけておくことは日々の相談業務にとって必要不可欠です。講師の中野会員には丁寧な分かりやすい解説をしていただき、会場の皆さんも真剣に耳を傾けていましたし、我々弁護士にとっても大変参考になる内容でした。

福岡県弁護士会 法律相談センターだより 法律相談合同研修会報告

意見交換会(筑後)

3 意見交換会について

意見交換会では、会場の前方に弁護士を配置して、主に事前アンケートの結果を題材にしながら、弁護士の解説と会場からの質疑応答を繰り返す形式で進行しました。はじめは皆さん遠慮がちで会場からの発言は少なめでしたが、具体的な事例を交えながら進行をしていくうちに会場からの発言も増え、終わってみれば予定時間を若干超過するほどの盛り上がりを見せました。取り上げた話題は、遺言・相続や空き家への対応、相隣関係といった身近なものから、SNS詐欺被害、さらには闇バイト関連の報道の影響からでしょうか、強盗犯が家に押し寄せてきたときにどうするかといった話題にまで及びバラエティ豊かな意見交換会でした。また、弁護士会への要望として、相談の際に相談者に寄り添った態度を心がけて欲しいという声もあり、相談を担当する弁護士として気を引き締める機会にもなりました。

4 終わりに

研修会後のアンケートでは、講演、意見交換会ともに高評価をいただきました。事例を交えての話で分かりやすかった、弁護士が少し身近に感じた、有意義な研修会なので会場参加者が少なかったのが残念だ、といった感想をいただきました。次年度も皆さんに参加して良かったと言っていただける研修会にしたいと思います。

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第16回国選弁護シンポジウム「横にはいつも弁護人〜取調べの立会い・逮捕から国選弁護」のご報告

月報記事

刑事弁護等委員会 委員 野田 幸言(66期)

はじめに

令和6年11月1日、金沢市内の金沢東急ホテルにて、日本弁護士連合会主催の第16回国選弁護シンポジウム「横にはいつも弁護人〜取調べの立会い・逮捕から国選弁護」が開催されました。日弁連取調べ立会い実現委員会よりシンポジウム実行委員の一員として参加しましたので、報告させていただきます。

シンポジウムの概要

国選シンポジウムはおおよそ2、3年に1回、全国をめぐって開催されています。前回の2021年広島では、コロナ禍の折、全面オンラインで実施されました。今回は2017年の横浜以来、7年ぶりの現地での開催となりました。

「国選弁護」シンポジウムと名付けられていますが、国選弁護だけに限らず、刑事弁護全般に関わるその時々のトピックをテーマとして実施されています。今回のテーマは、第1部「取調べへの弁護人立会い」と第2部「逮捕段階からの国選弁護制度」の2本立てでした。

参加者数は、現地参加245名、オンライン参加324名、合計569名と大盛況でした。当会からは現地参加6名、オンライン参加4名の申込がありました。

第1部 取調べへの弁護人立会い
これが取調べの実態だ!

第1部の冒頭に、「これが取調べの実態だ!」と題して、実際の取調べの録音・録画が上映されました。

上映された事件は(1)鳥羽警察署事件、(2)札幌北警察署事件、(3)プレサンス事件、④江口元弁護士事件です。

  1. 鳥羽警察署事件では、窃盗を否認する被疑者に対して、警察官が「顔見とったらわかるわな、泥棒みたいなもん。泥棒!!」「泥棒に黙秘権あるか!」「新聞載っとけ!伊勢新聞やら中日やら、全部のしたるわ。報道発表して。」などと大声で怒鳴りつける場面が流されました。
  2. 札幌北警察署事件は、2歳の子供を監禁したとして女性が逮捕・勾留された事件です。女性は最終的に不起訴になりました。黙秘する女性に対し、警察官は、「要らない子だったの?だからこうやって何もしゃべんないのかい?」「自分のこと守りたいって、そういう気持ちしか考えられないくらい、その程度の存在だったのかい。」と責め立てます。
  3. プレサンス事件では、社長の関与を否定する部下に対し、検察官が、「そうだとしたら、あなたはプレサンスの評判を貶めた大罪人ですよ。」「10億、20億じゃ、すまないですよね。それを背負う覚悟で、今、話していますか。」などと自白を迫ります。無罪後の付審判請求事件では、この発言が、「恐怖心をあおる脅迫的な内容といえ、・・・陵虐行為該当性が認められる」とされました。
  4. 江口元弁護士事件では、黙秘する被疑者に対し、検察官が「何か、あなたの中学校の成績見てたら、あんまり数学とか理科とか、理系的なものが得意じゃなかったみたいですねぇ。」「ちょっと論理性がさあ、なんかずれてんだよなぁ。」などと延々と一方的に侮辱的発言を続けます。

実際に行われた取調べの場面であるだけに、この冒頭の上映会が最も鮮烈に印象に残りました。これを見ると、一人で取調べに臨んで黙秘権を貫徹するのがいかに難しいかが分かります。やはり取調べにはセコンドである弁護人が必要だと改めて実感しました。

事例報告

続いて、愛知県弁護士会の櫻井義也弁護士から、障害のある被疑者の立会い実践例報告が、札幌弁護士会の林順敬弁護士から、取調べ準立会いによる無罪事例報告が行われました。

櫻井弁護士の事例は、パニック障害、不安障害、知的障害のある男性について、障害者差別解消法7条2項により行政機関に「合理的配慮」を求める合理的配慮依頼書を捜査機関に提出して、取調べへの弁護人立会いが認められ、最終的に不起訴になったというものです。同弁護士によると、同法8条2項は事業者(=弁護士)に対しても同様の義務が認められており、立会い要求ないし立会いは弁護人としての義務ともいえるとのことです。

なお、この事件は、愛知県弁護士会の「特定在宅被疑者援助制度」を利用したものです。同制度は、障害者・高齢者・少年・弁護人等の活動により釈放された者について、経済的理由により弁護士報酬等の支払が困難な場合に弁護士費用の援助を行うものです。この制度がなければ、取調べへの弁護人立会いも不起訴も実現しなかったかもしれません。さすがに愛知県弁護士会は先進的な取り組みを行っています。

林順敬弁護士の報告の事案は、76歳の女性が自動車を運転して走行中、右側から飛び出してきた8歳男児が乗る自転車と衝突し、男児が高次脳機能障害を伴うびまん性軸索損傷等の障害を負ったというものです。在宅事件として捜査が行われ、受任後、弁護人が取調べの立会いを求めましたが認められず、いわゆる準立会い(弁護人が警察署・検察庁構内で待機し、一定の時間ごとに休憩を入れ、弁護人と被疑者が打合せを行い、適宜アドバイスするという弁護活動)を実施しました。女性は起訴されましたが、裁判所は女性の過失を認めず、無罪判決を言い渡しました。検察官の立証の柱の1つは、事故当日弁護人が選任される前に作成された警察官調書でしたが、必要性なしで却下となりました。弁護人選任後、弁護人のアドバイスで不利益調書が作成されなかったことが無罪の大きな要因となりました。

いずれの事件も、依頼者は、弁護人の選任前と選任後では捜査機関の対応が全く違ったと語っており、大変感謝されたとのことでした。

パネルディスカッション

大川原化工機事件で長期間身体拘束を受けた同社取締役の島田順司氏、林弁護士の報告事例の依頼者女性、林弁護士、高知県弁護士会の市川耕士弁護士によるパネルディスカッションが行われました。

島田氏からは、逮捕される前の取調べでは、取調べの前に既に供述調書が出来上がっておりそれを確認する作業だった、「杜撰に知っていて」「分かってやりました」「故意に」など、自分が話してもいない言葉が供述調書に書かれていて供述調書は捜査官が勝手に作るものだと分かった、警察官は「経産省も外為法の規制対象に該当するという見解である」など述べていたが、後から嘘だと知った、など取調べの実態が赤裸々に語られました。在宅取調べの途中からは、自分が必死で話していることが全く調書に取ってもらえない、どうにか証拠を残さなければいけないと思って、身を守るために自主的に録音を行っていたとのことでした。その他にも、何年も前のことを何も資料を参照せずに答えろと言われても答えられるはずがない、証拠を確認できる仕組みが必要である、と捜査段階の証拠開示の必要性も挙げられていました。

林弁護士の依頼者は、一般の人にとって、刑事手続は全く分からない、弁護士が同じ庁舎にいると思うだけで安心できた、取調べの最中に隣に弁護士がいたらもっと心強かっただろう、と語っていました。

海外視察報告

本シンポジウムに先立って、日弁連取調べ立会い実現委員会有志で、取調べへの弁護人立会いが法制度化されているイギリスと韓国の視察を行いました。

韓国視察団のメンバーである佐賀県弁護士会の半田望弁護士が、韓国視察の報告を行いました。半田弁護士によると、韓国の取調べは動機の解明に重点が置かれておりその点は日本と似ているが、韓国では2020年の刑訴法改正によって捜査段階の検察官調書の伝聞例外規定が撤廃されたことにより、客観証拠中心の捜査にシフトしている、警察官・検察官のいずれも、弁護人が取調べに立ち会うことによって法律上の概念の説明などを弁護人がアシストすることから、取調べがしやすくなったと語っていた、ということでした。

また、イギリス視察団のメンバーである大阪弁護士会の川崎拓也弁護士からもイギリス視察の報告がありました。イギリスでは取調べの時間は通常45分が限度であること、実際の取調べを傍聴した際、被疑者の言い分を捜査機関が誤解しているように思われる場面で弁護人が捜査官に誤解を指摘するなど、捜査官と弁護人が協力している様子が窺われたこと、警察官が弁護人がいない取調べは信用性がなくなるため弁護人が立ち会った方が好ましいと語っていたことなどが報告されました。

第1部まとめ

日弁連取調べ立会い実現委員会委員長である札幌弁護士会の川上有弁護士より、第一部の締めくくりのスピーチがありました。

「改めて日本の取調べが後進的であることを痛感した。人権侵害的な取調べをやめさせるためには弁護人の立会いが有効かつ不可欠である。当事者は弁護人の立会いを求めている。当事者の切実な声に我々弁護士が背を向けていいはずがない。我々弁護士は、立会い権実現後の将来の依頼者のためだけでなく、現在の依頼者の声に応える義務がある。」という熱いエールが送られました。

第2部 逮捕段階からの被疑者国選弁護制度
プロモーションビデオ~逮捕段階で国選弁護人が選任されるとこうなる~

第2部のテーマは、逮捕段階からの被疑者国選弁護制度の実現です。
冒頭に、勾留後にしか国選弁護人が選任されない現在の制度下での接見動画と、逮捕段階から国選弁護人が選任される架空の世界の接見動画の2パターンが流されました。

現在の制度の下での接見動画では、弁護人が接見に行った時点で既に、認めれば早く出られるだろうと思って被疑者が虚偽の自白調書に署名押印をしていたという場面が映し出されます。これに対して、逮捕段階から国選弁護人が選任される制度の下での接見動画では、弁護人が当初から被疑者に黙秘権を行使できること、供述調書に署名押印しないことをアドバイスします。

弁護人の援助が最も必要なはずの逮捕直後の時点で国選弁護人が選任されないことによる不都合を見事に指摘した動画でした。弁護士の説明はどうしても小難しくなりがちです。一般の方々に問題点を伝えるには、動画は非常に有効なコンテンツだと実感しました。

パネルディスカッション

第2部のパネルディスカッションのパネリストは金沢弁護士会の高見健次郎弁護士、埼玉弁護士会の長沼正敏弁護士、大阪弁護士会の西愛礼弁護士、第二東京弁護士会の開原早紀弁護士です。

高見弁護士からは、(1)近時、警察で当番弁護士の紹介がされなくなっている、(2)資力制限があるため、資力のある被疑者は私選弁護人選任申出をして私選受任を拒否されるという無駄な手続を履践しなければならない、(3)国選弁護人が勾留決定後にしか選任されないことから捜査の初期段階で虚偽自白が取られる危険性が高い、という問題点が指摘されました。

長沼弁護士、開原弁護士からは、現在の制度では逮捕段階に国選弁護人が選任されないために、初動が遅れ困難をきたした事例と、逮捕当日に初回接見ができたために成功した事例の両方が報告されました。

長沼弁護士の報告事例は、被疑者が、妻の不倫相手(被害者)に対して傷害・恐喝未遂を行った疑いで逮捕されたというものです。逮捕より相当前の時点で、被疑者から不倫相手(被害者)に対して不貞慰謝料請求訴訟を提起しており、不倫相手(被害者)からは被疑者に対して傷害を理由とする反訴が提起されていました。傷害に関する証拠も相当程度民事訴訟で提出されています。長沼弁護士は、民事訴訟の代理人弁護士から直ちに民事訴訟資料を入手し、本件は本来民事訴訟で決着をつける事件である、身体拘束してまで捜査を遂げる必要はないという意見書を提出しました。いったんは勾留が認められましたが、勾留に対する準抗告が認容されました。準抗告審では、逮捕状を出した裁判官が裁判長を務めました。後日、同裁判官から、「準抗告審の際に判明した事情が当初から分かっていたら逮捕状は出していなかった。」と言われたということでした。

西弁護士からは、かつて裁判官として令状裁判に関与した経験から、令状担当の裁判官はできるだけ多くの情報を知りたいと思っている、弁護人から勾留要件に関する情報が多く提供されれば慎重な判断が可能になるのでありがたい、特に身上関係の情報、示談の状況に関する情報が提供されると判断に影響する、との意見が述べられました。他方、国選弁護人は勾留が取消されると解任されるため、釈放してよいか気がかりな面もあるという懸念も示されました。

ドイツ視察報告

ドイツ視察団の一員である高見弁護士から、ドイツにおける国選弁護人の選任の状況について報告がありました。報告によると、ドイツでは、仮拘束(逮捕)された被疑者が勾留の裁判のため裁判所に引致されるときには弁護人の関与を必要とすると法制化されているとのことです。国選弁護人選任は捜査判事が行うことになっており、捜査判事は警察本部に在中しています。したがって、仮拘束された被疑者を勾留することにした時点で、弁護人が選任されなければならず、国選弁護人選任手続は警察本部内で行われます。これは逮捕段階の国選制度と実質的に同等です。また、選任された弁護人は勾留質問に立ち会うことが認められています。

これを踏まえて、日本で逮捕段階からの国選制度を実現するに当たっては、逮捕時の警察による国選弁護人選任の矜持がしっかりなされること、被疑者が逮捕時点で口頭で国選選任の旨を告げるだけで国選選任手続が開始されること、勾留請求却下や勾留準抗告認容などで被疑者が釈放されても国選弁護人の地位が失われないこと、被疑者が弁護人選任請求をしたときは弁護人にアクセスできるまで取調べをしないことなどの条件が必要であると提言されました。

第2部まとめ

第2部のまとめとして、高見弁護士から、国選弁護制度は適正手続のための制度である、社会のインフラとして簡潔で便利な制度が構築されなければならない、という意見が表明されました。

感想

シンポジウムに参加して、当事者の生の声が一番心に響きました。通常の当事者は刑事手続についての知識が全くありません。当事者にとっては全てが初めての経験です。林弁護士の依頼者は、「同じ建物に弁護士の先生がいると思うだけで心強かった。」と述べていました。当事者は、弁護人が取調べに立ち会うことを強く望んでいます。この声に弁護士が反対する理由はないはずです。

もう一つ、改めて感じたことがあります。第2部のプロモーション動画、パネルディスカッションの中で、黙秘権行使を選択する理由として、「虚偽の自白調書が作られるのを防ぐ」「アリバイ潰しを防ぐ」という発言が何度も繰り返し出てきました。我々弁護士からすると当たり前のアドバイスです。しかし、ふと冷静に考えてみると、被疑者の言い分が被疑事実と違うのであれば、その言い分をそのまま証拠に残すというのが本来捜査機関に求められることではないでしょうか。被疑者にアリバイがあるというのであれば、そのアリバイが正しいかどうかを虚心坦懐に検証して、くれぐれも無辜を罰することがないよう心がけるのが捜査機関の役目ではないでしょうか。虚偽の自白調書を作ることも、被疑者のアリバイをつぶすことも、本来絶対に許されない行為です。ところが、これらの行為が現に行われているということを前提に弁護活動をしなければならないという現実に、現在の刑事手続の病理を感じました。

私にとって、初めての国選シンポジウムへの参加でした。現地に足を運ぶことで、各地から集まった弁護人の刑事弁護変革への熱意と、弁護人に対する当事者の期待を実感できたことが、今回の最大の収穫でした。

第16回国選弁護シンポジウム基調報告書「横にはいつも弁護人~取調べの立会い・逮捕からの国選弁護」は以下のQRコードからダウンロードできます。

福岡県弁護士会 第16回国選弁護シンポジウム「横にはいつも弁護人〜取調べの立会い・逮捕から国選弁護」のご報告

https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/symposium/kokusen_sympo/kokusen_sympo16_report.pdf

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憲法講座「檻の中のライオン」

月報記事

会員 塩村 貴秀(73期)

1 はじめに

令和6年11月24日に、筑後部会弁護士会館にて、憲法講座が開催されました。本講座は、筑後部会憲法委員会が毎年主催するもので、一般市民の方々に憲法問題についてさらに関心を持っていただくことを主な目的としたイベントです。今回は、広島弁護士会所属の楾大樹(はんどう たいき)先生を講師としてお招きし、講演を行っていただきました。日曜日にもかかわらず、約30人もの多くの方々にご来場いただき、とても充実した憲法講座となりました。その様子をお伝えします。

2 楾先生のご紹介

楾先生は、ひろしま市民法律事務所の所長を務めておいでですが、その傍らで、憲法に関する講演活動や執筆活動を精力的に行っておられます(現在は業務のほとんどが講演活動とのことです)。特に講演活動は全国から引っ張りだこで、全国47都道府県で1000回以上の講演実績をお持ちです。本講演の日も、53日間で62講演という過密日程の中でご登壇いただきました。代表的な著書に「檻の中のライオン」があり、本講演も、同書の内容を基にお話していただきました。

3 開会

筑後部会会長の岡田先生の開会のあいさつが終わり、講演がスタートしました。楾先生の近況についてのユーモアたっぷりの話から始まり、会場もとてもリラックスした雰囲気となりました。

福岡県弁護士会 憲法講座「檻の中のライオン」

岡田部会長の開会のあいさつ

4 憲法を守るべきなのは国民みんな?そうじゃない?

講演の初めに、楾先生は、「憲法を守るべきなのは国民みんなでしょうか。そうじゃないでしょうか。」と会場に問いかけます。会場では、国民みんなに手を挙げる方、そうじゃない方に手を挙げる方と、意見が分かれました。この会場の様子を受け、楾先生は、憲法99条には公務員に対して憲法擁護尊重義務が課されていることを指摘し、公務員(政治家)こそが憲法を守らなければならない主体であり(国民みんなではない)、国民はそれら公務員(政治家)がきちんと憲法を守っているかを選挙における投票行動を通して監視しなければならない存在であると解説なさいました。憲法は国家権力を規制するためのルールであり、我々国民は、その憲法を国家権力がきちんと守っているのかどうかを監視すべき存在なのです。このような国家権力と憲法との関係を、国家権力=ライオン、憲法=檻に例えて、憲法の全体像を網羅的に解説していただくというのが、本講座の内容です。

福岡県弁護士会 憲法講座「檻の中のライオン」

楾先生の軽快なトークからスタート

5 檻の中のライオン

国家権力をライオン、憲法を檻に例えた憲法の各条項の楾先生による解説は非常にわかりやすく、斬新なものでした。例えば、ライオン(国家権力)が入る檻(憲法)を改修(改正)するのは我々国民です(憲法第96条第1項)。また、檻(憲法)から出たライオン(国家権力)の言うことは聞かなくていいことになっています(憲法第98条第1項)。さらに、ライオン(国家権力)に言いたいことを言えないと良いライオン(国家権力)を選べませんが、そうならないために檻(憲法第21条、表現の自由)があります。そのほか、ライオン(国家権力)が誰かをえこひいきしないように、檻(憲法第14条、平等権)があり、みんな平等に扱われることになります。

等々、楾先生は、そのほかの憲法の条項についても、檻とライオンに例えた非常にわかりやすい解説を行っていただきました(紙面の都合上全てをご説明することができないのがもったいないほど、分かりやすい解説でした)。来場された一般市民の皆様もしきりに頷きながら講演に聴き入っておられ、我々弁護士などの法曹以外の方にも大変分かりやすい内容だったと思います。

福岡県弁護士会 憲法講座「檻の中のライオン」

いろんなぬいぐるみを使って説明する楾先生

福岡県弁護士会 憲法講座「檻の中のライオン」

檻とライオンのぬいぐるみを使って説明する楾先生

6 懇親会

楾先生の軽快な語り口と分かりやすい内容により、講演はあっという間に終わってしまいました。最後は筑後部会憲法委員会委員長の高峰先生より閉会のあいさつがあり、本講座は無事終了いたしました。

その後は、楾先生、筑後部会憲法委員会の有志、来場者として参加していた九大ロースクール生6人とで懇親会を行いました。憲法のお話や楾先生のプライベートのお話など、興味深いお話をたくさんお聞きすることができ、とても良い懇親会となりました(楾先生、二次会までありがとうございました)。

7 おわりに

憲法に関する講演と聞くと、どこか難しかったり、固かったりというイメージが付きまといがちです。しかし、本講座における楾先生のお話は、楾先生のお人柄もありますが、とてもイメージしやすく、身近な事についての話としてスッと自分の中に入ってきました(おそらく会場の皆がそうだったと思います)。とても新鮮な体験でした。楾先生は、今後も精力的に講演活動を行われるとのことですので、まだ講演を聴かれたことのない方は、是非1度聴講されることをおすすめいたします(福岡でも講演予定があるとのことです)。

本年も大変充実した憲法講座になったと思います。筑後部会憲法委員会では、来年以降も一般市民の方々に向けた憲法講座を企画してまいります。来年の憲法講座も、本年と同じくらい充実した講座となるよう、しっかり取り組んでいきたいと思います。最後に、本講座にご協力いただいた楾先生に改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。

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2024年12月号 月報

手錠腰縄シンポジウムのご報告

月報記事

手錠腰縄PT 鶴崎 陽三(69期)

1 はじめに

去る令和6年10月3日、愛知県(名古屋市)での第66回人権擁護大会の第2分科会として手錠腰縄問題に関するシンポジウムが開催されました。

聞きなれない会員もいるかもしれませんが、手錠腰縄問題は、身柄事件の被告人が公判廷で裁判官からの解錠の指示があるまで手錠腰縄を装着された姿を晒されることが被告人の尊厳を損なうものであり人権侵害にあたるとして、手錠腰縄姿を訴訟関係者や傍聴人に晒さないための措置を求めるものです。

以下、シンポジウムの内容をご紹介します。

2 報告等及び講演
(1) 報告等及び講演の内容

本シンポジウムでは、最初に手錠腰縄問題に関するドラマが上映され、愛知県弁護士会の櫻井博太弁護士からの基調報告、福岡県弁護士会の稲森幸一弁護士から国際人権法についてのガイダンス、法廷での手錠腰縄経験者であるミュージシャンのSUN-DYU氏による歌唱と同氏に対するインタビュー、海外の調査報告などがありました。

また、基調講演として、慶應義塾大学大学院法務研究科の山本一氏教授、近畿大学法学部法律学科の辻本典央教授、中央大学の北村泰三名誉教授からご講演いただきました。
最後に、北村教授及び辻本教授に元裁判官で現愛知県弁護士会の伊藤納弁護士、大阪弁護士会の川﨑真陽弁護士を加えた4名をパネリストとしてパネルディスカッションが行われました。

以下、紙面の関係上すべてをご紹介することはできませんので、櫻井弁護士の基調報告とSUN-DYU氏へのインタビュー及び各基調講演について、内容をご報告いたします。

(2) 櫻井博太弁護士の基調報告

櫻井弁護士からの報告によると、最高裁判所と矯正局の協議によって、平成5年に、「特に戒具を施された被告人の姿を傍聴人の目に触れさせることは避けるべきであるという事情が認められる場合には」(傍聴人を被告人より後に入廷させ、傍聴人を被告人より先に退廷させることにより)傍聴人のいない所で解錠・施錠することを原則とし、それができない特段の事情がある場合には、入廷直前又は退廷直後に法廷の出入口の所で解錠・施錠する取り扱いとすることが法務省から通知されたそうです(平成5年通知)。

その後、どのような経緯なのか平成5年通知に従った運用は全くなされなくなった中で、2014年、大阪地裁において被告人が手錠・腰縄姿での出廷を拒否し、それにならった弁護人に対して出頭在廷命令及び命令違反による過料決定、大阪弁護士会に対する処置請求がなされました。

これに対して、2015年、大阪弁護士会は「処置しない」決定をするという毅然とした対応をしましたが、この頃から大阪弁護士会で手錠腰縄問題が議論され始めたそうです。
その後、一時的に裁判官がなんらかの対応をしてくれる割合が増加したそうですが、最近は対応割合がかなり低下しているとのことです。

その他、手錠腰縄に関する海外の状況や、日本における裁判例として、手錠腰縄問題を人格的利益の観点から判示した裁判例や無罪推定の原則との関係について判示した裁判例などが紹介されました。

(3) SUN-DYU氏のインタビュー

SUN-DYU氏は、約300日間にも及ぶ勾留期間を経て、最終的には無罪となりました。
長期間にわたって勾留されること自体が極めて重大な人権侵害であり、日本における人質司法の問題点が垣間見えるところではありますが、それはさておき、本シンポでは、手錠腰縄について実際に手錠腰縄を経験したことがある人ならではのお話を伺うことができました。

たとえば、手錠腰縄をしていると、腰縄に引っ張られるような形になり、手錠で両手が体の前にあることも相俟って体勢が前屈みになるため、いかにも悪いことをした人間に見えるというようなお話がありました。
手錠腰縄がまさに人間の尊厳や無罪推定の原則を傷つけるものであることを痛感しました。

(4) 山本一氏教授の基調講演

山本教授からは、「人権の普遍性をどのように実現するか?-国際人権規範と国内における人権保障の実現-」と題したご講演をいただきました。
世界で人権保障がどのように発展してきたかや、日本における人権保障の課題、日本国憲法の問題点などをご説明いただき、今後の国際的な人権保障に向けた展望が示されました。

たとえば、日本国憲法から抜け落ちている視点として、先住民の権利、外国人の権利、戦後補償問題、住国籍問題をご指摘されました。
そして、国境を超える人権保障に向けて、憲法判断における国際人権の重要性を説明されたほか、従来の思考枠組を批判的に検討する必要があることなどが示され、国際人権規範の介入を警戒する従来の思考枠組として「国憲的思惟」(まず国があってこその憲法という見方)の問題性を指摘されました。

また、人権法源について、「拘束的権威」(法的拘束力を持つ規範)と「説得的権威」(参考にする規範ではあるが、従う義務はない規範)の2つに分類する従来の考え方(二分論)を修正し、両者の間に「影響的権威」(法的拘束力を持つ規範ではないがひとまずそれに従うべき義務が生じ、裁判官がそれに反する決定を行おうとする場合には、なぜそれに従わないかについて論証する責任を負う規範)を位置づける三分論を提唱されました。

(5) 辻本典央教授の基調講演

辻本教授からは、「人権問題としての法廷入退廷時における手錠腰縄措置」と題したご講演をいただきました。
手錠腰縄措置によって侵害される利益には(1)行動の自由・人身の自由の制約、(2)防御権の侵害、(3)人格権侵害があり(大阪地裁平成7年判決:人格権=「人間としての誇り、人間らしく生きる権利」)、手錠腰縄措置による権利侵害の違法性は、(1)(2)の直接的侵害については刑事施設収容法78条や刑訴法287条の解釈論によって判断されること、(3)の附随的侵害については本質的に避けるべき権利侵害であることを指摘されました。

また、比例性原則による規律が及び、当該措置をとることの適格性+必要性+相当性が問われることや、手錠腰縄措置の目的は逃亡防止にあり暴行防止は目的外であることなどが示されました。

裁判例としては大阪地裁令和元年5月27日判決を紹介されましたが、同判決の意義として、手錠腰縄姿を公衆の面前でみだりに晒されないことの正当利益は法廷内外で違いはないこと、法定警察権を根拠とする裁判所是正義務の存在、裁量性が否定され比例制原則が適用されることを示したことにあるとご説明されました。
また、刑訴法287条の身体不拘束原則を入退廷時に拡充する立法措置の必要性などを説かれました。

(6) 北村泰三名誉教授の基調講演

北村教授からは、「法廷内での拘束具使用の禁止に向けて 国際人権法からの問題提起」と題したご講演をいただきました。

「鎖、枷、その他の本質的に品位を傷つけ又は苦痛を伴う拘束具の使用禁止」や、「司法または他の行政当局の前に被拘禁者が出頭するときは(拘束具を)外される」ことなどを定めた国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルール)についてご説明いただいたほか、「被告人は通常、審理の間に拘束具をつけられたり檻に入れられたりまたは他の方法により危険な犯罪者であることを示唆するようなかたちで出廷させてはならない。報道機関は、無罪の推定を損なう報道は避けるべきである。」とする自由権規約委員会一般的意見32をご紹介いただきました。

また、国外の状況として、ヨーロッパ人権裁判所の判例には日本の法廷内における手錠・腰縄問題に直結するものは見当たらないものの、比例性原則により過剰で必要性のない手錠の使用は人権条約違反とされることが示されていること、米国連邦最高裁判決(Deck v.Missouri事件)では、法廷内の拘束具の使用は公正な裁判の場である法廷の尊厳を侵すものであると指摘されていることなどが紹介されました。

3 おわりに

法廷の中で手錠腰縄姿を晒されることが人権侵害にあたる違憲違法なものであると考えたとき、刑事弁護に携わる弁護士の多くは、目の前で違憲違法な人権侵害行為が行われているにもかかわらず何もせずにそれをただ眺めていたことになります。まずは弁護士自身が手錠腰縄問題を認識することが必要です。

翌日4日の大会では、入退廷時に手錠腰縄を使用しないことを求める決議が成立しました。
会員専用ページに申入書の書式が用意されていますので、是非みなさんも決議に沿った働きかけを実践されてください。

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