弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物・鳥

2025年3月30日

僕には島の言葉がわかる


(霧山昴)
著者 鈴木 俊貴 、 出版 小学館

 シジョウカラは言葉を使って文を作っている。そして同じシジュウカラだけでなく、似た鳥にもその言葉が通用している。このことを軽井沢の森のなかに1人で何ヶ月も籠って観察し、ついに突きとめたのです。すごいことですよね、これって...。人間だけが言葉を使っているのではないというのです。
 そして、ジェスチャーで、「お先にどうぞ」と意思表示もしているとのこと。よくぞ見届けましたね。たいした辛抱強さです。驚嘆します。著者は今や東大准教授として動物言語学の世界的権威です。盛大なる拍手を心から捧げます。
「ジャージャー」という鳴き声はヘビを意味しているので、シジュウカラはちじょうのどこかにヘビがいないか探す。「ヒヒヒ」という鳴き声が聞こえてきたら、それはタカを見つけたときの警戒音なので、空を見上げて確認する。
エサ台にヒマワリの種を置いてあるのを見つけると、シジュウカラは「ヂヂヂヂ」、コガラは「ディーディー」、そしてヤマガラは「ニーニ―」と鳴く。群れの仲間がエサ台に集まって来ると、鳴くのをやめて、ヒマワリの種をつつき始める。鳥たちが混群をなしてヒマワリの種を食べることで、お互いに警戒行動を分担している。常に空を見張っていないと、いつ襲われるか分からないから。
軽井沢の山のなかに3ヶ月こもる。大学の山荘なので、風呂もシャワーもない。けれど、1泊500円で利用できる。3ヶ月いても4万5千円と安いもの。食料は持ち込み。肉・野菜そしてレトルト・冷凍食品など...。
 ところが、お米以外は2ヶ月でなくなってしまった。5米は5キロの白米を3袋買って持っていったので、あと1袋だけ残っている。1ヶ月間、白米だけで過ごさないといけない。片道1時間かけたら最寄りのスーパーに行けるけれど、往復2時間のタイムロス。観察・実験が出来ないので、白米だけでガマンする。白米だけの三つのメニュー。なんと、普通に炊いたごはん、お湯をかけたごはん、水をかけただけのごはん。ええっ、これだけで森の中に1ヶ月...。気が遠くなりそうです。死にはしないでしょうが、味気ないこと、おびただしい限りです。これを知ったネイチャーガイドをしている女性が気の毒に思ってキャベツ一玉を差し入れてくれた。
 著者は、このキャベツをすぐには食べず、調査が完了したときの「ごほうび」にしたのです。3ヶ月たって、いよいよキャベツを食べます。キャベツ炒めとキャベツの千切り。それを食べていると、初めのうちこそ、幸せ一杯だったのに、なぜか口内に独特の臭みが感じられるようになった。おかしい...。キャベツは美味しい。だけど、キャベツひと玉を一気に食べるものではない。いやはや、いかにも物悲い話でした。
それにしても、3ヶ月間、山の中に籠ってシジュウカラをじっとじっと見つめ、観察し、実験したなんて、若さもあったのでしょうが、とても真似できることではありませんよね...。この野外調査で体重は8キロも減り、ガリガリにやせてしまったのでした。
 さて、そこで、こんな大変な野外調査によって何が判明したのか...。
 シジュウカラのヒナは、巣箱の外の親の声を聞き分ける。カラスの時は、巣の中にいてカラスからつつかれないように、みなうずくまってしまう。そして、ヘビの時は、巣の中にいたら食べられてしまうので、巣の外へ思い切って飛び出す。ヒナは、ふ化して17日目にはもう飛べる。食べられるより、飛び出したほうがまし。こんな違いを親の鳴き声を聞き分けてヒナは行動するというのを発見したのです。すごいことです。
 ヒナは巣立ってからも、1ヶ月以上は親鳥に世話をしてもらう。
 毎年、6ヶ月以上も一人で森にこもって、朝から晩まで鳥たちと暮らす。そんな生活を何年間も過ごすなんて、並の人に果たして出来ることでしょうか...。私は出来ません。だって、寂しいでしょ。いくらなんでも森の中に一人で何ヶ月も過ごすなんて...。
 鳥をつかまえて足輪をつけ、ヘビも捕まえて実験材料にします。これまた、簡単には出来ませんよね。山荘にはツキノワグマもやってきます。
言葉を持つのは人間だけ。動物の鳴き声は感情表現に過ぎない。それを覆す事実を著者は森の中の生活で確認したのです。
 シジュウカラの「ピーツピ、ヂヂヂヂ」は「警戒して・集まれ」という意味。これを、「ヂヂヂヂ、ピーツピ」と順番を逆にすると、反応がない。
フィンランドのテレビ局から求められて日本のシジュウカラの音声を送ると、フィンランドのシジュウカラも同じ反応だった。万国共通のコトバらしい。ただし、フィンランドでは「ピーピー・ジュジュジュ」と鳴く。方言のような違いがあるのでしょうね、きっと。
 いやあ、とても面白い本でした。あなたにも一読を強くおすすめします。
(2025年2月刊。1870円)

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