弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
人間・脳
2025年4月 7日
脳の本質
(霧山昴)
著者 乾 敏郎・門脇 加江子 、 出版 中公新書
いつ、どこで、何をという情報は、頭頂葉や側頭葉に記憶されていて、海馬にはない。海馬が担うのは、各エピソードを構成している情報をまとめ、出来事の順序を記憶しておき、それらを再生する働き。
海馬は、ある時間や空間に自己投影する機能を司る。未来の自分を想像し、未来の出来事を予測するという機能も海馬にはある。海馬が損傷すると、新たに体験したことを長期記憶に保持することは出来ない。
昔の記憶は海馬に存在するのではない。記憶は海馬が単独で担うのではなく、海馬と大脳新皮質の相互作用による。
海馬には時系列を処理する機能も備わっている。海馬は、昔の体験の回想や、新しいイメージの創造に貢献している。
ヒトは、1秒間に3~4回、眼を動かして異なる対象や異なる場所を見ている。このとき、わずか数十ミリ秒(0.01秒単位)の速さで、その視点間を移動する(視線を稼動させる)。決して見たい場所を通り過ぎることはない。とてつもなく高速で、かつ精度の高い運動なのだ。
他者の行為を自己の運動に照らしあわせて理解している。
学習とは、視覚と聴覚、運動と感覚といったような、別々であった二者の事象がシナプス結合でつながること。
好奇心は、報酬とは異なり、目新しく、不確実で、複雑で、曖昧(あいまい)なものを探求しようとする欲求だ。それなら、私も大いにあります。好奇心とは、随伴性の知識をもたない新規な対象に対して働く。
自己意識は、自己主体感、自己所有感、自己存在感という三つの感覚から構成される。
脳の最重要課題は、生命の維持。ヒトは感覚を通じて世界を推論しているのであり、それを直接知ることは出来ない。
ヒトが知覚している世界は、現実の世界ではなく、予測された世界である。ヒトは、自分がつくり上げた「世界に対するモデル」にもとづいて予測する。脳は予測するための推論エンジンである。
脳の話は何回読んでも面白く、まさしく好奇心がかきたてられます。
(2024年11月刊。1100円)
2025年3月24日
SF脳とリアル脳
(霧山昴)
著者 櫻井 武 、 出版 講談社ブルーバックス新書
人間は脳の能力の10%しか使っていないという俗説は間違い。ええっ、そ、そうなんですか...。
人間の脳は何もしていないときでも、すべての領域が活発に働いている。まったく機能していない部位は脳には存在しない。
脳全体が常に活発に動いているので、特定の課題で活動が上がる部分はわずかでしかない。ぼーっとしているときでも、すべての脳領域で、活発な活動と情報交換が行われている。脳は、状況によって使う領域や神経回路のパターンを変えているが、どんな状況でも、ほぼすべての領域に活動がみられる。
脳は、右半球・左半球を問わず、全体で、もてるリソースを総動員して、情報をやりとりしながら作業している。
人間の行動は「意識」がなくても起こる。睡眠中に、起きあがって絵を描き、本人は、まったく自覚していないということが起こりうる。いやあ、そんなこともあるんですね...。
脳は成長が期待できる臓器である。脳は学習や経験にともなって変化する可塑性をもつ組織だから。
睡眠は脳にとって「休んでいる」のではなく、能動的に心身をメンテナンスしている過程。
マウスを完全に断眠(眠らせない)と、わずか4日で8割が死んでしまう。断眠は、視床下部の恒常性維持機構の破綻を招く。断眠させられると、ラットは感染症のため次々に死んでいく。免疫系の機能に重篤な影響を与える。
睡眠を断つと、脳の記憶システムにとどまらず、恒常性の維持機構や免疫系、ひいては全身の機能を狂わせてしまう。人間が眠っているとき、脳も「眠っている」のではなく、実はさまざまな作業をしている。その一つが記憶の固定化。
人間の脳は1000億もの神経細胞(ニューロン)から成り、高次機能をつかさどる大脳皮質だけで140億個のニューロンが稼働している。
人間が見ているのは、ばらばらな情報を脳が組み合わせたヴァーチャルリアリティ。たとえば、色は脳がつくり出したもので、脳がつくり出したもので、脳が感じないかぎり、色というものは存在しない。これって不思議ですよね。色は物質に付着したものばかり思っていました。でも、あの
玉色の金属光沢は複雑な構造が生み出したものなんですよね...。
情動は、脳の中の「大脳辺縁系」と呼ばれる領域が、視床下部との共同作業によって引き起こされているもの。感情を生むのは、大脳辺縁系だ。脳機能のうち、意識ののぼるのは、ごく一部だけ。
海馬は、新たな記憶をつくるために大脳皮質の働きを助ける装置。記憶後の初期の段階では、海馬がないと、記憶の成立も想起もできないが、記憶は最終的には大脳皮質、とくに側頭葉の皮質で保持され、数ヶ月から2年くらいの期間を経て、海馬の助けがなくても、大脳皮質から取り出し、前頭前野で認知できるようになる。これが長期記憶だ。
脳の話は、いつ聞いても(読んでも)面白さにみちみちています。今回も、とても刺激的な内容でした。
(2024年12月刊。1100円)