弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

中近東(アラブ)

2022年5月19日

サウジアラビア


(霧山昴)
著者 高尾 賢一郎 、 出版 中公新書

サウジアラビアって、どんな国なのか、行ったこともありませんし、これから行くこともないでしょうから、とんとイメージが湧きません。それで、手軽な新書を読んでみたというわけです。
サウジアラビアはアラビア半島の大部分を領土とする王制国家で、日本の原油輸入量の3割強を供給する産油大国。また、メッカとメディナという二大聖地を擁するイスラーム世界の盟主とされている。
イスラームは、ユダヤ教やキリスト教と同根のセム系一神教である。
イスラームという宗教は、ムハンマドに啓示を授ける以前から存在し、ムハンマドが開祖というわけではない。ムハンマドは、自らを最後の預言者と表明していた。また、預言者のうち、神から授かった啓示を人々に伝える役割を負った者を使徒と呼ぶ。したがって、ムハンマド以降は、預言者も使徒も存在しない。
サウジアラビアには、数千あるいは数万とも言われる多数の王族が存在する。このため、サウジアラビアの王室は、親族のあいだで、いかに権力を分散させ、共存するかを課題としてきた。
さらに、サウジアラビアは建国当初より王室は宗教を職掌としてこなかった。サウジアラビアは政教一致国でありながら、政治権威と宗教権威を厳密に分ける政権分離国家でもある。
ムハンマド・イブン・サウード初代国王の子孫をサウード家といい、4500人もいる。この王族のなかにも権力の中枢にいる人と、そうでない人がいる。
そして、シャイフ家という宗教の名家が正統性を与えることで、王制が維持されてきた。
サウード家は、自らの権威を強化するためにシャイフ家と婚姻を重ね、さらには、アラビア半島征服の過程で、各地の有力部族の顔役とも婚姻を進めることを支配の方法とした。
アラムコを国営企業としたことで、サウジアラビアは国有財産としての石油の収益を一手に握り、これを国庫に収めることで国家財政を潤してきた。石油部門による収益は、国家歳入の7~8割、GDPに占める割合は1979年に87%超だった。
この潤沢な資金によって、政府は国民に税金を課さず、一方で手厚い福祉や補助金政策を用意することができた。
サウジアラビア人労働者の3分の1は、公務員、公共部門の労働者の7割を占める。逆に、民間部門に働く人が少ない理由は、産業の少なさにある。
サウジアラビア国内のシーア派は人口の10%強。シーア派はワッハーブ主義からみて異端と呼べる存在。スンナ(スンニ)派は、預言者ムハンマドの言に従う人々。これに対してシーア派は「従わない人々」の筆頭。
9.11の首謀者としてアメリカに暗殺されたオサマ・ビン・ラディンは、サウジアラビアの大手ゼネコンのビン・ラディン・グループの経営一族の出身。ただし、サフワの主流だった知識人層には該当しない。
世界には、さまざまな国があり、多様な考え方が存在することを実感させてくれる本でもありました。
(2021年11月刊。税込902円)

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