弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

2012年1月10日

60歳からのマジック入門

著者   麦谷眞里 、 出版  東京堂出版

 私はマジックにとても興味があります。ハウステンボスに泊まったとき、2度ほど大がかりなマジックショーを見ました。舞台の上でオートバイに乗っていて、姿が消えたと思ったら、会場の奥、舞台の反対側からオートバイに乗って同じ人物が姿を現すのです。まさに瞬間移動術です。これんなことが出来るのなら、飛行機なんて不要ですよね。ドラえもんの「どこでもドア」と同じなのですからね。私も欲しいです。
 そして、いかにも重たい本物のゾウが舞台(地面そのものです)にいて、そのゾウの周囲を大きな鏡で取り囲んでしまいます。そして、鏡を開け放ったときには、なんとゾウの姿はどこにも見当たらない。そんなマジックに驚嘆しました。
 東京には手品ショーを身近でやってくれるスナックがあります。知り合いの弁護士に連れていってもらいました。お札がどんどん増えていく手品もあります。これじゃあ、まともに働くことなんてバカバカしくなってしまいますよね。こんなのマジックの種明かしをぜひ知りたいと常々思っているところに、本書を手にしました。
 著者は、なんと厚生労働省の現役官僚で、日頃は高齢者対策に関わっています。そして、マジック歴50年という医師でもあります。つまり、子どものころからマジックに取りつかれた人なのでした。
 マジックは、見ている観客が錯覚を楽しむ高尚な娯楽である。
 手を目より早く動かすことはできない。観客が実際に見ているものや見えているものが大事なのではなくて、観客の「心」が本当に何を見ているのかが重要なのだ。観客の「心」を別方向に誘導することに成功すれば、どんなマジックも上手に演じることが出来る。
 観客の「心」の誘導は、実は、人生経験が豊富な人ほど巧みなのだ。だから、マジックを60歳から始めるのは時宜を得ている。うむむ、そうなんですか。といっても、私のように不器用ではむずかしいのでしょうね・・・。
 マジックは、これから何が始まるのかをあらかじめ観客に言わないのが大原則である。ハンカチーフを丸めて握った手のなかに入れていくと、手を開いたときには卵になっているというマジックのタネ明かしがされています。なーんだ、そういうことだったのか、というネタです。
 また、コップのなかの大量の牛乳を丸めた新聞紙に注ぎ込んでいき、その新聞紙を開いてみると、どこにもミルクがない。ミルクは、いったい、どこに消えたのか?
このネタ明かしは、コップが2重になっていて、大量のミルクと見えたのが錯覚なのでした。やっぱり、何にでも、タネも仕掛けもあるのですよね。
かなりの練習を必要とするようですし、私には向いていないと思いますが、そうは言っても、マジックの一つくらい身につけておいて、若い女性の前で披露して注目を集めてみたいものなんですが・・・。
(2011年9月刊。2500円+税)

 明けましておめでとうございます。
 今年も引き続きご愛読ください。
 正月休みに恒例の人間ドック入しましたが、今年はなんと肥満と診断されてしまいました。ガーン、ショックです。体重がそれほど増えていないのですが、お腹まわりがぷっくらしています。いま注目のタツノオトシゴはオスが子育てするので、ぷっくらでもメスにモテるそうですが、今さらお腹ぷっくらでもてても仕方ありませんよね。なんとかウエストを減らすつもりです。
 お正月はせっせと庭づくりに励みました。おかげで庭がすっきりしています。春に向けての手入れが欠かせません。
 いま黄色いロウバイの花が盛りです。ジョウビタキの姿を見かけるのが少ないのが残念です。
 今年が良い一年であることを願っています。

2012年1月 9日

アメリカのスパイ・CIAの犯罪

著者  山田 善二郎 、 出版  学習の友社  

著者は日本国民救援会の元会長です。24歳のころ、CIAに雇われて働き、拉致・監禁されていた鹿地亘(かじわたる)を救出することに一役買ったのでした。
 拉致したのはGHQの秘密諜報機関であるキャノン機関とCIA。海岸を散歩中の鹿地を拉致して都内に監禁していた。これって、まったく北朝鮮がやったことと同じですね。
 著者はキャノン機関でコックとして働いていた。鹿地の状況を同情して救出に動いたのであって、そこには思想的な背景はなかった。左派社会党の猪俣浩三代議士が国会で追及したおかげで、鹿地は無事に解放された。
 キャノン機関の本拠地は東京・湯島の岩崎邸にあった。私が40年ほど前に通った司法研究所も、その一角にありました。
キャノン機関は朝鮮戦争で捕虜となった中国人をスパイとして教育し、中国本土へ送り込む仕事もしていた。その数は200人をこえる。しかし、これはことごとく失敗したとみられている。
 キャノン機関は日本の警察幹部を招いてのパーティーをよく開いていた。
著者がCIAやキャノン機関の力を恐れつつ、鹿地救出に奔走する実情が生々しく紹介されています。まさに手に汗にぎる場面の連続でした。
 アメリカも、日本の国会で追及された以上は、鹿地を手放さざるをえなかった。
 それにしても不甲斐ないのは日本の警察です。明らかに日本の主権を侵害しているのに、アメリカに対して抗議の声をあげようとはしませんでした。昔も今も、日本の当局がアメリカべったりなのは変わりませんね。残念です。
 60年も前の事件ですけれど、今も同じようなことはきっと起きているのでしょうね。

(2011年6月刊。1333円+税)

2012年1月 5日

原発崩壊

著者   明石 昇二郎 、 出版   金曜日

 この本を読んで、既に10年前にフクシマと同じような事態がハマオカで起きたと想定して、どのような事態になるか週刊誌がシミュレーションしていたことを初めて知りました。
 2001年3月の「サンデー毎日」です。4週にわたって、「シミュレーション・ノンフィクション、『原発震災』」という連載記事です。東海大地震が起きて、中部電力浜岡原発で大事故が発生したら、日本がどうなるかをシミュレーションしました。ハマオカをフクシマに置き換えると、今回の3.11震災事故の実況中継になってしまいます。
 浜岡原発の事故は、殺人レベルの放射線を放ちながら移動する「放射能雲」を生み出した。折から吹いていた南西の風に乗り、時速14キロという自転車くらいの速度で、ゆっくり首都・東京を目ざす。放射能雲が上空を通過したからといって、バタバタ死んでいくわけではない。やみくもに動き回るほうが、かえって危険だ。
 通過予想地域とされた地区の住民は、危険が刻々と迫り来るなか、今すぐ逃げるべきかどうか、それともここにとどまるべきかの判断に迷う。せめて子どもにだけでも甲状腺被害を防ぐためのヨウ素剤を服用させるべきだが、とても足りない。
 昼夜動きを止めないはずの1200万都市・東京から人影が突如として消え、沈黙の時が流れる。その結果、交通機関をはじめとする都市機能や企業などの経済活動が完全に麻痺してしまった。原発事故発生から半日以上が経過し、「雲」は消失して放射性ガス群へと変わっていた。しかし、肉眼で見ることができないだけで、そこには確実に大量の放射能が漂っていた。
 見えない「雲」が太平洋上に去ったとき、静寂に包まれていた東京は一転して、大パニックに陥った。これ以上の被曝を恐れた人々が、東京からの脱出を一斉に開始したのだ。
 東京の汚染レベルは、7日後に都民全員が避難したとしても、210万人全員がガンで死亡するほどのものであり、東京に住むすべての人が避難対象となった。その場にとどまり続ければその分だけ、発ガンのリスクは増していく。
東名高速で西に逃げる人は一人としていない。事故を起こした浜岡原発に自ら近づいていくことになるからだ。
 政府の原子力災害被害本部は原発震災発生の翌日、東京から大阪に移された。
 震災発生後、1週間たって、東京は完全なゴーストタウンと化し、人の住めない東京の不動産物価はゼロとなった。原発震災による損害額は1週間で天文学的な数字に達し、世界恐慌すら懸念され始めた。
 浜岡原発の放射能を封じこめるため、決死隊が募られた。人海戦術しかない。第一陣の決死隊は5000人。最終的には数万人規模と予測される。ソ連のチェルノブイリ原発事故のときには86万人が作業に従事し、5万5000人が死亡したと伝えられている。
 今回の3.11フクシマ原発事故による放射能雲が東京に飛来したことは間違いありません。東京に人が住めなくなったら日本経済の中枢が破壊されたことになります。こんな狭い日本に50あまりも危険な原発をつくるなんて狂っていますよね。電力不足なんて問題じゃありません。すぐにも脱原発に切り換えましょう。
(2011年5月刊。1500円+税)

2012年1月 3日

書くことが思いつかない人のための文章教室

著者   近藤 勝重 、 出版   幻冬舎新書

 書くことが大好きで、いつもモノカキと名乗っていますので、少しでも文章表現の幅を増やしたいと思っています。文章絵本も、そんなわけで、ときどき読みます。この本にも、参考になるところがたくさんありました。この本で示された例題については、あまり出来が良くなかったのが残念です。
書くって、しんどいと言えばしんどい作業だ。でも、書いたことで意外な発見があったり、人生の進路や生き方の再発見があったり、得られるものは貴重だ。それに、文句一つ言わずに自分を受け入れてくれるのは、文章のほかにそれほどたくさんはない。書いて、もやもやした気持ちを晴らす。
 これは、そのとおりだというのが私の実感でもあります。気力と、それを支える体力がなければ、この書評を書くことなんて出来ません。その意味で、この10年間よくぞ続いているものだと、我ながら感心します。
 全体から部分へ、そして細部へと三点注視で目を移すのが肝要だ。とりわけ細部である。全体の感じは、誰が見てもそんなに変わるものではない。でも、部分からさらに細部を気をつけて見ているかどうかの差は歴然と出る。細部には、そこに本質や表面から分からない実態が潜んでいることがある。そのことに気がつく、気がつかないという差は大きい。
 細部にこそ、物事の神は宿る、よくこのように言われますよね。
文章力をつけるには、思う、考える、感じる、を多用しないこと。それを他の表現に変えてみる。それで、文章が客観的になり、かつすっきりする効果がある。
 私も努力しているところです。なかなか難しいのですが・・・。
(2011年6月刊。760円+税)

2012年1月 1日

原発の闇

著者  赤旗編集局    、 出版  新日本出版社  

 その源流と野望を暴く、こんなサブタイトルのついた本です。
 佐賀県の古川知事がやらせメールの発端なのは明らかだと思いますが、古川知事は辞めませんし、九電の会長も社長も居座ったままです。それどころか、国会はベトナムなどへの原発輸出を認可するなど、この国はいったいどうなっているのか、不思議かつ奇怪と言うほかありません。ドイツのようにすんなり脱原発と動き出さない、出せないほどの利権のしがらみは大きいということなのでしょうね。
 玄海原発訴訟の原告への加入を訴えると、家族に九州電力の関係者がいたら、まるで話になりません。それだけ九電が怖い存在なのですね。
停電は困るが、原子力はいやだ、という無視のいいことを言っているのが大衆である。
 繰り返し繰り返し広報が必要である。新聞記者も、読者は3日すれば忘れる。繰り返し書くことによって、刷り込み効果がでる。政府は原発容認意識を国民に刷り込んできた。原発推進のために税金からでている原発の広報費は毎年60億円規模にのぼる。すごいですよね。この60億円が福祉にまわせたら助かる国民がどれだけいるでしょうか・・・・。
 60億円の広報費によって恩恵を受けているのは、大手広告代理店の電通、博報堂そして産経新聞社などである。メディア業界にとって、電力会社はスポンサーとして超優良企業である。大手メディアは、完全に電力業界に取り込まれている状況にある。
いやですね。自民党は電力会社本体が支え、民主党は電力労連が支えていて、どちらも脱原発を明確に言い切れないのです。困ったことです。
 会社も労組も、人あっての企業であり、組合であると思うのですが・・・・。
(2011年11月刊。1200円+税)

2011年12月31日

仏教、本当の教え

著者  植木 雅俊  、 出版  中公新書  

 目からウロコの仏教の本です。
 歴史上の人物としての釈尊はまったく女性を差別していなかった、釈尊在世のころの原始(初期)仏教の段階では、女性出家者たちが男性と対等にはつらつとした姿で修行に励んでいた。ところが、中国に入ったとき、男尊女卑の儒教倫理を重んずることから、女性を重視した箇所が翻訳改変されていった。
インド人はみんな北枕で寝ている。北枕で寝るのは日本と違って、生活習慣なのである。中国には北枕という言葉自体がない。
結婚式に、インド人は蓮の花を持参する。もっとも目出たい花として。
現在のインドには、仏教徒は人口の0.8%しかいない。
仏教の三つの特徴。
第1.仏教は徹底して平等を説いた。
第2.仏教は迷信やドグマや占いなどを徹底して排除した。
第3.仏教は西洋的な倫理観を説かなかった。
   仏教徒は最後までカースト制度を承認しなかった。これがインドに仏教が根をおろせなかった理由の一つになっている。釈尊は、人を賤しくするのも、貴くするのも、その人の行為いかんによるとして、「生まれ」による差別を否定した。
釈尊の弟子のなかに女性出家者が13人、在家の女性が10人いた。これらの女性の名前が、中国そして日本に伝わることなく削除された。教団の権威主義化にともない、在家や女性は軽視されはじめた。
  仏教は「道に迷ったもの」に正しい方角を指し示すものであって、道を歩くのは本人であるという前提がある。仏教は暗闇のなかで燈火を掲げるようなものだ。なーるほど、これだったら、仏教を信じたくなりますよね。
 ところが、日本には、分からないことイコールありがたいことという変な思想がある。そうなんですよね。わけの分からない教えだからこそありがたいというわけです。いわば呪術的に信仰するのです。これでは広がりがあろうはずはありません。だって、要するに分からないのですから。
釈尊は王制ではなく、共和制を重視していた。日本では仏教用語や哲学用語が、安易でおかしな方向に引きずられてしまいがちだ。哲学的・思想的対決を真剣にやろうという姿勢があまりない。
 サンスクリット語の原典からひもといて、中国の訳そして日本語訳を比較して論じられています。すごい学者です。巻末の著者紹介をみると、ほとんど同世代ではありますが、私より若いということに衝撃すら覚えました。学者は偉いです。
 あなたもぜひ手にとってご一読ください。仏教を語れなくて日本人とは言えませんからね。
(2011年11月刊。800円+税)

2011年12月27日

暴力団

著者   溝口 敦 、 出版   新潮新書

 私の住む町では、暴力団員のことをヨゴレとも言います。まさに、社会の汚れた部分です。でも、大企業を先頭として、日本人は暴力団をすぐに「利用」したがります。もちろん、財界だけではありません。政治家も芸能界も暴力団との結びつき(汚染度)はとても濃厚です。ゼネコンは暴力団抜きには存在自体がないのではないかと思えるほどです。
 日本社会の暴力団とアメリカ社会のマフィアとの最大の違いは、公然性と非公然性にある。アメリカの組織犯罪は、まさしく徹底した秘密組織である。ところが、日本では、暴力団が事務所を町の一等地に堂々と開設している。
 アメリカのことは知りませんが、日本では暴力団事務所は町なかに堂々オープンしています。神戸にある山口組本部の事務所は神戸地裁のすぐ近くにあるようですね。
 私の住んでいる町でも、天下の大企業が戦前より一貫して暴力団を養ってきたことで有名です。労働争議の起きたときには、子飼いの組員がドスを持って労働者を脅しまわり、ついには殺傷事件まで起こしました。
 この本にも指摘されていますが、公共事業の結合も暴力団が裏で取り仕切っているのが実態です。市長と市議会議長そして警察署長が肩を並べて暴力追放パレードを時折していますが、ほんの形ばかりです。決して本気で談合を取り締まったり、暴力団を壊滅させようとはしていません。残念です。
 暴力団が強いのは、なんといってもお金を持っているからです。この本は、暴力団は今や青息吐息としていますが、不景気の続く私の町でも暴力団だけは、なぜか依然として金まわりが良いのです。覚醒剤だけでなく、みかじめ料そしてヤミ金などのあがりがあって、さらに夜の街を支配しているからなのでしょう。
 この本によると、産業処理業も、うまい事業のようです。
暴力団員は長生きできない。たとえば、刺青を入れると、そのためC型肝炎に感染することが多い。針やインクを使い回すからだ。肝臓病や糖尿病も多い。
 暴力団は辞めたい、抜けたいという者をあっさりとは認めない。脅し、難題を吹っかけて、お金を巻きあげようとする。組員の暴力団からの離脱は、脱サラの何倍も困難だ。
 組長でさえ、なかなか引退せず、組を抜けたがらないのは、実は抜けるのが恐ろしいから。組を抜けるともとの若い衆は寄りつかないどころか、逆に元の親分からお金をむしり取ろうとする。元組長は、お金をよほど巧妙に隠していないと、元子分の若い者に食われ、丸裸にされてしまう。
 組を辞めた者に対しては徹底的に踏みつけにして、びた一文残さないほど、むしり取る。これが日本の暴力団の流儀である。やめた者は裏切り者だという認識がある。うへーっ、これって怖いですね。元組長って、安穏と隠退生活を楽しんでいるものとばかり思っていました。
 日本の暴力団対策法は、暴力団と警察が共存共栄を図る法律ではないのか。なぜ、暴力団は違法だと国会は頭から決めつけなかったのか・・・?
 暴力団という組織犯罪集団の存在を認める法律を持っているのは、世界広しといえども日本だけである。
 うむむ、暴対法って、やっぱり暴力団の存在を前提とした法律なのですね。おかしなことですね。暴力団とは関わりたくはありませんが、仕事上で、どうしても時折、接触せざるをえません。チンピラのすご味もそこそこ脅威です。暴力団の実態を知る手引書として一読の価値があります。
(2011年6月刊。760円+税)

2011年12月24日

おれたちの青空

著者  佐川 光晴       、 出版  集英社   

 親に見捨てられた子どもたちが世の中にたくさんいます。児童相談所も児童養護施設も残念ながら大繁盛しています。
 そして、中学生までしか児童擁護施設にはいれません。ではどうするか?
中学を出たら自活するしかない。そうはいっても、16、7歳の若者がつける仕事なんて、世の中にはほとんどない。そこで、職員は、なんとか高校へ進学させて、18歳まで施設で面倒をみようとしている。
 この本は、そんな児童養護施設が舞台となっています。どんな背景を持った子どもたちなのか。その親は何をしていたのか。そして、養護施設を運営している大人(女性)は、いったい、なぜ、どんな思いで、このしんどい仕事を毎日続けているのか・・・・。
いろんなストーリーがからみあって話は多面的に進行していきます。日本の社会が有名な大学に入るだけでは幸せな将来を約束するものではなくなっていることも強く示唆されています。それでも、やっぱり学歴偏重の社会です。
 子どもたちにとって、真に自立して生きていく力を身につけることがもっとも大切なことだと、みんなで、もっと強調する必要があるように思います。
 橋下徹は、きっとこんな教育現場なんて、まったく無駄だ、不要だと、バッサリ切り捨ててしまうのでしょう。恐ろしいことです。それは、みんなで支えあう社会づくりと真向うから対立するものです。橋下徹流の「自己責任論」は、結局、日本という国の力を全体として弱めるものでもあります。だって、強い人だけが富めばいいというのでは、おおかたの国民はしらけてしまうばかりでしょうし、国民のまとまりがなくなりますからね。
(2011年11月刊。1200円+税)

2011年12月23日

カジノ解禁が日本を亡ぼす

著者   若宮 健 、 出版   祥伝社新書

 今後、大阪市長になった橋下徹は府知事のとき、次のようにいってギャンブルを礼讃しました。
 「日本はギャンブルを遠ざけるがゆえに、坊ちゃん、お嬢ちゃんの国になった。小さい頃からギャンブルをしっかり積み重ね、国民全員を勝負師にするためにも、カジノ合法化法案を通してください」
 信じられない暴言です。子だくさんで有名な橋下徹が、自分の子どもをギャンブル漬けにするのは勝手でしょうが(我が子を本当に勝負師にしようと考えているのでしょうか・・・?)、子どもをみな勝負師になんて正気の沙汰ではありませんよね。
ギャンブル依存症はパチンコ依存症をふくめて病気なのである。パチンコ依存症による被害は恐ろしいものがあります。橋下徹は、そのことに故意に目をつぶり、ギャンブル業界のために笛吹きピエロになっています。
 大阪にカジノをつくることを呼びかけるなんて、一見目新しいようですが、実はいかにも古くさい政治手法です。自分と、その取り巻きだけでよければいいという、エゴむき出しの発想を感じます。
 マカオは、ラスベガスを抜いて世界一のカジノ王国となった。しかし、世界一といっても、売上高は2兆円にみたない。日本のパチンコ業界の売上高20兆円の1割でしかない。パチンコ店で業界トップのマルハンの売り上げは2兆円を超しているので、一社でマカオを陵駕している。日本は、すでに世界一のギャンブル大国である。
 カジノをつくって日本人が幸せになれるはずはありません。カジノ解禁は日本社会に今以上の混乱と貧困そして犯罪をもたらすだけでしかありません。韓国でもパチンコやカジノは規制されました。日本でもパチンコ店の規制は強化すべきなのではないでしょうか。
 著者から贈呈していただきました。引き続きのご健闘を期待しています。
(2011年11月刊。760円+税)

2011年12月21日

権力VS調査報道

著者  高田 昌幸 ・ 小黒 純     、 出版  旬報社   

読んでいるうちに久々に血の沸き立つ思いがしました。さすがプロの言うことは違います。マスコミ人は、ここまで徹底したプロ意識をもって権力と対峙してほしいと強く思ったことでした。西山太吉記者は国会議員をうっかり信用してしまって、大変なことになりました。
 アメリカの有名なボブ・ウッドワード記者はディープスロートが名乗ったあと、彼が情報源だと認め、さらに本まで書きました。このことについて、著者は厳しく批判しています。取材源の秘匿がなっていないというのです。本人が認めても、ときと場合によっては知らぬ存ぜぬを貫き通すべきことがあるというのです。
 20年前、朝日新聞社の広告収入は年2000億円、読売しんぶんは1500億円。ところが、発行部数は朝日800万部で、読売は1000万部と、200万部の差がついていた。朝日の広告単価は読売に比べて非常に高かった。
調査報道に国民が共感すると、内部告発に結びつく。内部告発がもっとも多かったのは談合である。
 取材するときには、録音テープを必ずとる。それも隠しどりである。ニュースソースの秘匿とオフレコは必ず守る。
 今、朝日新聞は、政治部と経済部と社会部の合同チームをつくった。著者は、そんなことは「ナンセンス」と言い切る。
 当局は、ジャーナリズムを使って情報を操作している。
いま、しんぶんは未曾有の危機にある。アメリカでも調査報道はまったく衰退している。インターネットによる広告収入はペーパー広告の1割にしかならない。紙をやめて新しいサイトで飯食っていくには言葉でいえても、実際に計算してみれば、きわめて難しい。
訴えられることに、社内の上級幹部はあまりに臆病になりすぎている。
一つのものを徹底的にすべて掘り尽くせば、調査を徹底すれば、そのこと一つですべての真実を尽くせる。世界を知るのに、世界を回る必要はない。自分が立っているそこを深く掘れば、真実はそこに全部ふくまれるものだ。なーるほど、そういうことなんですよね・・・・。
 大阪地検特捜部であった証拠のフロッピー書き換え事件をどうやって調べていったのかは迫真の出来事でした。証拠の改ざんなんて、「想定外」のことですからね。
 ほかにもリクルート事件、沖縄の地位協定関連の秘密文書、高知県のカラ出張と解同ヤミ融資が調査報道されるまでの緊迫した状況が語られています。
 いまでしたら、原発がらみでもっとインパクトある報道をしてもらいたいものです。「今すぐには人体への影響はない」という大本営発表ばかりをマスコミ、とりわけテレビがたれ流ししているようでは、責任を果たしたとは言えません。なにしろ、国家の政策として、本当は危険な原発を推進してきたのにマスコミは応援してきたわけですからね。もう少し、ざんげの意味をこめて、本質と問題点を深く掘り下げていいように思います。そうしない限り、依然として電力会社の御用新聞じゃないとはいえませんよね。一読に値するいい本です。
(2011年10月刊。2000円+税)

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