弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年3月27日

裁判官、当職もっと本音が知りたいのです

司法


(霧山昴)
著者 岡口基一・中村真ほか 、 出版 学陽書房

 九弁連主催の研修会で著者たちが語ったものが第一部となり、第二部として追加の座談会がもたれ、そこでの問答が紹介されています。とても実践的な内容で、すぐ今日から役に立ちますので、本書が発刊後たちまち増刷されたというのも納得です。
 裁判官には二つのタイプがあること、高裁(控訴審)の1回結審を前提として、控訴理由書をどう書くか、裁判官はどのように事件を処理しているのか、まさしく弁護士なら誰でも知りたいことが明らかにされています。
 私は長らく裁判官評価アンケートに関わっています。この回収率は単位会によってひどいアンバランスがあります。宮崎の9割、熊本の8割が突出していますが、福岡や北九州では2割に達しません(筑後部会だけは5割)。回答率が低い理由の一つに、担当裁判官の氏名を知らないので、アンケートに回答できないということがあげられます。自分の裁判を担当する裁判官の氏名を知らないということは、裁判官のタイプそして傾向も知らないということです。でも、裁判官の性向を知らず、自分の言いたいことを言ったら、あとは裁判官にすべておまかせというのはプロフェッショナルの弁護士としてあるまじきことなのです。ぜひ、裁判官評価アンケートにも協力してください。
 裁判官には、相対的真実派と実体的真実派の二つのタイプがある。これを見分けるには、日頃から裁判官について情報を共有すること。そうなんです。裁判官をよく見きわめる必要があるのです。「敵」を知らずして勝てるはずはありません。
 主張は要件事実でいき、立証はストーリーでいく。
準備書面にアンダーラインを引いておく必要はない。普通の文章を普通の感じで書くのが一番。読み慣れている書式が一番。といいつつ、この本は大事なところは、ゴシック(太字)になっています。
 攻撃的な表現の書面は裁判官は迷惑に感じるだけ。
書面は短いにこしたことはない。意味もなく長いのは時間のムダ。
 裁判官は1週間前に提出されると1回目はざっと見て、期日の前日にちゃんと読む。1週間前に提出されると、裁判官は考える時間が確保できる。期日の直前に提出する弁護士が今なお少なくありません。当日の朝に提出されることも珍しくはありません。私は1週間前の提出励行を心がけています。
裁判官は証拠はあまり見ないが、証拠説明書はしっかり見ている。
 裁判官は訴状でファーストインプレッションを持つ。そして、しばらくその心証に拘束される。
 とはいえ、証人尋問によって裁判官が心証を変えることはよくある。本人の顔を見て人柄を見抜く。尋問で、裁判官は自分の心証に間違いないかを検証している。
 陳述書で裁判官の心証をとり、尋問には頼らない。陳述書が始まったときは、私も大いに懐疑的でした。でも、今は活用しています。やはり、なんといっても便利なのです。
 裁判官にとって、当初の心証が変わらない事件は多い。
控訴審裁判官は、起案マシンのように毎日起案を強いられているので、基本的に控訴棄却、原判決維持で書きたいもの。
最終準備書面は、証拠評価であれば、裁判官は参考にする。新しい主張であれば時機に遅れたものとして、問題にもされない。
 裁判官は録音は聞かないが、短い動画なら見る。
 控訴審において、原判決の心証をいかに崩していくかも語られていて、いくつかのパターンが紹介されています。大変勉強になりました。
この本の作成にあたっては佐賀の半田望弁護士が大活躍しています。
(2025年3月刊。3300円)

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