弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年3月 2日
インド沼
インド
(霧山昴)
著者 宮崎 智絵 、 出版 インターナショナル新書
インドに行ったことはありませんが、インド映画はそれなりに観ています。面白いからです。
『ムトゥ踊るマハラジャ』の踊り、大勢で所狭しと乱舞する姿に圧倒されました。『バーフバリ伝説誕生』も『RRR』も、そのスケールの大きさに思わず息を呑みました。
インド映画は今や日本だけでなく世界的に評価され、ヒットしている。
1857年に起きたインド大反乱をイギリス東インド会社軍が鎮圧し、ムガル帝国は滅亡した。そして1877年にイギリスのヴィクトリア女王を皇帝とするインド帝国が成立した。その実質はイギリス帝国の一部として、植民地になったということ。
『RRR』は、このインド帝国時代を舞台としている。
公開処刑は、民衆に恐怖の感情を植え付けるとともに、貴族の娯楽でもあった。
インドでは、法律上はともかくとして、現実には今なおカースト制が生きているようです。不可触民(ダリット)は人口の10~15%を占めている。
アンベードカルは、不可触民のコミュニティに生まれ、イギリスで博士号と弁護士資格を得た。差別を嫌って、ヒンドゥー教から仏教へ集団改宗したときのリーダーになった。インド独立後、法務大臣となり、インドの憲法起草委員長にもなった。
世界で一番映画を制作しているのはインド。年間2000本近い。アメリカは660本(2017年)。インドでは映画のチケット代が安く、庶民の娯楽。
インド映画には、突然、群舞のシーンが必ず登場してくる。ラブシーンでキスをするのが忌避されるので、その代わりに情熱的に踊って愛情を表現する。そもそもインドの演劇論では踊りも演劇の一部である。
インド中西部の都市ムンバイは旧名ボンベイなので、そこからハリウッドをもじって「ボリウッド」と呼ばれ、映画制作が盛んな都市になっている。
映画館では、観客が一体となって映画に入り込み、喜怒哀楽を共有する。
ヒンドゥー教では結婚は義務とされている。離婚はなかなか出来ない。親による結婚のアレンジは当たり前。結婚の相手が見つかって次の問題が持参財(ダウリー)。法律では禁止されているものの、現実には伝統なので続いている。花婿側は花嫁側に対して、年収の3倍も要求する。なので、娘が3人いると親は破産すると言われている。
親に結婚を反対された恋人が駆け落ちすると、探し出されて殺されることがある。これを名誉殺人という。この名誉とは、親や親戚にとっての名誉。
結婚式の日取りは星占いで決める。3日から7日もかけるので、年収の3倍から4倍も費用がかかる。
シク教徒の草本山の黄金寺院(ハリマンディル・サーヒフ)では、毎日10万食の食事が巡礼者や訪問者に無料で提供される。いやあ、これはすごい規模ですね。
日本の子ども食堂や大人食堂はとてもかないません。シク教はカーストを否定しているため、共食(共に食事を共にする)のを大切にしている。
ガンディーは、イスラム教徒の肩をもつ裏切り者とされ、ヒンドゥー原理主義集団民族義勇団のリーダーから暗殺された。
トイレは不浄であり、排せつ物はけがれているという意識から、トイレを家内どころか家の敷地内につくることすら拒否反応がある。トイレは野外ですればいい、するものだという感覚です。それでは女性は大変です。
女性の生理用ナプキンをインドに普及させた男性をモデルとした実話ベースの映画『パッドマン』は、私も観ました。
インドでは高学歴が尊重されるので、大学入試も卒業するのも大変。それで、学生の自殺が多い。15~29歳の年代層では自殺が死因のトップになっている。年に1万3千人をこえる。
『ダンガル』という映画も観ましたが、これは、女性のレスリング選出がオリンピックで活躍する話です。
映画を通じてインドという国のリアルを知ることができました。
(2024年8月刊。940円+税)