弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年2月26日

ルポ超高級老人ホーム

社会


(霧山昴)
著者 甚野 博則 、 出版 ダイヤモンド社

 入居一時金が3億円、そして毎月の支払額が70万円という老人ホームが東京にはあるそうです。高級どころではありません、スーパーリッチ層が入居する、文字どおり超高級の老人ホームです。
 さて、そこではどんなサービスが受けられるのか、本当にそれだけの大金を支払う価値があるのか、住み心地は本当にいいのか...。いろいろ疑問が湧いてきますよね。
 もちろん、私はそんな大金なんてもっていませんので、自分が入るつもりで、この本を読んだのではありません。私の知らない別世界を少しのぞいてみたかったのです。
 5億円以上の金融資産をもつ超富裕層が日本には9万世帯いる(2021年)。
 東京・世田谷の老人ホームは入居一時金が4億7千万円。うひゃあ、す、すごーい...。月々の生活費は夫婦で80万円。ここに入居する人は入居一時金の3倍ほどもっているのが条件のようです。つまり、15億円もっている人です。いやはや、そんな大金をもっている人が日本に「ごまん」といるというわけです。田舎にいると、とても信じられない金額ですが、そんな人たちがきっといるというのだけは断言できます。
 ここは3000坪の敷地に10階建ての中規模マンション風。150室あって、定員は200人。麻雀が圧倒的に人気で、陶芸工作室のため、専用の窯(かま)まで備えている。
 ここには、財界の大物たちが入居している。入居者のうちに10人ほど亡くなっている。空室は、わずかに10部屋。入居できるのは70歳から。
この施設に介護職として勤めている人は給与は23万円から27万円ほどでしかない。やっぱり給与は安いというしかない金額ですよね。
 全国的に、老人ホームの入居者は女性のほうが多い。
 東京にはタワーマンション型の高齢者対応マンションがある。地上31階建てで、銀座三越まで歩いて30分で行ける。
 共同生活に向かない人は、自分を優先してくれと求める人。また、スタッフを指名する人も入居を断っている。
 ある超高級老人ホームの入居者のうち8割が、自宅を残したまま。安心感のためらしい。ところが、実は看板倒れの、暴力団が裏に潜んでいるような超高級老人ホームがある。
 経営者が介護職員の人員配置基準の数をごまかしている施設は珍しくない。調理場には窓がなく、一種しかない調味料はカビだらけ...。いやはや、なんとひどいことでしょう。
 介護職員も低い賃金で、そのうえ自由がないので、人員を確保するのに苦労している。そりゃあ、そうでしょう...。
 高級老人ホームで、「高級」とは何か...。それは友だちが出来る環境がととのっているかどうか。なるほど、ですよね...。
 この本の結論は、超高級老人ホームは決してユートピアではない、ということです。
 「高級」とは、客を錯覚させるための巧みな演出があるかどうかだ。なーるほど、ですよね。勘違いしている人って多いですよね。
 インタビューしてまわった著者自身は、ごく普通の暮らしを過ごし、今までどおりの人間関係を保ちながら老後を過ごせたら、それでいいと考えています。私も基本的に同じです。老後に、田舎で花や野菜を育てるのもいいですよ。それも、もちろん元気なうちだけですが、老後の楽しみを若いうちから自分にあったものを確保しておくことがとても大切です。私の場合は、それは本を読み、そして書くことです。
(2024年8月刊。1760円)

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