弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年2月16日
世界の果てまで行って喰う
社会
(霧山昴)
著者 石田 ゆうすけ 、 出版 新潮社
地球三周の自転車旅というサブタイトルがついています。そして、オビには「衣食住の一切を自転車に鬼積みして、スマホを持たず旅をする。ペダルをこいで極限まで空かせた腹にメシと旅情が流れ込む!」とあります。
前に『行かずに死ねるか!』という本を出しているそうです(私は読んでいません)。サラリーマンを辞め、自転車で7年半ぶっ通しで世界をまわって書いたとのこと。その本が売れたおかげで、文章だけで三食、ご飯と納豆なら食べていける目算が立ったので、それからは専業のモノカキだそうです。いやあ、同じくモノカキを自称する私には、うらやましい限りです。
自転車の旅は「線の旅」になる。その国の素顔に会え、素の人とたくさん触れあえる。体ひとつでその世界に飛び込み、自分の足でゆっくり進むことで、景色を全身で味わい、異国の空気やにおいを体中で吸い込める。旅が色濃く記憶に刻まれる。
自転車は運動効率がいいので、カロリーも効率よく消費され、体中のエネルギーが根こそぎもっていかれて腹が減る。食べ物が目の前に来ると、我を忘れ、無我夢中で喰う。食欲と感受性がむき出しになり、味が良ければ、泣きそうになる。
著者はそれほどお腹が強いわけではないとのことですが、現地で生水(なまみず)も飲むそうです。生水を飲むか飲まないかの指標は、地元の人。地元の人が飲んでいたら飲む。現地に長くいたら身体が順応し、胃腸も慣れるとのこと。いやあ、私はまったく自信がありません。カキ氷とかコップに製氷器でつくった氷のカケラが入っているジュースも飲むのを遠慮します。
メキシコでは現地の人も生水は飲んでいなかったので、コーラやビールを飲んでいた。
インドではナンはあまり食べていない。インドの大衆食堂で食べられているのはチャパティ。ナンを日常的に食べているのはパキスタン。
インスタントラーメンは、世界の隅々にまである。アフリカや南米の僻地(へきち)にもあった。
ウズベキスタンの砂漠の中の小さな町のボロい食堂でうどんに出会った。スープには肉、ジャガイモ、トマトなどが入っていて、シチューと肉じゃがの中間のような味がする。麺は太めで、短くて不揃い。表面は少しぼそぼそしているが、中心にもっちりとした食感があり、スープとよく絡んでいる。ズルズルとすすると、やっぱりうどんだ。うどんを食べながら生きて帰ってきたという実感に浸った。
キューバの田舎町の路上でフェスティバルが開かれていた。子豚の丸焼きが焼かれている。それを注文すると、丸焼きを削いだ肉、ご飯、芋、サラダが皿に山盛り。これが30ペソ。外国人用だと3600円になるが、国民用の人民ペソだと、なんと日本円にして150円。これはいくらなんでも安過ぎだろ...。
著者は世界中をまわって、日本に帰ってから、日々の一番のご馳走は、なんとなんと、みずみずしいサラダ。キャベツ、レタス、にんじん、玉ねぎ、セロリ、ルッコラ、春菊、パプリカ...。朝晩、欠かさない。
そうなんですね。南極の越冬隊員にとっても生のキャベツが食事に出てくると、基地中が沸くそうです。たしかに、私も昼食に生野菜サラダをよく食べます。マヨネーズ、ドレッシングをかけると最高なんですよね...。
世界中を自転車で走ってまわるって、若いときにしかやれませんよね。すばらしい体験です。私は、こうやって本を読んで追体験して楽しむのでいいと考えています。
(2024年10月刊。1760円)