弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年2月14日
武器としての国際人権
司法
(霧山昴)
著者 藤田 早苗 、 出版 集英社新書
2月7日(金)夜、福岡県弁護士会館で著者の講演会があり、その会場で買い求めました。大変刺激的な内容で、とても勉強になりました。
イギリスのスーパーではレジ係は座って客と応対しているのに、日本では依然として立ったまま。スーパーのレジ係の賃金(時給)は、イギリスでは2500円なのに、日本では1000円。すぐにでも1500円に引き上げるべきです。
インバウンドが急増しているのは、日本が「安い国」になっているから。
「日本での旅行や買い物が安くなったからインバウンドが急増している。だから、外国人観光客の急増は、本当は日本にとって恥ずかしいことだし、悲しいこと」(野口悠紀雄、一橋大学名誉教授)
イギリスでは外食は高い。でも、食材自体は日本と変わらないくらい安い。人の手が加わると高くなる。つまり、労働の対価である賃金・報酬がきちんと守られている。
イギリスを含めてヨーロッパでは賃上げを求めるストライキが頻発している。それによって賃上げが実現している。イギリスではストライキについて、不便だけど、大事な仕事をしている人だから、もっときちんと支払われるべきだと考える人が一般的。ところが、日本では「迷惑」「わがまま」だといってストライキを毛嫌いし、禁忌(タブー)になっている。それでは賃上げすることは出来ない。
日本の賃金があまりに低いため、優秀な人材は海外に仕事を求めて出ていく(頭脳流出)。そして、外国人労働者も日本を選ばなくなっている。
個人的な怒りではなく、公的な怒りを表明するのは大切。不条理なことに対する「正当な怒り」のないところに社会変革はない。
今の日本のメディアはだらしがないと、内心でつぶやくだけではダメ。「編集局長さま」と宛名を書いてメディアに送ることから始めよう。
日本の学校の人権教育は、他人への「思いやり」が人権だと錯覚させている。しかし、「思いやり」と「人権とは全然、別のもの。
司法試験を受けるとき、国際公法を選択する人は少ない。なので、弁護士も裁判官も世界人権宣言を学んでいない。人権の実現には、政府が義務を遂行する必要がある。
ヨーロッパの子どもたちは、義務教育の中で自分たちの権利について学んでいる。そのため、若者がデモ行進をして権利を主張することは当たりまえのこと。日本では、そうはなっていない。
女性に参政権が認められたのは1918年のこと。一定の条件を満たす30歳以上の女性に限定。それにしても、既に100年以上たっているのに、日本の国会議員の女性比率は2割でしかない。
日本軍の従軍慰安婦について、かつては教科書にきちんと紹介されて問題だとされていたのに、今では教科書から消え去ってしまっている。
タイトルにあるように、多くの弁護士が国際人権宣言を武器としてつかいこなせるようになることが、まずは私たちの当面する課題だと痛感しました。
(2024年7月刊。1100円)