弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年2月13日

北朝鮮を解剖する

朝鮮・韓国


(霧山昴)
著者 礒﨑 敦仁 、 出版 慶応義塾大学出版会

 人口2600万人の北朝鮮は目が離せない存在です。
 金正日の時代には「先軍時代」でした。ところが、金正恩は「先軍」を過去の遺物として歴史の中に埋めていき、2019年に改正された憲法からは、「先軍」がほとんど消去された。朝鮮労働党の規約にも2021年服に「先軍」の文字はない。これはいったい何を意味するのか...。
 金正恩時代を代表する政治理念は「人民大衆第一主義」である。映画では「豊かさ」に対する憧(あこが)れを肯定的に描いている。
 「人民生活の向上」として、金正恩は2021年に平壌市に5万戸の住宅を建設するとした。5年間にわたって毎年、1万戸の家を建設するというもので、2024年現在、すでに4万戸の住宅が建設された。その多くは高層アパート。
 たしかに平壌市内の写真を見ると、高層住宅がニョキニョキとそびえ立っています。
 北朝鮮は生産手段の社会的所有に強くこだわっていて、民営企業は認めていない。民営企業をまったく認めていないのは、世界の社会主義国家のなかで北朝鮮だけ。
 北朝鮮には民間企業が法律上許容されていないため、商法典は存在しない。
1996年から2000年までは「苦難の行軍」と呼ばれる深刻な経済危機の時代であり、数十万人もの餓死者を出した。
 北朝鮮国民の経済生活において、市場は一定の役割を担うようになってきた。
 2013年に、国営企業や協同農場に一定の経営自主権を与えるという社会主義企業責任管理性が導入された。国営企業や機関の一部門が独立採算の単位として認定され、さまざまな権限が付与された。そのため、部門長は自らの部門の事業とそのメンバーの生活に責任をもつことが期待され、相当なプレッシャーがかかるようになった。
 日常の企業の運営では支配人が采配(さいはい)を振るうとしても、重要な決定は工場の党組織が行うため、党組織の代表のほうが支配人より「偉い」ことになる。
 北朝鮮のサイバー活動は、対外工作機関である朝鮮人民軍偵察総局が主体となっている。キムスキー、ラザルスグループ、ビーグルボーイズなどのサイバー部隊が存在する。
 サイバー領域は兵器開発の導入コスドが低く、高い強度の経済制裁を受けている北朝鮮にとっては参入障壁が低いため、韓国との関係にある通常兵力の差を効果的に縮小することができる。
 北朝鮮はサイバー攻撃への関与を一度も認めたことがない。
 北朝鮮は、暗号資産の奪取や金融機関へのサイバー攻撃能力を急速に向上させており、金融ハッキング部門において世界一位の水準にある。そして、北朝鮮国内と国外居住の双方の北朝鮮サイバー部隊の能力が向上し続けている。
 北朝鮮のサイバー部隊の要因は6800人ほどと推定されている。これは日本の自衛隊のサイバー部隊員が540人であるから、その10倍以上もいるということ。北朝鮮によるサイバー攻撃は2004年の5件が2021年には1462件と、300倍近くも急増している。
 北朝鮮のサイバー攻撃によって、暗号通貨資産7億5000万ドルを窃取した(2023年)とみられている。これが貴重な外貨獲得手段となっているようです。
 金正恩は最近、娘と一緒によく登場してくるようになりました。「尊敬するお子さま」とか「尊貴であられるお子さま」と呼ばれています。いかにも異常です。金王朝を娘に受け継がせるつもりなのでしょうか...。
 男性優位の儒教文化が根強い北朝鮮社会なので、十分な時間をかけて女性指導者の誕生を既成事実化させようという意図が働いている可能性があるとされています。本当なのでしょうか。
 北朝鮮を深く知り、考えるうえで大変勉強になる本でした。
(2024年11月刊。3500円+税)

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