弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年2月 8日

うんこの世界

人間


(霧山昴)
著者 アダム・ハート 、 出版 晶文社

 子どもたちに大人気の「うんこドリル」の類の本ではありません。腸内細菌と健康について真面目に研究成果を紹介している本です。
うんこの固形物の3分の1、最大60%が細菌。
炎症性腸疾患(IBD)は増加傾向にある。
石鹸で手を洗えば下痢性疾患を40%も減らせる可能性がある。
細菌性胃腸炎は、たいてい、感染してから症状が現れるまでに1日ほどかかる。
衛生の観点から最善なのはペーパータオル。
目下の大問題は、最近の進化を通じた抗生物質耐性の獲得。
ピロリ菌は、40~50%の人の胃で見つかる。たいてい、子どものころに獲得している。そして、ピロリ菌の保菌者のうち、潰瘍を発症する人は10~15%ほどにすぎない。
 小腸は科学的消化と吸収を担っている。ここはとくに細菌のたまり場というわけではない。小腸にいる細菌数は1ミリリットルあたり1万個もいない。小腸にいる細菌が増えすぎると、栄養の吸収がうまくいかなくなり、問題を引き起こす。
 大腸は小腸の3倍の幅があり、消化系の最後の部分。大腸の役割は、水分を吸収し、残ったものをきれいに整ったうんこにまとめることにある。
 腸内の最近は消化を助けてくれる。たとえば、人間に吸収できるブドウ糖などの単糖に分解してくれる。また、粘液でよくみられる複雑な分岐構造をもつ炭水化物も分解できる。最終生成物としてブドウ糖ができれば、細胞はすぐにそれを利用できるので、人間にとってはありがたい。
 腸内細菌の消化活動の大部分は、糖分解発酵と呼ばれるプロセスにより、さまざまな種類の炭水化物を短鎖脂肪酸に変換することに関係している。
 ビタミンは、ごく微量でも体の機能に欠かせない働きをする重要な物質。しかし、人間は体内でビタミンを生成することはできない。ところが腸内細菌が、ビタミンをつくってくれる。
細菌は、食物に含まれる重要な金属を吸収しやすくしてくれる。カルシウム、マグネシウム、鉄など...。
 細菌は、食物を消化し、金属吸収を助け、ビタミンをつくるだけでなく、有害な病原性細菌の増殖を抑えるうえでも役に立っている。
腸内細菌の多様性と存在量は、人によって驚くほど異なっている。腸内細菌と免疫系は、かなり密接かつ重要な接触をもっている。腸内細菌は、その生息場所で免疫系と密接にかかわりあっている。
 肥満は1980年に比べて倍増している。世界人口の65%は食料不足より過食のせいで死亡する人のほうが多い国に住んでいる。20歳以上の成人の35%は過体重で、11%は肥満。4000万人をこえる5歳未満の子どもが過体重。子どもの肥満は虐待の一形態。
腸内細菌とヒトの精神状態とは興味深くつながっている。
 妊娠中に長期にわたって高熱を経験した女性の産んだ子どもは、最大7倍の確率で自閉症になる。
高級ヨーグルトを飲んでも、効果はない。その効果は実証されていない。
 要は、細菌の群衆がバランスよく生育し、維持されていることが宿主であるヒトの健康につながる、ということ。この本を読んでスッキリしました。
(2024年10月刊。2300円+税)

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