弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年2月 7日
杉並は止まらない
社会
(霧山昴)
著者 岸本 聡子 、 出版 地平社
読んでいると、自然に元気になっていく気がしてくる本でした。
杉並区長になった著者は区内のアパートに住み、区庁舎まで電動自転車で通勤しているそうです。もちろん、ヘルメットをかぶって...。オランダで生活していたときも自転車で行動していたそうです。くれぐれも安全には気をつけて下さいね。環境問題に取り組んできた著者の選挙の公約の一つが区長公用車の廃止だったそうです。
著者の名前は「聡子」。公の心に耳を傾けるということ。つまり、人々の意見に耳を傾けるという意味です。なので、区民との直接対話を重視しています。
そして、駅前での「一人街宣」も実行しているそうです。プラカードを掲げ、マイクなしで区民に訴えるのです。たいしたものです。
区長選挙で当選したとはいえ、投票率は4割なので、区民の6割は投票に行っていない。そして、対立候補との票差はわずか187票。すれすれで当選したのです。区民の多くは著者に反対あるいは選挙に関心をもっていない。だから著者は、区長に就任したとき、こう言ったのです。
「私に投票されなかった区民の声、投票に行かなかった区民の声を意識的に聞き、対話と理解を深めてまいります」
いやあ、すばらしい呼びかけです。区の職員との対話を重視し、その賃金アップにも取り組み、目に見える成果を上げています。月に1回、区長室の隣の応接室に自分の飲み物をもって集まった職員8人ほどと1時間、対話する。
そして、会計年度任用職員という非正規労働者の賃金を年間50万円もアップさせたというのです。いやあ、これは本当にすばらしいことです。大拍手です。やろうと思えば出来るのですね。職員はコストではなく、財産。まさしく、そのとおりです。公務員を減らせ、多すぎるという財界側の音頭とりに多くの人がうまうまと乗せられ、公務員が大幅に減らされてきました。
杉並区でも全職員の41%が会計年度任用職員であり、そのうち85%が女性。そして、正職は女性のほうが多いのに、管理職には2割しか女性がいない。著者は、この比率を3割に引き上げることを目指している。
杉並区がすごいのは、女性区長の誕生に続いて、区議会議員も女性が半分を占めていることです。もちろん、それには著者を初めとする市民の運動が盛り上がったからです。まずは投票率を高めなくてはいけません。前回より4.2ポイント上昇、2万人も増えたというのです。なかでも30代女性の投票率が9%近く上昇したというのです。すごいです。48議席のうち新人が15人当選し、女性が24人、50%というのは画期的です。そんな議会が日本には他にあるのでしょうか...。
ただ、著者が区長になったから、その公約の全部が実現できるわけでもないという現実もあります。児童館や高齢者のための施設の一部は廃止せざるをえなかったようです。そのときも区民とは十分に協議したようですが、やはり何事も一直線にはいかないものです。
地方自治に多くの住民が参加して、地方の政治は変えられると確信したとき、国の政治も変えられる方向に動いていくのだと思います。
著者の今後ますますの健闘を心より期待します。とてもいい本でした。
(2024年11月刊。1760円)