弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年2月 5日

獄中日記

司法


(霧山昴)
著者 河井 克行 、 出版 飛鳥新社

 日本史上初めて、法務大臣が刑務所に入って3年あまりを刑務所の中で過ごしました。
 その体験記というので、早速、読んでみました。この本のもとになったのは右翼の月刊誌に連載されていたものです。なので、今なお手放しの安倍礼賛が満載で、嫌になってしまいます。日本社会の底辺の現実に目を向けようとしない姿勢は刑務所に入っても変わらないようです。残念です。刑務所に入っている人々からじっくり話を聞く機会があったら少しは変わったと思いますが、刑務所のなかでは収容所同士の「交談」(雑談)は一切禁止されているのです。
 たとえば、昼、工場内で作業中にトイレに行きたくなったとき、どうしたらよいか...。右手を耳にくっつけてまっすぐに上げ、「担当前、願います」と言って移動の許可を得てから刑務官の前に行き、脱帽、礼をして自分の番号と氏名(苗字)を言ったあと「用便に行っていいですか?」と訊く。全身を触って検査を受けたあと、「移動願います」と言って、「よし」と言われてから歩き出す。途中を省略し、「用便終わりました」と言うと身体検査を受け、「移動願います」と発して「よし」と言われて自席に戻る。トイレに行って帰るまで、17回も挙手し、大声で許可を求めなければいけない。
 同じ工場内の収容者と仕事上に必要な会話をするにしても手を上げて刑務官から「河井、用件は?」と声がかかるまで待ち、「○○さんと交談願います」と言う。相手も同じく、「よし」と言われないと会話は始められない。そこまでの必要があるんでしょうかね...。
 著者が従事していたのは図書計算工場での図書係と報奨金の計算係。
平成20年に出所した受刑者のうち、5年以内に再び塀の中に入った人(再犯率)は4割近い。平成29年も37.2%と、ほとんど減っていない。10年以内の再犯率だと平成20年には40%なので、半数近い。なぜか...。懲らしめただけで反省する人はいない。人間らしく、尊厳をもって扱われたときに初めて人は更生しようという意欲を抱く。
 著者は、刑務官の処遇改善も訴えていますが、まったく同感です。受刑者いじめという、あってはならないことが横行したのは、やはり刑務官の待遇が劣悪なことも大いに影響していると思います。
著者は2021年10月21日から、2023年11月29日まで、3年2ヶ月間、「塀の中」で生活しました。判決では未決勾留日数408日間が、1日も刑期に算入させていません。懲役3年の実刑で、控訴したものの取り下げ、服役したのです。
 入ったのは喜連川(きつれがわ)社会復帰促進センターという名前の刑務所。ここは民間委託もしていたようですが、今は国営直轄に戻っています。私の知人(大学同期)の元弁護士(故人)も、ここにしばらく入っていました。
著者は1億5000万円の使途について、あくまで広報・宣伝費だと強弁し、選挙運動の買収費ではないと主張しつつ、被買収側が処罰されていないのは不公平だ、だから検察の起訴は公訴権の乱用だと主張しています。
 福岡で諌山博弁護士(故人)と一緒に私も公訴権乱用だと裁判で主張したことがあります。演説会告知ビラを柳川市内の商店街に配布したのが戸別訪問にあたるとして起訴されたのでした(松石事件)。一審の柳川支部(平湯真人裁判官、故人)は公選法こそ憲法違反だとして無罪判決を出してくれました。
 国会議員しかも法務大臣の経験者が刑務所に入って、その問題点を具体的に指摘することによって、少しでも刑務所内の処遇が人道的見地から改善されることを私も願っています。
(2024年10月刊。1727円+税)

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