弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年2月 1日
深海ロボット、南極へ行く
生物
(霧山昴)
著者 後藤 慎平 、 出版 太郎次郎社
マリアナ海溝。水深8000メートルをこえる超深海。投光器の灯りは、ほんの数メートル先までしか届かない。真っ暗な深海が果てしなく続いている。そこに動いているのは深海ロボット。マリアナ海溝最深部では1平方センチにかかる圧力は1トンをこえる。これは人差し指の先に軽自動車2台が乗っかっているのとほぼ同じ状況。水中なので、四方八方から、この圧力がかかる。
水中探査機をROVと呼ぶ。著者は南極用ROVを開発した。しかも、短期間のうちに、あまりお金をかけずに...。水中用のロボットケーブルは、細径で軽量、そして引っぱりにも強い特性が求められる。そんなのあるの...。神奈川県にロボットケーブルメーカー「岡野電線」がつくっている。これでケーブは解決。次は圧力に強いもの...。カシオの腕時計Gショックが圧力に強い。やはり、あるんですね。
南極の観測隊は、総勢100人ほど。それに自衛隊員を含めると、300人以上になる。夏隊と越冬隊がいる。越冬隊は南極に14ヶ月を過ごす。
ROVはリモコン戦車と原理が共通している。
水中探査機(ROV)は、水に入れると、そのまま自重で沈んでしまうので、「中性浮力」と呼ばれる浮きも沈みもしない状態が求められる。そのため浮力材が取りつけられている。
水中探査機(ROV)には、かなり強力な投光器が搭載されている。この投光器にあてることで充電できるように工夫した。
この本を読んで、南極に行く人は日本の冬山で極寒状況における訓練に参加するのですね。いやあ、これは大変なことです。
南極に個人的に持っていくものとして、チョコレートとココアがおすすめだそうです。そしてヨーグルトにのどアメも。もちろん南極に便利なコンビニがあるわけないですからね...。
南極のトイレは、丸い一斗缶のようなバケツ。このペール缶に用を足す。大も小も、老若男女みな同じ。用を足したら、上から菌の増殖を抑えるシートや凝固剤を入れ、また次の人がそこに用を足す。
風呂には50日間入れないが、意外に変な臭いはしない。ウェットシートで体を拭くていど。
食器は洗わない。汚れはあるていど拭きとると、霧吹きで水をかけて、さらに拭きとる。少々ガンコな汚れは、アルコールで拭きとる。これで完了。拭いたペーパーは可燃ごみとして基地で焼却する。
南極の直射日光には気をつける。上空にオゾンホールがあり、大量の紫外線が降りそそぐので、日焼け止めを塗っていないと、火傷(ヤケド)のように皮膚がただれてしまう。
昭和基地の近くには50以上もの湖が点在している。そしてROVを投入し、無事に観察を成功させる。湖底にはコケボウズがいる。
著者は生態学者ではなく、あくまでROVを扱う工学屋。ロボット工学者が南極へ何しに行くのかと訊かれたそうです。そりゃあ、南極にだって、仕事ありますよね、工学者にも...。面白い本でした。
(2024年4月刊。1900円+税)