弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年1月29日
レイディ・ジャスティス
アメリカ
(霧山昴)
著者 ダリア・リスウィック 、 出版 勁草書房
「もしトラ」が現実化してしまいましたが、この本は、前のトランプ政権時代に、暴政に抗してたたかった多くの女性法律家を紹介しています。
人種差別、人工妊娠中絶の阻害、投票権の制限そして性暴力などに対して、果敢に挑んだ女性法律家たちの不屈の勇気に大いに励まされました。
正月休みに、身近に置いていた、このピンク色の本を、全然期待もせずに読みはじめたのです。ところがところが、思わず居ずまいを正して、背筋をピンと伸ばして、一心に読みふけってしまいました。
アメリカのロースクール生の半分は女性だが、民間分野で働く弁護士のうち女性は3分の1でしかない。ローファームもパートナーは21%だけど、そのトップが女性であるのは12%。企業のCEOのうち女性は5%もいない。連邦議会議員では24%、州知事は18%、州議会議員でも29%しか女性はいない。
はるか昔から、法は女性に対して棍棒(こんぼう)のように使われてきた。
女性の先駆者たちは、法が自分自身に課と制約と戦いながら、法制度との戦争に身を投じてきた。
この本で真っ先に登場するのは、ポール・マリーという女性です。アメリカでも有名ではないようです。ハワード大学に学年で唯一の女性として入学し、1944年に首席で卒業した。そしてイエール大学で法学博士号を取得した最初のアフリカ系アメリカ人。1946年にはカリフォルニア州初のブラックの司法副長官になった。アメリカの連邦最高裁判事として有名なルース・ベイダー・ギンズバークは、ポール・マリーを高く評価していたそうです。
続いて、サリー・イェイツというトランプ政権が発足し、ムスリムのアメリカ入国禁止を大統領令で発したとき、それはアメリカ憲法に違反すると明言し、司法省から追放された(当時、司法長官代行だった)。
トランプの命令は、宗教によって入国について差別するものなので、司法省がそんなことを認めるわけにはいかないと明言したのです。
イェイツは、本当に優秀な政府の弁護士は個人的な栄誉や誰か別の人の栄誉のためではなく、法のために動くということを示した。本当に優秀な政府の弁護士は、大統領が欲しいものを何でも手に入れるようにするイエスマンとして動くのではないのだ。
ムスリムが多数を占める国からの渡航を禁止するトランプの大統領令が出されたことから、空港でアメリカに入国できず、最悪の場合はシリアへ「送還」される。これを阻止するためにベッカ・ヘラーは動き出した。そして、大手ローファームのプロボノ案件として行動してもらうことに成功した。
そういうことがあるんですね、アメリカの大手ローファームはプロボノ案件を扱うことにもなっているので、そこに喰い込んだわけです。1時間半のうちに、1600人もの弁護士が呼びかけに応じたというのです。すごいことです。そして4時間のうちに3000人の弁護士がボランティア活動を引き受けたのでした。
ニューヨーク市内の大手ローファームで働いている弁護士がケネディ空港に続々と集まってきた。4つのターミナルに100人の弁護士が配置された。そして、ケネディ空港の外には何千人もの支援の人々が集まったのです。
アメリカの民主主義の底力を感じます。これを受けて、裁判所は、弁護士たちの申立に応じて「送還」を差止する緊急命令を出したのでした。
アメリカのヘイト勢力が怖いのは、ロケットランチャーや半自動小銃で武装した集会が開かれるということです。これに抗議するのは、まさしく命がけになります。
極右の武装団体が公然と武装をしたまま町中を行進するなんて、日本では想像も出来ません。
「自宅のドアを開けたら、すぐそこ、10フィードしか離れていないところに、半自動小銃とナチスの方を持った人たちがいるのが見える。これが、どんなことも想像できますか...」
アメリカでは妊娠中絶を犯罪とする州があり、それを武力で実現しようとする勢力がいます。これまた怖い話です。
著者は弁護士資格をもつ女性ジャーナリストです。
女性に法を足すと、魔法の力が生まれる。これを自分たちは毎日証明している。
このように断言する著者に、心より賛同の拍手(エール)を送ります。
(2024年7月刊。3500円+税)