弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年1月24日
ヒトラーとスターリン
ドイツ・ロシア
(霧山昴)
著者 ローレンス・リース 、 出版 みすず書房
ヒトラーの父親は税関検査官、スターリンの父親は靴職人。どちらも金持ちではなく、酒を飲んでは息子を殴る父親という共通項があった。ただし、当時は多くの子どもが同じようにして育てられていた。
ヒトラーは自分にとって代わる恐れのある、中央集権化した組織は、あらゆる手段を用いてつぶしていった。たとえば、ドイツの内閣を骨抜きにし、1938年以降、閣議は開かれなかった。
ナチ党員は500万人で、200万人のソ連共産党員ほど特権的ではなかった。スターリンは、共産党をエリート組織とみていた。
ヒトラーは聞く耳をもたず、誰にもさえぎられることなく、1時間40分も話し続けた。スターリンは、相手に話をさせ、熱心に話を聞き、相手を観察した。
スターリンは、あらゆる人物に疑念をもって対応した。スターリンにとって最大の問題は、誰が自分を裏切ろうとしているかということだった。
ヒトラーは、スターリンほど強い警戒心を持っていなかった。自分を裏切る行為が露見しないかぎり、身近な人々を信頼する傾向があった。そうでなければ、1944年7月のヒトラー暗殺未遂事件も起きなかっただろう。ところが、スターリンについては、暗殺企画はひとつも記録に残っていない。
ヒトラーもスターリンも、基本的にひとりぼっちだった。二人とも、心を許せる親密なパートナーを持っていなかった。
ヒトラーは、その政治家人生において一度も事実に頓着したことはなく、ひたすらソ連憎しという感情だけを手がかりに世界を理解していた。
スターリンは、ヒトラーが首相に就任する直前の1932年7月、ドイツ共産党に対して、ナチ党よりもドイツ国内のほかの社会主義者を敵と見なせと命じていた。これが、いわゆる「社民主要打撃論」ですね。
スターリンは、いつでも自分を笑い飛ばすことができた。ヒトラーは絶対に、そんなことはしなかった。
ポーランドの分割について、ヒトラーとスターリンは1939年秋に合意した。二人とも、ポーランド人を激しく嫌っていた。ポーランドを分割して占領・支配したドイツとソ連は、どちらも集団強制移住策をとった。
ヒトラーのナチ・ドイツは強制収容所で「カポ」というドイツ人受刑者を囚人監視役としていた。同じように、スターリンのソ連は「ウルカ」という犯罪者集団を収容所で活用した。
スターリンは、主要な文書に目を通し、承認を支えた。ヒトラーは重要な書類にもサインしていないし、する必要がなかった。
スターリンは軍の指導者を目の敵にした。将校は14万5000人のうち2割以上の3万3000人が階級を剥奪され、うち7000人が殺害された。高位司令官の8割、150人が排除された。これがソ連軍を弱体化させた。
スターリンが無条件の忠誠を評価して最後まで重用したヴォロシーロフは無能な将軍だった。この男なら、スターリンは「第二のナポレオン」になる心配をする必要がなかった。
ヒトラーは、スターリンと違って、恐れることなく、才能ある人材を登用していた。ナチのイデオロギーにいかに傾倒しているかよりも、軍人としての能力のほうを重視していた。
ドイツがソ連領内に侵攻するバルバロッサ作戦の意図は分からないことだらけだった。
ヒトラーはソ連の兵力をつかまないまま、ソ連領内に侵攻していった。大国ロシアは、豚の膀胱(ぼうこう)のようなもの。ちくりと刺せば破裂する。この程度の甘い認識で侵攻したのですね...。
スターリンはドイツが侵攻してくるという重大情報を信じなかった。疑うことが身に染みついていたせいで、データが明快であればあるほど、うさん臭く思えたのだろう。
スターリンはドイツとの国境線あたりに即座に反撃するための部隊を置いていた。これがドイツ軍にたちまち制圧されたことから膨大なソ連兵が捕虜となり、死に至らしめられたのです。まことにスターリンの責任は重大です。
ヒトラーはソ連領内から略奪し、ソ連兵の捕虜は餓死させる方針だった。
スターリンを囲む野心的な側近たちは、スターリンの聞きたいことだけを聞かせたかった。ヒトラーの将軍たちも、ヒトラーの願望に調子を合わせていた。二人とも、自分をあざむいて希望を思い描いていれば、いずれそれが実現すると信じていた。
1941年の秋は、ヒトラーにとってもスターリンにとっても大きな転換期だった。
スターリンにとって、1941年10月にモスクワにとどまると決意したときが運命の瞬間だった。ドイツ軍がモスクワに迫ったとき、赤軍が猛反撃を開始した。ドイツ軍は冬将軍の前に退却を開始した。
このとき、日本はアメリカの真珠湾を攻撃して、日米開戦となったのでした。つまり、ドイツ軍はモスクワ占領どころか、退却必至の状況に陥っていたとき、日本軍は太平洋戦争に突入したわけです。先見の明のないこと、おびただしい限りです。
610頁もの大作です。一泊ドッグで一心に読みふけりました。
(2024年8月刊。5500円+税)