弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年1月22日
新型コロナ最前線-自治体職員の証言
社会
(霧山昴)
著者 自治労連編 、 出版 大月書店
コロナ禍がなくなったわけではありませんが、今ではそれほど騒がれなくなりました。しかし、コロナ禍「騒動」はきちんと振り返り、総括しておく必要があると思います。コロナと同じような感染病はこれからも起こりうると思うからです。
それにしても、自治体職員は本当に大変だったと思います。自治体職員は多過ぎる、減らせ減らせの大合唱がありました。今でも決してなくなったわけではありません。トランプ政権下でイーロン・マスクが公務員減らしを高言し、どんどん民営化させようとしています。要するに「税金削減」を口実として、自分の商売(利権)を有利にしようというのです。
ところが、日本の郵政民営化と同じで、公務員を削減したら税金が少なくなって自分の生活が少しでも楽になるかのような幻想、錯覚に陥って、人々が拍手するといおう構図です。でも、結局、公務員を削減して苦しむのは私たち庶民なのです。超大金持ちは何ひとつ困りません。
2020年4月から会計年度任用職員制度なるものがスタートしている。非正規公務員のこと。任期は1年で、再任用は原則2回で、最長3年。要するに使い捨て公務員を増やすということです。これでは、職場に必要なベテラン職員が十分に確保できない心配があります。
この会計年度任用職員はボーナスはもらえるけれど、月額報酬が減らされるので、ボーナスもらっても同額だという仕掛け。ひどい話です。
地方公務員でも長時間・過密労働の職場が多く、精神疾患による公務災害申請が増えている。20~40歳代が8割近くを占めている。そして、精神疾患による自死が増えている。過労死ラインといわれる月80時間をこえて働かされている職場が依然として少なくない。
それは、職員数が削減された結果のこと。正規職員は328万2千人(1994年)だったのが、今や273万7千人(2018年)となっている。そして、5人に1人が臨時・非常勤職員だ。
コロナ禍で、真っ先に過酷な労働を余儀なくされたのが保健所。終電後の帰宅は当たり前。午前3時か4時に帰宅し、シャワーをあび、1~2時間仮眠をとったら出勤。なかには始発電車で帰宅し、仮眠を取る間もなく出勤する保健師もいた。帰ることができず事務所で寝た保健師もいた。終電がなくなったあと、保健所の前にはタクシーが列をつくっていた。保健師は「死ぬか辞めるか」という究極の選択を迫られ、命を守ることを選び、職場を去っていく人がいた。
陽性者の入院搬送に付き添った保健師は防護服を着るため、トイレにも行けず、朝から水分を制限。暑さのため熱中症や脱水症状にならないかという不安。夜、電話相談の内容が耳元でリフレインして寝つけない...。
京都市消防局の救急車の出動は例年1日200件台なのが、コロナ禍のときは倍の400件にもなり、大変な状況になった。ところが、京都市は財政危機のため市長が一方的に職員を150人削減し、三交代制を二交代制に切り替えた。職員は過重労働のため、身体がもつか心配せざるをえなくなった。
保育園では、「保育士1人に子ども30人」という配置基準が戦後70年間そのまま変わっていない。保育所はあっても保育士は足りない。しかも、「特別な配慮を必要とする児童」の割合が増えている。コミュニケーションがうまくとれない子どもには個別に対応するしかないのに、対応しきれない。
維新の会が府・市政を牛耳っている大阪市では保健所が次々に廃止・統合されてしまった結果、1保健所で、271万5千人を担当することになってしまった。そのため、最悪の結果が出ている。これが、例の「身を切る改革」の実際。しかし、中間層以上の市民は、今なおそのことを自覚することなく、維新の会に拍手している。本当に残念でならない。
自治体職員の悲鳴がほとばしってくる本でした。
(2023年8月刊。1650円)