弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年1月17日
ガザ紛争
中近東
(霧山昴)
著者 鈴木 啓之 、 出版 東京大学出版会
2023年10月7日、ハマースがイスラエルを越境攻撃したことから始まったイスラエルのガザ侵攻。いつまでたっても止まりません。本当に残念です。イスラエルの戦争は一刻も早く止めてほしいです。
10月7日のハマースの攻撃を予測できなかったことで、さすがのイスラエルの治安・国防体制も万全なものではないことを世界に証明してしまいました。
イスラエルでは、9月半ばから3週間ほどは宗教上の理由から大型連休シーズンに入っていて、まさかパレスチナ人にこれほどの軍事攻撃をする意思と能力はないだろうと、ハマースを見くびっていたようです。
この10月7日には、3000人と推定されるパレスチナ人の武装戦闘員がイスラエル南部に流入し、キブツや駐屯地を襲った。これによるイスラエル人の死者1200人のうち、兵士や警察官は312人で、残3820人は民間人だった。また、240人もの人々が人質としてガザ地区に連行された。
今もなお人員となった人々は全員が解放されてはいないようです。その安否が心配です。ハマースは一刻も早く解放すべきだと思います。
ガザ地区へイスラエル軍の地上部隊が侵攻し、また空爆したことで、すでに4万人以上の人々が犠牲となっており、その半数は女性であり、子どもたちのようです。本当にひどい惨状です。
ガザ地区の人口は220万人で住民の9割が避難を余儀なくされています。でも、ガザ地区って、イスラエルが完全に閉鎖しているのですよね。地区外へ脱出するのもままならないのです。
ガザ地区にも富裕層はいるが、圧倒的多数の住民は難民を中心とする困窮家庭である。
ガザ地区ではハマースが選挙で勝利し、対立するファタハ勢力を追放して単独内閣を形成している。今でもハマースによる支配は続いているのでしょうか...?
住民の8割は人道的支援に頼って生活しているし、失業率は47%(2022年)、若者世代では64%(同)に達する。また、自殺率も急上昇している。
イスラエルの政治は右傾化し、右翼のネタニヤフ首相が強権的な政治をすすめている。
イスラエル最高裁は比較的中立的でリベラルな判断を示してきた。そこで、ネタニヤフ首相は「司法が左翼に独占されている」として、「司法改革」を進めていた。この動きは「10.7」のあと、どうなったのでしょうか...?
「10.7」には、ハマースのほかイスラーム・ジハードなど、5つのパレスチナ武装勢力が参加したとのこと。事前の合同演習もしていて、イスラエルも、そこまでは把握していたのでした。
イスラエル軍が早期警戒システムとして使用している観測気球7基のうち3基に不具合が発生していて、修理が必要だったのが先送りされていた。また軍事用ドローンや防御フェンスもあるのに、「10.7」を事前に予知できなかった。
イスラエルの人々は、ガザ地区への広域の地上作戦を65%が支持している(反対は21%)。そして、イスラエル国防軍に対して「信頼している」というのが72%に達している。
イスラエルにもパレスチナ系市民がいて、人口の2割を占めている。エルサレム市の人口の4割を35万人のパレスチナ人が占めている。パレスチナ人は居住権はあるが市民権はない。国政への参加は認められていない。
イスラエルの軍事行動をもっとも強力に支えてきたのはアメリカ政府。アメリカはイスラエルの最大の軍事支援国であり、180億ドルも支出している。これはイスラエルの軍事費230億ドルの8割近い。
国連のグテーレス事務総長は、国連憲章99条にもとづき、人道的な停戦の実現を安保する理事会に要請した。
日本の岸田首相はハマースについて、当初こそ「テロ組織」と決めつけてなかったが、すぐに「テロ組織」と明言した。これは欧米の対ハマース強硬姿勢に追随するもの。
日本政府は事態を打開するための積極的な外交努力を怠ったままである。私は、この最後のところがもっとも問題だと痛感しています。平和のため、日本政府は声を上げ、行動すべきです。
(2024年6月刊。1900円+税)