弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年1月 9日

金子さんの戦争

日本史(戦前)


(霧山昴)
著者 熊谷 伸一郎 、 出版 リトルモア

 日本軍が中国に侵攻し、支配していた地域では、まさしく残虐な行為をしていました。その実行部隊の一人だった金子安次・元陸軍伍長の話が本になっています。
 1920年1月に東京近くの浦安に生まれましたので、1909年生まれの私の父より10歳ほど下の世代です。漁師の次男でしたが漁師にはならず、小さな鉄屋に丁稚(でっち)奉公に出ました。
 浦安コトバでは、目上の人に対して兄貴の意味で「なーこう」と呼び、二人称は「いしや」と呼ぶ。貴様の意味でしょうか...。
 丁稚奉公しているときは無給。月に1回50銭もらうだけ。浅草に行って、漫才か映画を観る。漫才が10銭、映画は15銭。帰りに25銭の天丼を食べる。
 遊廓は吉原は高くて5円。庶民的な玉の井は1円50銭。ただ、これは晴れた日の値段で、雨の日は客が来ないので1円とか50銭と安くなる。
 出征のときは喜んで行った。母親が生きて帰ってこいとこっそり言ったので、軽蔑した。軍隊に行かないと一人前の人間にはなれないという感覚があった。会社から餞別として20円もらった。
日本刀と兵隊は叩けば叩くほど強くなると言われていた。
 兵隊は毎日、上官から叩かれた。
中国人が木に縛り付けられているのを刺突させられた。日本では僧侶していた1等兵がどうしても刺せないといって泣きだした。すると、上官からめちゃくちゃ殴られた。そのうち、その1等兵も平気で刺突するようになった。
 兵隊を戦場に慣れさせるためには、殺人が早い方法だ。これは師団長からの命令だった。初めは人を殺すのは嫌だけど、戦場を経験すると、だんだん人間を殺すことをなんとも思わなくなってくる。人を殺せなくて戦争なんか出来るかという気持ちになってくる。
 人を殺し、家屋をこわして燃やすのを楽しんでやるようになっていった。
4歳の男の子を連れた母親を強姦しようとして抵抗されたので、無理矢理に井戸に投げ込んだ。すると、それを見ていた男の子は、自ら「マーマー」と叫びながら井戸に飛び込んだ。上官が、「武士の情だ。手榴弾を投げ込んでやれ」と命じた。
 いやあ、これが戦場の現実なのですね。まさしく鬼畜の仕業です。
兵士たちが強姦しても輪姦しても軍法会議にかかることはない。
 行軍途中で落伍する兵士が出ても中隊長たちは平気で知らん顔。責任をもたなければいけないのは分隊長。行軍できない兵士は自殺するしかない。手榴弾は2発もたされていて、1発は戦闘用、あと1発は自決用。捕虜になるなということ。
 日本に帰国してから、中国でやっていたこと、とりわけ強姦・輪姦をしていたことを妻や娘に話せるわけがないので、黙っていた。
 そうなんですよね。なので、今でも軍規の厳粛な帝国軍人が中国でそんなことしたはずはない。みんな中国軍のデマだ、プロパガンダと言いはる人がいるのです。
戦争が本当に人間性を喪わせるものだということを実感させられる本です。
(2005年8月刊。1980円)

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