弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2024年12月17日
それでも、私は憎まない
中近東
(霧山昴)
著者 イゼルディン・アブエライシュ 、 出版 亜紀書房
イスラエル軍の砲撃で自宅に一緒にいた3人の娘を失ったガザの医師は、こう言った。
「私の娘たちが、最後の犠牲者になりますように...」
イゼルディン・アブエライシュはパレスチナ人で、ガザ地区の難民キャンプで生まれ育ち、エジプトの大学を出て医師になった。
ガザに住みながら、産婦人科医としてイスラエルの病院で働いていた。
2009年1月16日、イスラエル軍のガザへの砲撃のとき、自宅も狙われ、3人の娘と姪を失った。
今は、カナダのトロント大学の准教授として働いている。
砲撃を受けるときは、家族全員が一度に死ぬことがないように、子どものうち何人かはこっちの壁に、残りはあっちの壁に分かれて、全員ガーフの部屋で寝る。そして、一つの壁が砲撃された。
人には怒る能力が必要だ。しかし、イゼルディンは、常に焦点を絞った形で怒り、決して怒りを広げたり、怒りで我を忘れたり、怒りのせいで目指すべき方向からそれたりしない。
ガザ地区360平方キロメートルの土地に人口150万人がぎゅうぎゅうに押し込められている。ここでは、食べていけない。普通の生活が送れない。その結果、過激思想が台頭する。絶え間ない苦しみに直面したとき、報復を求めるのは人の常だ。
ガザでは人口の半数以上が18歳以下。
テロにテロで、暴力に暴力で対抗しても何も解決しない。
パレスチナ人の子どもの大半にとって、本当の意味での子ども時代はなかったし、ない。
イスラエル人とパレスチナ人との間に大きな分断がある。この分断に橋を架ける作業で重要なことは、今日のパレスチナ人の生活の実情、真実を認めること。
現状を打破する一つの方法は女性の力を借りること。健康的な社会は教育を受けた聡明な女性を必要とする。
ガザ地区で見られる住民の怒りと暴力は、まったく予想不可能だ。このような状況では、暴力や怒りは、ないほうが異常だ。
読み進めるのが気が重くなるほどですが、勇気ある医師の告発書として読み通しました。
(2024年11月刊。1900円+税)