弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2024年12月13日
ナチスに抗った教育者
ドイツ
(霧山昴)
著者 對馬 達雄 、 出版 岩波ブックレット
ヒトラー・ナチスと戦い、刑死した教育者がいたのですね。私は知りませんでした。
名前は、アドルフ・ライヒヴァイン。反ヒトラー市民グループの主要メンバーであり、ヒトラー暗殺が成功したあと、ナチス後のドイツの文部大臣に予定されていた。
1944年7月20日、ヒトラー暗殺を企画した事件が起き、失敗した。同年10月20日、ライヒヴァインは国家反逆者として処刑された。遺体は焼却され、遺灰はばらまかれた。遺族に死亡を公にすることも禁じられた。享年46歳。
ドイツの大学教師の3分の1がナチスによって職を奪われ、2000人以上が国外に亡命した。しかし、ライヒヴァインは国内にあえてとどまった。
ヒトラーは学校の教員が大嫌いだった。
「教師になろうとする者は、独立した職業では成功がおぼつかないタイプの人間。他人の助けを借りず、自分の努力だけで成功をつかめると思う者は、まず教師になろうとはしない」
これって、いかにも浅はかな考えですね...。
ライヒヴァインは大学の教授職を奪われ、ベルリンから40キロ離れたところの小さな村(ティーフェンガー村)の農村学校の校長として赴任し、6年間つとめた。学童は40人前後。
学校は、毎朝、歌を歌いながらの体操から始まる。時間割はないけれど、数ヶ月間、一貫しておこなわれる総合的な「計画学習」が設定された。この「計画学習」には、村の祭りも組み込まれた。夏季の野外中心の自然学習。植物の内的循環の観察、動物世界の生態の観察、郷土の地形図作成もある。人形劇の制作と上演。そして、午後は、工作の時間。温室を大人(大工)の手伝いを受けながら、つくりあげた。その温室で植物栽培をし、観察したのです。
もっとも注目すべきは、夏休み中の2週間もの大旅行です。これはすごいですね。自転車を使った旅行です。学童12人に大人が3人、付き添っての旅行です。
貧しい家庭には、村役場が補助し、みな小遣い銭なしの旅行です。
いやあ、これは、子どもたちにとって最高の思い出になったことでしょうね。
干し草置き場で眠り、星空のもと徹夜でたき火をしながらの生活です。子どもたちは、それまで海を見たことがなかった。初めて見る海。そして、船に乗るのです。
「地球は丸いことがよく分かります」と、感想文に書かれました。
子どもたちに、開かれた世界への視野を育てようとした旅行でもありました。
子どもたちは、興味の火花を点火されることで、学びを喜ぶ存在だとライヒヴァインは確信していた。いやあ、すばらしい教育実践をしていますね。
86頁の薄いブックレットですが、ライヒヴァインの子どもたちへの熱い思いがひしひしと伝わってきました。
(2024年9月刊。680円+税)