弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2024年11月29日
アメリカ連邦最高裁判所
アメリカ
(霧山昴)
著者 リンダ・グリーンハウス 、 出版 勁草書房
日本の最高裁の裁判官の国民審査で、10%以上の人々が不信任を突きつけたのは異例でした。めったにありませんが、たまに良い判決を下すこともあるものの、たいていは三下り半の、無内容のうえ、しょっちゅうひどい判決を出している裁判官に対する国民の不信感のあらわれだと私は思いました。今の日本の最高裁判事の名前を知ってる国民は、ごくごくわずかでしょう。私も長官の名前くらいをうっすらと知っているだけです。
その点、アメリカの連邦最高裁判事は国会で激しい審判を受けて選任されますので、かなり周知されていますよね。
アメリカの連邦最高裁は、20世紀半ば近くまで、専用の土地を持っていかなかった。それくらいの位置にあったということ。いやあ、これには驚きましたね...。
最高裁判事は終身制なのに、40台、50台で任命されることが珍しくない。なので、20年も30年も判事を続けることが少なくない。日本だと、64歳くらいで任命されるので、せいぜい6年ほどの任期です。
アメリカの連邦最高裁は上訴された事件のうちの1%だけに判決を下している。
歴代の判事は全員が法律家であるが、実は正式な資格要件は定められていない。当初は、全員が白人男性で、プロテスタントだった。その後、カトリック系も出て、ユダヤ教徒もいるようになった。女性も9人のうち4人を占めるまでになっている。出身地の地理的要素は問題になっていない。なお、その前職は、大半が連邦控訴審判事がほとんど。
黒人女性判事が任命されたのは2022年のこと。
連邦最高裁判事になったあと保守側からリベラルに変わった判事は何人もいるけれど、在任中に保守化した判事は、ほんの数人にすぎない。
連邦裁判所の組織には、1200人の終審裁判官、それ以外の850人の裁判官、3万人の職員がいて、80億ドルの予算をもっている。
日本の司法予算は3000億円で、ほとんど増えないどころか、むしろ人件費を含めて減っています。
毎年数千件もある上訴申立事件のなかから連邦最高裁は数十件しか受理しない。それを選別しているのは、若くて精力的なロー・クラークたち。
連邦最高裁は、判決言い渡し期日は事前に発表しない。しかし、判決文は、言渡後の数分以内に最高裁のウェブサイトにアップされる。
連邦最高裁の法廷内はテレビにもカメラにも撮影は許されていない。
裁判官が世論を意識するのは避けられないというだけでなく、実は望ましく必要なことだと述べられていますが、私もまったく同感です。神のみぞ知る、なんてこと言って唯我独尊に陥るより、世論の動向を踏まえた常識的な判決のほうが、害は少ないと私は考えています。
上訴申立書には、9千字という字数制限があるそうです。上訴が受理されたあとの本案趣意書も1万3千字内という制限がある。私は、これはこれで理解できます。格別な案件については、例外措置を設けておけば目的は達成できるのです。
アメリカの連邦最高裁と日本の最高裁の違いを考えさせられました。
(2024年7月刊。3200円+税)