弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2024年11月 1日

西南諸島を自衛隊ミサイル基地化

社会


(霧山昴)
著者 土岐 直彦 、 出版 かもがわ出版

 沖縄と西南諸島の島々で自衛隊によるミサイル基地化が急速に進んでいます。
 台湾有事になれば、米軍基地が集中する沖縄やミサイル要塞の島々は真っ先に標的になる。「ミサイル戦争」下、島の住民が逃げ惑う惨状がやってくる。
有事の際には米軍と自衛隊とが「統合軍」を形成する。もちろん自衛隊は、米軍の指揮下に置かれる、「目下の軍隊」である。いま、日米の司令部統合体制は事実上、できあがっている。
 自衛隊は平時から米艦を防護するし、基地は共同で使用し、訓練に使う。物品・役務も提供させられる。
理不尽のきわみは米兵器を「爆買い」させられること。それも米海兵隊が買わなくなった古い型の水陸両用車(1両8億円)を52両も買うなど、米軍にとって不要になった兵器をアメリカの軍需産業を救済するために買わされる。これが日本の「軍事力強化」の内情というのですから、思わず涙が出てくるほど情けない話です。
 馬毛島(まげしま)の基地建設にあたって、反対派の行動を監視するため、漁師を4時間5万円で雇っている。これは、月に100万円もの収入になる。こうやって札束で反対派を黙らせてしまうのです。ひどいものです。
 宮古島駐屯地の造成工事が始まったのは2017年10月30日。住民への説明会は11月19日に開かれ、翌日が起工式。説明会の開催は単なるアリバイづくりのため。そして、「保管庫」ということだったのに、実は「弾薬庫」で、中距離多目的ミサイルや追撃砲、弾薬を置いておく弾薬庫だった。この弾薬庫は、民家から、250メートルしか離れていない。また、この弾薬庫にはまったく逃げ場がない。
 西南諸島の住民を台湾有事の際には九州へ避難させる計画だそうです。冗談なんか言ってほしくありません。いったい九州のどこに島の住民10万人以上を受け入れる場所があるのですか。
 また、船や飛行機で運ぶそうですが、ミサイル攻撃を受けているなかで、そんなことしたら、まさに対馬丸の悲劇の再現ではありませんか。
 軍事には軍事で対抗する、なんて古い発想をきっぱり止めましょう。平和は軍事力では決して得られないものなんです。目を覚ましましょう。
(2022年4月刊。1600円+税)

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2024年11月 2日

農はいのちをつなぐ

生物


(霧山昴)
著者 宇根 豊 、 出版 岩波ジュニア新書

 庭に植えたカボチャは花こそたくさん咲いたのに、ひとつも実がなりませんでした。なぜ、でしょうか...。残念です。来年はもう少し研究して植えつけ、育てるつもりです。
サツマイモのほうは、地上には勢いよく葉が繁っていますが、肝心の地中部分はどうでしょうか...。今月末から11月にかけて掘り起こすつもりです。実は、これまで何回もチャレンジしましたが、毎回、うまくいきませんでした。野菜育ての本を立ち読みすると、ツルの先端が少しばかり上向きになっているのが良いのだそうです。そこまでの目配りはしていませんでした。果たして、どうなることやら...。
 もう一つ、アスパラガスを昨年、植え替えました。今のところ、あまり調子良くはありません。来年の春に、太い芽を次々に出してくれたら、うれしいのですが...。
 「百姓」という言葉は、「日本書紀」に登場しており、決して差別語ではない。明治以降の歴史教育が差別を助長した。今では「百姓」という言葉のイメージは、明るさを取り戻している。そうなんですよね。また、士農工商も、以前と違って、格差を意味していないそうです。
稲株のまわりにはオタマジャクシが35匹いる。オタマジャクシは、10アール(1千平方メートル)あたり20万匹が生息する。しかし、カエルになって翌年また会えるのは1千匹。残りの19万9000匹は、いったい、どうなったのか...。きっと、その多くは食べられたのだろう。
赤トンボは、毎年、東南アジアから飛んでくる。海の上を20日も飛ぶことになる。
花粉はミツバチの幼虫の餌食になる。
 稲穂は刈り入れる直前、交雑したがっている。
江戸時代の百姓は80%、明治時代には64%、大正時代には57%、1960年には37%だった。ところが、1990年に14%、2020年には、わずか3.8%。
ごはん1杯は、米粒3000~4000粒、つまり稲3株となっている。
野の花が咲き乱れるには、適度な草刈りが必要。
食べるということは、「いのち」を奪いながら、「いのち」を引きつぐこと。すごい行為だ。
 農業の営みを私たちはもっと大切にしなければいけませんよね。自給率から3割のまま、大軍拡して、ミサイルをどんどんアメリカから買い入れても、日本人が生きのびることができるはずもありません。
(2023年11月刊。990円)

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2024年11月 3日

清代知識人が語る官僚人生

中国


(霧山昴)
著者 山本 英史 、 出版 東方書店

 中国には「陞官発財(しょうかんはつざい)」という言葉がある。役人になって金を儲けることを意味する。
 警察を含めて官庁に裏金があり、大問題になったことがあります。ところが、自民党の国会議員が何千万円、いえ何億円もの裏金を手にしていたことが暴露されても、それを恥じて辞めた議員はいませんし、自民党の総裁選の9人の候補者は全員が裏金問題は済んだことと知らん顔をしています。まさしく無恥厚顔の党です。こんな政党に票を入れてはいけません。そして、投票所に行かないのは、自民党に投票するのと同じです。
子どもは、勉強を始めると、儒教の基本教典を丸暗記させられる。
 童試という試験は三段階。県試、府試、院試。県試の最初の試験は、夜明けに試験場に入り、日が暮れる前に答案を提出する、丸一日の試験。
 試験の不正もあった。カンニングペーパーの持ち込み。そのため、世界最小の印刷物が生まれた。替え玉受験もあった。本人確認が難しい時代なので、案外簡単だった可能性がある。童試に合格すると、生員になれる。庶民と違った扱いを受ける。
 清朝は中国支配のため、科挙を復活させた。試験本番は2泊3日、独房のような、窓も何もない小さな部屋にこもって答案を作成する。この2泊3日を3度も繰り返すので、6泊9日を過ごすことになる。ほとんどの受験生が徹夜の状態。そして、丸々3日間、試験官以外は誰とも話してはいけなかった。
 科挙を受験するのは14万人ほどで、そのうち全国で1400人前後の挙人が誕生した。会試に合格すると、1ヶ月後に殿試がある。そして、最優秀者は「状元」という称号が与えられた。清朝268年間に、状元は114人が誕生した。
中国の知識人は、身なりを整えた者が酒に酔い潰れている姿を見るのを昔も今も嫌がる。
 中国の県は、現代日本の感覚では「市」に近い。役所の置かれた場所は県城と呼ばれ、城壁で囲まれた町の中心にある。知県は、地元を直接に統治するので、地方官とも呼ばれた。知県の二大業務は、銭殻と刑名。銭殻とは、住民税を中心とする財務行政。刑名とは、裁判を中心に紛争を解決し、治安を維持する司法行政のこと。
 知県は、硬軟両方の措置を講じて租税を確保しなければならない。思うように徴税できない知県の責任は重大で、厳しい処分が待っている。
 裁判のときは、入れ知恵し、訴訟をそそのかす訟師(しょうし)という生員崩れの専門家が背後にいることが多い。裁定(判決)を下すのが、月に40件、年に300件くらいあった。知県の午後は、訴訟の審理に当てられる。知県の俸禄(給料)は70万円ほど。
 中国では、伝統的に官僚の給料は著しく低い額に抑えられていた。
 知県は実質的な収入が莫大なものになった。年に2~3万両の給料をもらえた。官僚の世界での上司対処のコツは、敬意と忠謹にあると考えている。
 官僚は全員、3年ごとに勤務評定を受けた。不謹(不真面目)、罷軟無為(無気力)、浮躁(軽率)力不足、年老、有疾の6ランクがある。清朝の官僚には定年退職の規定がなかった。
 清朝時代の官僚の実際を知ることのできる本でした。
(2024年4月刊。2400円+税)

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2024年11月 4日

中世の騎士の日常生活

ヨーロッパ


(霧山昴)
著者 マイケル・プレストウィッチ 、 出版 原書房

 リアルな騎士の生活を紹介した本です。興味深く読み通しました。
中世のヨーロッパには紛争が絶えなかった。なので騎士は苦労せずに雇い主を見つけられた。フランスとイングランドの争いは1337年に始まり100年間も続いた(百年戦争)。
 フランス側からみると、敵のイングランド王家はフランス王に謀反を起こしている臣下である。イギリス側からすると、フランス王家の血を引くイングランド王がフランスを自分のものだと考えるのは、しごく当然のこと。だから、国家間の紛争というより、フランスの内戦のようなもの。1346年のクレシー、1356年のポワティエそして1415年のアジャンクールの戦いでの三度のイングランドの大勝利によって、区切りがついた。
剣術は万人向けの武術ではない。エリート兵だけの技術である。
 騎士に読み書きは必須である。点呼名簿を保管し、令状に目を通して、それに従い、合意や契約を結ぶ必要がある。
 騎士になるには、①体力があり、②馬を扱え、③槍と剣をうまく使え、④宮廷作法を身につけていることが必要。
 イングランドでは、年間40ポンド以上の価値のある土地を所有している者は騎士になれる。つまり、身分が低い、あるいは怪しげな出自をもつ者でも騎士になるのは、フランスよりも簡単。
叙任の儀の前には沐浴(もくよく)し、しばらく湯船につかる。日頃は風呂に入ることはあまりなくても、罪を清めるために沐浴は必要。
 ひとたび騎士になったら、旗(バナレット)騎士へと出世する道が開かれる。
 フランスのブシコー元帥、ベルトラン・デュ・ゲウラン総司令官の2人ともそれぞれの法廷をもっている。元帥は、軍事にかかれる幅広い分野の司法権がある。
 1306年、のちのエドワード2世が王太子に叙任されたときの祝宴には、うなぎ5000匹、タラ287匹、カワカマス136匹、サケ102匹が供された。肉はどうしたのでしょうか...。
 クロスボウ(石弓)は、恐ろしいほど重くて太い矢を放つ。イングランド軍は長弓を使う。サラセントは、異なるタイプの短い弓を使う。
 甲冑(かっちゅう)の総重量は22~27キロくらい。暑いときに、身につけると窒息する恐れがある。甲冑は完全に身を守ってくれるものではない。1337年、ウィリアムは1本の矢が三枚重ねの鎧下と三層の惟子を貫通して死んだ。
 テンプル騎士団は、14世紀初めに解体された。たくさんの土地を所有し、一大金融機関になっていたので、フランス王フィリップ4世がその資源に目をつけた。テンプル騎士団員54人は、1310年5月12日、異教徒の罪で火あぶりにされた。
 騎士が特定の領主に仕えると決めたら文書で契約を交わしておくのが最善。2通つくって、各自1通ずつもっておく。
 1346年、エドワード3世は、兵役に就くことを条件に1800人の犯罪者に恩赦を与えた。
行軍の速度は、1日8~10キロほど。ところが、1355年に突撃した黒太子は1日に40キロも進んだ。
略奪と横領は戦争につきもの。
1358年のフランス農民一揆のとき、農民たちが騎士を火あぶりにして、その肉片を妻子に無理やり食べさせた。騎士に同情する必要なんてないと考えたのだ。
 十字軍といっても、ほかのキリスト教徒に対する十字軍もあった。騎士には十字軍に参加する義務はない。
敵を捕虜にしたら、身代金を要求できる。アジャンクールの戦いで、フランス軍の反撃を恐れたヘンリー5世は捕虜の殺害を命じた。これは多額の身代金を得るチャンスを失うという点で、財政的には愚かな判断だった。捕虜や身代金は売買もできた。
 「実践非公式マニュアル」というものですから、かなり騎士の実情を明らかにしているように読みながら思いました。
(2024年4月刊。2500円+税)

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2024年11月 5日

ザトウムシ

生物


(霧山昴)
著者 鶴崎 展巨 、 出版 築地書館

 クモみたいだけど、クモではない、脚長の生き物。このザトウムシを高校生のころから50年ものながいあいだ研究しているという著者による本です。すごいですね、まったく見上げた執念ですよね。
ザトウムシは座頭虫。歩くとき、最長の第2脚を前方に伸ばして周囲を探るような姿勢をとる。その姿が、前方を杖で探りながら歩く姿に似ていることから、江戸時代にザトウムシと呼ばれるようになった。
 ザトウムシは、山地の森の中で、人知れず、ひっそりと生きている。
 ところが、手塚治虫のマンガ「きりひと讃歌」に出てくるし、野田サトルの「ゴールデンカムイ」にもザトウムシが非常に正確に描かれている。手塚治虫は昆虫好きでも有名でした。
 クモとザトウムシの違いは、2つ。クモは腹部と頭胸部とのあいだが細くくびれているが、ザトウムシはずんどう。そして、眼はザトウムシは2個なのに、クモは8個か6個の単眼をもっている。
ザトウムシの細い脚は、古生代の化石として登場するときも今と同じく細く長い。
ザトウムシは、1年に1世代。
ザトウムシは、小型の昆虫やクモ、陸見、ミミズを食べる。食性幅が広いので、クモと違って食べ物には困らない。
 クモは消化した液体しか取り込まないので、不消化物が少なく、ほとんど糞が出ない。ザトウムシの糞は、白いペレットとして肛門から排泄する。
 ザトウムシを飼育するときの餌(エサ)は、カロリーメイト、食パン、魚肉ソーセージ、チーズなど、どれもよく食べる。そして、水をよく飲む。
 オスとメスは向きあって交尾する。オスはメスに餌を提供して長い交尾時間を確保している。この餌を婚姻贈呈という。メスは平均で7個体のオスと交尾している。
 ザトウムシには、メスしか見つからず、産雌単為生殖種と考えられるものが多い。日本産のザトウムシの1割にあたる8種がそうである。
 ザトウムシでは、子を保護するのをオス(父親)もする。
 ザトウムシは、世界には6300種いて、日本には80種いる。
ザトウムシは、人を咬んだり刺したりすることはないので無害だけど、人の生活に目立つ益もない。ただし、森林害虫を捕食している。
蛇足ながら、著者の長男は、TBSテレビのクイズ番組で初代の「東大王」だったそうです。マニアックなところが似たのでしょうね、きっと...。
(2024年8月刊。2400円+税)

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2024年11月 6日

論究・新時代の弁護士

司法


(霧山昴)
著者 髙中 正彦 ・ 石田 京子 、 出版 弘文堂

 五大事務所の活躍ぶりは目覚ましいものがあります。直近の新人(76期)は五大事務所に合計250人が入所しています(1事務所50人です)。初任給は1000万円から1300万円だと聞いていますので、1事務所だけで少なくとも5億円の人件費増となるわけですが、それでも事務所財政がパンクしたという話は出ていません。恐るべき全額です。ちなみに、裁判官81人、検察官76人が新規任官者で、76期は総数1387人です。
長野・大野・常松は弁護士555人、総勢1000人。アンダーソン・毛利友常は弁護士620人、総勢1409人。西村あさひは弁護士682人、総勢1690人。森・濱田は弁護士596人、総勢1405人、TMIは弁護士575人、総1233人。いずれも、まさしく巨大企業です。
 2006年には、弁護士は長島・大野・常松が222人、森・濱田松本が209人、西村ときわ209人、アンダーソン・毛利・友常195人、あさひ狛157人、TMI102人だった。17年間で2~3倍に増えているのです。
五大事務所は他士業との連携もすすめています。司法書士、行政書士そして弁理士、税理士です。
 TMIは知的財産権を得意の専門分野の一つとしているので、弁理士92人のほか、特許技術者、特許・商標事務スタッフ122人を抱えています。TMIは毎週月曜日は朝9時半より朝礼をし、月曜日のランチタイムには全弁護士、弁理士が参加するミーティングをしているとのこと。すごいです。
企業内弁護士は3000人をこえた(2023年6月に3184人)。全弁護士の7.1%。10年前に比べて3倍増。地方公務員になった弁護士も200人に近い。
次は、地方会の例として高知弁護士会の状況。会員92人、うち女性は12人。入会者は少なく、10年間に5人しか増えていない。そして、当番弁護士や国選事件の登録弁護士が若手のなかで減っている。これは生来を考えると「危機的状況」にあるとのこと。
 九州でも、宮崎や長崎で同じような悩みをかかえていると聞いています。
 弁護士は1万7千人(2000年)から、4万5千人(2023年)の大幅に増加した。2050年には6万3千人になると予測されていて、フランス並みの対人口比を実現していることになる。
海外では見られないのが日本の弁護士会の特徴的なプロボノ活動。たしかに全国の弁護士会は各種プロボノ活動を身銭を切って活発に展開していますよね。これも弁護士の活動の一つだと思って私もやってきましたが、その点が少し薄れているようなのが残念です。
 とはいっても、依頼者との関係に悩む弁護士の割合が増えているとのこと。10年間に17%も増えていて、60期以降でみると、6割にのぼるというアンケート結果があります。
 他者に対する共感(エンパシー)が大切だけど、この共感は弊害ももたらすことがあり、注意も要するところです。弁護士も人間を相手にするだけに、なかなか大変なのです。
 本文730頁、定価は1万円をこすという、枕のような分厚い本です。タイトルに惹かれ、また綱紀・懲戒問題に関心がありましたので日弁連会館地下の書店で購入し、帰りの飛行機のなかで、乱高下する状況に耐え、不安を感じながら読み通しました。大変勉強になりました。
(2024年10月刊。13200円)

 いつものとおりよく晴れた文化の日に庭のイモ掘りをしてみました。全部ではなく、端のほうだけ試しに掘り上げたのです。昨年は庭の別なところでしたが、大きくならず失敗しました。別の場所で、うまくいくかと恐る恐る掘り上げてみると、立派な形の芋が地中から姿を現してくれました。ヤッター!と、つい叫んでしまいました。
 さて、味はどうでしょうか...。ちょっと甘さが足りませんでした。まあ、それでもイモの味はしました。

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2024年11月 7日

学校に行かない子どもが見ている世界

社会


(霧山昴)
著者 西野 博之 、 出版 KADOKAWA

 マンガとともに不登校の子どもたちの声、そしてその対応策がとても分かりやすく紹介されています。改めて大変勉強になりました。私自身は弁護士として子どもたちの不登校問題に関わったことはありませんが、青年から中年までの引きこもりの人は今も関わっていますので、とても身近な問題です。
 不登校の子どもが全国に30万人いるそうです。
 文科省は、「不登校児童生徒が悪いという根強い偏見を払拭(ふっしょく)」すべきだという通知を全国の都道府県教育長あてに出している(2016年)。文科省は、不登校は「誰にでも起こりうる」もので、「不登校を問題行動と判断してはならない」としている。
不登校の子どもたちは、心の中ではとても苦しんでいて、みんなが当たり前にできる「ふつう」のことが出来ないと自分を追い詰めている。
 日本では、15~39歳までの死因のトップは自死。これって、やはり異常ですよね。将来ある子どもたちを自死に追いやってはいけませんよね。日本の将来がなくなってしまいます。
 義務教育の9年間でいじめが一番多い学年は小学2年生。その次に小学3年生、小学1年生と続く。小学校低学年にいじめが多いって、大変ですね...、知りませんでした。
 学校に行けない子の多くは、自分でも理由が分かっていない。だから、原因探しはほどほどにして、まずは子どもをゆっくり休ませること。ふむふむ、そうなんですか...。
子どもが昼夜逆転の生活をしていても、過剰なまでに心配しないでいい。心を守るため、朝起きられない体を作っている。
 子どもが一日中ゲームをしているからといって、唯一の楽しみを奪ったり、無用に制限すると、家庭内暴力に走ったり、親と一切会話をしなくなったというのは、よくあること。
鈍感な子どもは、「ふつうに」学校に行ける。なので、「ふつう」とか「あたりまえ」のほうを疑ってみたほうがいい。
親が唯一してあげられることは、居心地のいい家をつくること。家が子どもにとって安心、安全で、居心地のよい居場所になれば、子どもの回復は早まる。
 子どもの動き出しの合図の一つは、「ひまだー」というコトバ。
世間体を気にしているうちは、子どもは動かない。関心を世間ではなく、子どもに向ける。
 日常の、子どもとの意味もないような、どうということのない会話が実は大切。
 「生きていれば十分」。心の底からそう思えたら、ゆっくりと何かが変わり始める。
親にストレスがたまれば、それだけで子どもに負荷がかかる。親がいきいき生きている姿を見ると、子どもは、自分は自分のままでいいんだと安心して、自己肯定感が養われる。
学校には無理して行く必要がない。それが常識になる社会にしたいものですね。そして、それは会社も同じこと。カローシ(過労死)するまで働く必要はまったくないのです。嫌なら、さっさと会社を辞めて、転身して生きのびましょう。
(2024年10月刊。1500円+税)

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2024年11月 8日

Z世代のアメリカ

アメリカ


(霧山昴)
著者 三牧 聖子 、 出版 NHK出版新書

 アメリカの大統領選挙の投票日も間近となりました。「もしトラ」が万が一にも実現したら、本当に世の中、お先、真っ暗ですよね。私からすると、トランプなんて、見かけ倒しのインチキ不動産ブローカーにしか思えないのですが、プアホワイトが熱狂的に信奉しているようですね、怖い現象です。
 さて、Z世代とは何か...。1997年から2012年のあいだに生まれた世代のことです。
 現在、アメリカの人口の2割を占めています。
 Z世代は、アメリカの強さよりも弱さを、その善なる部分より悪しき面を存分に見て育った世代。そして、戦争なんか、もうコリゴリという反戦感情を抱いている。
 アメリカによる「テロとの戦い」のために、過去20年間でアメリカが軍事作戦を展開した国は80ヶ国に及び、支出した費用は880兆円(8兆ドル)。そして、死亡した米兵は7千人。敵対する兵士や民間人を含む全世界の死者は90万人をこえる。
 トランプは、今後はただひたすら国益を追求する、「アメリカ第一」で行くと宣言した。トランプは、「例外主義」を放棄した大統領。
 Z世代は物心がついてから、ずっと、お金がものを言う政治を見せつけられてきた。
 アメリカの社会保障制度や政治システムに関して「誇りに思えない」と回答する割合が6割をこえている。これって、Z世代に限らない割合です。それもそうですよね。アメリカには国民皆保険制度が今もなく、それを主張すると、「アカ」呼ばわりされるのですから...。
 さしずめ、ヨーロッパはフランスもイギリスも、トランプからすると「アカ」の国になってしまうのです...。おかしな話です。
 「他国への軍事介入はアメリカをより安全にするか?」という問いに対して、「安全にならない」と回答した人が40%にのぼるとのこと。アメリカ人も良識のある人も少なくないのですね、ちょっぴり安心しました。
 ロシアのプーチン大統領にとって、トランプの主張するような、アメリカが「例外主義」を放棄して「アメリカ第一」を掲げて内向きになることは、周辺国に領土や勢力圏を拡張したいので、望ましいこと。だから、トランプはプーチンと仲が良いのですね。
 アメリカでは、上位10%の世帯が国の富の72%を保有し、下位90%の世帯は国全体の富の2%しか持たない。格差は広がり、ますます固定化している。
 トランプ大統領の下で司法の保守化がすすんだ。これは「永久保守革命」とも称される。
 2022年の中間選挙でZ世代の連邦議員が初めて誕生した。マクスウェル・フロストという。
 アメリカのZ世代の活躍ぶりを知ることができました。日本では、Z世代は団塊世代2世が該当するのでしょうか。アメリカに比べて少々、活力が感じられませんね...、残念です。でも、決してあきらめているわけではありません...。
(2023年7月刊。930円+税)

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2024年11月 9日

クラーク・アンド・ディヴィジョン

アメリカ


(霧山昴)
著者 平原 直美 、 出版 小学館文庫

 1944年、シカゴの地下鉄駅で事故が発生。
 著者はアメリカで生まれ育った日系3世。1962年にカリフォルニアで生まれ、スタンフォード大学を卒業してロサンゼルスの大手日系新聞社に入社して記者として活動しはじめる。その後、作家活動に入った。ジャーナリストとして、そして小説家として、日系アメリカ人のリアルを追い続けている。
 アメリカに日本が戦争を仕掛けたあと、日系人は収容所に入れられた。ただし、アウシュヴィッツのような絶滅収容所ではなかったし、シベリアに抑留して強制労働させられたというものでもない。アメリカに対して忠誠心をもつと認められたら、収容所を出ることが認められた。ただし、西海岸に戻ることはできず、行き先はアメリカ政府(戦時転住局、WRA)が定める。
 アメリカ生まれ、アメリカ育ちのアメリカ市民、日本に行ったこともないのに、ルーツが日本だというだけで差別された。収容所を出るときの出所許可申請書には、「日本国天皇に対する忠誠を拒絶することを誓えるか?」という質問がある。
 そして、戦時下で強制収容所に入れられたのは日本人と日系人だけで、同じ敵国のドイツ系もイタリア系もそれまでどおりの生活を送ることができた。
 戦時下のアメリカで日系人がどんな苦労をしていたのかが手にとるように分かる描写が満載のミステリー小説でした。そして、どこの国も警察って、あてにならない、そしてあてにしてはいけない組織だということもよく分かります。
 袴田さんの再審無罪判決で、裁判所が警察官たちが証拠を捏造(ねつぞう)したとしか考えられないと認定したのに対して、検事総長は控訴断念の声明のなかで「残念無念」とばかり言って、まったく反省の色を示していません。こんな警察・検察だったら、今後も再び証拠捏造をやってしまうんだろうなと思わざるをえません。そのため、これまでたくさんの人が泣いてきたわけですが、これからも泣かされる人が続出するということですよね、残念です。
(2024年6月刊。1210円+税)

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2024年11月10日

ゴールデンカムイ、絵から学ぶアイヌ文化

社会


(霧山昴)
著者 中川 裕 、 出版 集英社新書

 マンガそして実写版の映画にもなった「ゴールデンカムイ」のアイヌ語の監修者によるアイヌ文化を紹介する新書です。新書といっても550頁もあります。マンガで紹介するところは字が小さすぎて、よく読めませんでした。
 それにしても監修者によると、「ゴールデンカムイ」はアイヌ文化を十分に踏まえたマンガになっているそうですから、たいしたものです。
 「ゴールデンカムイ」は2014年に連載を開始し、2022年4月に完結するまで、8年間、連載され、コミックスの最終巻は31巻という大長編です。すごいですね。累計で14万部を突破したとのこと。
 主人公が日露戦争の帰還兵ということは、明治時代から大正期にかけてのことでしょう。
 伝統的なアイヌの世界観では、世界のあらゆるものにはラマッ「魂、霊魂」があると考えられている。そのなかでも精神、意志をもって何らかの活動をしていると感じられるものを、とくにカムイと呼ぶ。狩猟というのは、人間が獲るのではなくて、カムイのほうから弓矢に当たりに来るものと考えられている。
北海道アイヌにとって、ただカムイとだけ言えば熊を指す。それほど熊はカムイ中のカムイというべき存在だった。
 アイヌにとって、鮭は主食といえるもの。シマフクロウは、とりわけ格の高い、えらいカムイ。
 著者は、熊の顔の肉と脳みそを生で叩きあわせて、塩とネギで味付けしたものを食べたことがあるそうです。本当においしかったとのこと。でも、私はちょっと...。と言いつつ、私も仔牛の脳みそは食べたことがあります。もちろん生(ナマ)ではありません。軽くソテーしたものです。ちょうど豆腐を食べている感じでした。
 アイヌ語で、金(きん)はコンカニ、銀はシロカニという。日本語の「こがね」「しろがね」からの借用。そして、銀のほうが金よりは格上の扱い。
 アイヌの人々は入れ墨をしているが、これはアイヌの専売特許ではなく、東南アジアから南太平洋にかけて広く広がっている。
アイヌの人々が久しぶりに再会したときは、正面を向きあいながら、お互いの髪をなでおろし、背中をさすったり、手をさすりあったりして、再会を喜びあう。
アイヌの女性は、成人男性の前では、被り物をとるのが慣習。
人が座っているところを通るときは、その人の後ろを通ってはいけない。座っている人の前を通るのがアイヌの作法。
 アイヌの伝統的な食器や調理用具のほとんどは木製品。囲炉裏で煮炊きし、鉄鍋による料理を食生活の基本としてきた。鍋物(オハウ)こそがアイヌの日常的なメインディッシュだった。
ムックリは、北海道アイヌにおいて唯一と言ってよい楽器。ネマガリダケでつくる。
アイヌは汚れた水を流さないようにするため、川で洗濯することはなかった。では、いったい、どこで洗濯していたのでしょうか...。
 ギョウジャニンニクは、アイヌの食生活において、なくてはならない山菜。
かつてのアイヌには苗字がなかった。明治になってから苗字をつけることが強制された。
 「ゴールデンカムイ」に登場するアイヌ語の人物の名前の多くは、著者が候補を上げ、そのなかからマンガを描いた人が選んだ。
 小説の中の登場人物のネーミングは実は難しいのです。ありきたりの名前では印象が薄く、読者に覚えてもらえません。そこで、一般的には電話帳をめくったりして、書き出します。今だとスマホの画面になるのでしょうね...。
 大変勉強になりました。ちょっぴりアイヌの人々の生活の一端をのぞいた気がしました。
(2024年2月刊。1500円+税)

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2024年11月11日

平安のステキな!女性作家たち

日本史(平安)


(霧山昴)
著者 川村 裕子 ・ 早川 圭子 、 出版 岩波ジュニア新書

 まずは平安時代のライフ・スタイル。
朝の合図は太鼓の音。夜が明ける合図なので、午前4時半から6時半。2回目の太鼓は出勤の合図で、午前5時半(夏)から7時50分(冬)ころ。食事は1日2回。朝と晩の2回。朝の食事は午前10時ころから12時ころ。晩の食事は午後4時ころ。ただし、朝の出勤前に少し軽食をとることもあった。朝食は午前中の勤務が終わったころなので、自宅に帰って食べる人も多かった。夕食も基本は自宅でとる。
 母親の出産は危険で、5人に1人は亡くなった。平安のころの出産は命がけだった。
 上流家庭の娘は、習字と和歌、そして琴(こと)。和歌は古今和歌集を丸暗記する。
男子が女子の家に3日連続で通うと結婚成立。
 離婚するときは、妻は実家に戻る。実家に引きとる力がなかったら、女子はそのまま没落する。
貴族の女子が外に出て働くといえば、宮仕えのこと。宮中や貴人に仕える。
宮中には後宮(こうきゅう)があって、そこに天皇の奥さまたちがいた。そこで仕えるのも宮仕え。
公務員としておつとめする女性を女官(にょかん)と呼ぶ。女官は多かった。
後宮には12もの役所があった(後宮十二司)。
 上達部(かんだちめ)、殿上人(てんじょうびと)はVIP。貴人の世話をする女性を女房と呼び、3階級に分かれていた。上臈(じょうろう)、中臈(ちゅうろう)、下臈(げろう)。
 紫式部や清少納言は中臈ぐらいとみられている。
 上臈はセレブな特権階級で、禁色(きんじき。特別な人以外は使用が禁止されていた色)や織(おり)が許されていた。
 「更級(さらしな)日記」の作者である菅原孝標(たかすえ)女(むすめ)の本名は不明。父親はかの菅原道真の五代目。「蜻蛉(かげろう)日記」の作者である道綱母の異母妹という関係。
 清少納言が定子(ていし)に仕えた993年から1000年までの7年間のうち、本当に穏やかだった時代は993年から995年までの2年弱。あとは不幸な出来事が続いた。
 この不幸な状況のなかで清少納言は定子たちとの華やかな生活を描き出した。
平安時代の女性も現代日本の女性と同じように強く、たくましく生き抜いていたのです。もちろん、全員がそうだということではありませんが...。
(2023年10月刊。990円+税)

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2024年11月12日

ネクスト・クエスチョン

アメリカ


(霧山昴)
著者 ステファニー・グリシャム 、 出版 論創社

 トランプほど虚像の大きい男はいないのではないのでしょうか...。アメリカで有権者の半分ほどがトランプに投票したなんて、まったく信じられません。著者は6年間も、トランプ一家のすぐ近くにいて、すべてを余すところなく目撃した女性です。
2021年1月6日、トランプ政権から著者はようやく脱出できた。ええっ、いったい著者の職業は何、なんなの...???
 著者はファーストレディ(メラニア夫人)の広報部長、そして、大統領の報道官なのでした。
トランプは、わざと常軌を逸し、道化を演じる。テレビショーで長年にわたって人気を博したのには、それなりの理由がある。
トランプは、自分が注目の中心、政治の中心、政治の中心、そして世界の中心にいるという栄誉に浸っていた。
 トランプの食習慣は16歳のそれである。トランプの食事のメニューは、どこにいようと、ほぼ変わらない。ウェルダンのステーキ、チーズバーガーとポテトフライ、スパゲティとミートボール。デザートはバニラアイス2個。複雑で繊細な外国料理は好みにあわない。
 トランプは、自分の指示に相手がどこまで従うのか、いつも見ている。それが、忠誠心を測るトランプ流の方法だ。
周囲の人間にとって、トランプを満足させ続けることが何より大事なこと。
 トランプのボキャブラリーに、「強硬」「どう猛」「殺し屋」以上のほめ言葉はない。
トランプのもっとも貴重な所持品は、ツイッター(X)のアカウント。
 トランプは、頭髪をあの形に整えるべく、毎日耐えている苦労はすごいものがある。大量のヘアスプレーを使っている。トランプの見た目は毎朝、顔に塗るメイクによって作られている。トランプは、夕食後には映画をみて過ごす。
 トランプにとって女性との不倫は日常茶飯事にすぎない。
 トランプはダイエットコークを次から次に飲み干すという癖がある。
 トランプは、自分自身に関する報道しか気にかけていない。
トランプは一瞬のうちに激怒する。その怒りは一時的であっても、非常に激しい。
 トランプは人の弱点を見つける能力があり、信じられないほど下劣で、粗野で、そのうえ効果的なやり方で怒りを向ける。
 人は負け犬や弱虫と言われるのがもっとも嫌いだとトランプは考えているので、そんな単語を無数に発する。
 トランプはフランスのマクロン大統領について、「あいつは臆病者だ」とけなした。
トランプは細菌恐怖症だ。プーチンは、それを知っているので、わざと咳払いを繰り返した。他の人なら怒鳴りつけるところ、トランプは黙って耐えた。
 トランプは娘イヴァンカの夫・ジャレッドに事実上無制限の権力を与えていた。それは愛娘(イヴァンカ)のご機嫌を損ねたくないから。
 ジャレッド・クシュナーの機嫌が悪い。トランプのホワイトハウスでは、絶対に聞きたくないニュースだった。著者はジャレッドの愚かな発言に辟易(へきえき)させられていた。
 トランプのホワイトハウスでは、トランプに都合の悪い事実がニュースとして流れると、その情報漏洩者捜しが始める。しかし、これは気に入らない人間を排除する口実として用いられることが多かった。
トランプ一家の大半の人間は、人々をいともあっさり解任し、自分たちの生活から切り離していく。
完全なる忠誠心を求めるものの、誰に対しても忠実ではない。彼らはビジネス界の人間であって、ビジネスに私情を差しはさむことは許されない。
トランプのやったことで良いことは共和党の政策だからであって、トランプの政策が良かったからではない。
 分裂を引き起こし、スキャンダルまみれのトランプ時代のドラマと決別すべきだ。
 6年間もすぐそばにいた女性から、これほどまで「下劣」だと決めつけられるような人間がアメリカの大統領になるなんて、ホント信じられません。
(2024年6月刊。2400円+税)

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2024年11月13日

旧統一教会元広報部長懺悔禄

社会


(霧山昴)
著者 桶田 毅 、 出版 光文社新書

 1992年に統一協会(私は「統一教会」とは書きません)の広報担当になり、1999年まで7年間、広報部長をつとめた大江益夫に取材した新書です。
大江益夫は私とほとんど同じ団塊世代です(私の1学年下)。福知山高校の1年生のとき民青同盟に加盟し、生徒会の副会長にもなっています。ところが高校2年生のとき統一協会(当時は原理研究会)に出会って「論破」され、信者になります。大学は私より2年遅く早稲田大学教育学部に入ります。
 当時、早稲田大学は民青系ですが、あとは革マル派が支配していました。ノンポリ学生(川口大三郎君)が中核派のメンバーと誤認されて革マル派から虐殺されるという事件も起きています。
大江と一緒に早大原理研の有力メンバーとなった河西徹夫は、元革マル派でした。大江は今なお文鮮明を再臨のメシヤだと信じているようです。それは、「文先生」と呼び、文鮮明と呼び捨てしないことで分かります。
 大江は統一協会の霊感商法には批判的です。1975年から1984年までの10年間で、日本から韓国の統一協会本部へ2000億円という莫大なお金が送金されました。日本の罪なき、善良な人々を脅迫し、騙しとったお金が文鮮明一家の不正蓄財にまわったのです。
 統一協会の信者は最大60万人、今でも8万人ほどいる。離れていった人々は、信仰の夢が破れ、生きるすべなく経済的に困窮している人が多い。実に悲惨な状況にある。かの山上容疑者の母親もその一人ですよね。
統一協会(国際勝共連合)は、公安調査庁とも連絡をとっていて、「関係はきわめて良好」だった。
 大江が広報部長をつとめた7年間、統一協会の会長は、1年1人の割合で、7人が交代した。ストレスがたまって精神的におかしくなって辞めた人間もいる。ひどい組織です。
 大江は統一協会の広報部長を辞めたあと、疑問をまとめた『統一教会の検証』という本を刊行した。すると、待っていたのは、ブラジルのアマゾン川の上流の奥地(パンタナール)への左遷。3年間、大江はそこにいた。いやあ、大変ですね...。
 朝日新聞阪神支局が襲撃され、記者1人が亡くなり、もう1人の記者も重傷を負った赤報隊事件(1987年5月3日)にも統一協会がからんでいるという話は初耳でした。被害者の記者に対する脅迫状は統一協会(国際勝共連合)を取材したことによるものと解されるものだったそうです。これまた知りませんでした。
国際勝共連合には諜報部隊があり、その武闘派グループは400人もいて、散弾銃をもって、クレー射撃などの訓練もしていたとのこと。
 犯行を指揮したリーダーは武闘派を中心とした末端の信者である可能性があり、散弾銃で射殺した実行犯は、闇社会のヤクザ組織の人間ではないか...。
 いやあ、世の中、ホント、知らないことだらけです。怖いし、また、それを知るのが面白くもあります。
(2024年9月刊。990円)

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2024年11月14日

満州事変、ある日本人兵士の日記

日本史(戦前)


(霧山昴)
著者 森下 明有 ・ 笠原 十九司 、 出版 新日本出版社

 著者の森下明有(あきあり)は、明治43(1910)年生まれですので、私の亡父(明治42年生)と同世代です。著者は(森下)は北海道に開拓農民の四男として生まれました。召集され、戦前の満州事変に従軍し、中国で負傷して日本に護送され、命は助かり、2001年に91歳で亡くなったのでした。
 森下は1933(昭和8)年4月12日、戦場で左胸部貫通銃創を受け、野戦病院を転々としたあと、日本に護送された。要するに敵兵(中国兵)から左胸を撃ち抜かれたけれど、生命だけは助かったということです。それでも北海道で農作業に従事できるほどの体力に戻らなかったようです。
森下の日記は1932(昭和7)年9月18日から、翌1933(昭和8)年5月31日までのものですが、ともかく戦闘状況をふくめて、びっくりするほど詳細です。
 ただし、原本は雨や雪で文字がにじんだ部分も多く、解読にあたったスタッフはかなり苦労したようです。それでも、こうやって、きちんと文章化して、戦場の様子を生々しく知ることができるのですから、ありがたいことです。
 森下は20歳で徴兵検査を受け、甲種合格となり、翌1931年9月に志願兵として入営した。一等兵への進級は部隊で11番目、上等兵へは6番目で進級した。真面目に「寸暇を惜しんで勉強した」ようです。
 1932年10月7日の日記に森下は、こう書いた。
 「自分は兵士である。戦争するのが最大の目的である。けれども、私は彼ら無知の匪賊を殺すに忍びない。あまりにも堪えられない。彼らとの戦闘においては、その戦力をそぐということは、彼らを殺すよりほかに道がない。ああ、やるときには断然やるのだ。けれど、無知なる彼らをあわれむ情において、ただ涙あるのみ。彼らの冥福を祈ろう」
 10月19日。「支那人の農家たちの生活の一端をみると、実際、単調そのものである。何の娯楽も趣味もないらしい。このような単調の境遇にある彼ら支那農民の若者らが馬賊のごとき気合のかかる仕事に加わるのは、あるいは自然の勢いではなかろうか。満州の匪賊をなくすには、彼らに働き甲斐あらしむのが一番早道だろう」
 1933(昭和8)年3月18日。「支那兵の戦死しているのを見る。彼らは敗戦だから、屍(しかばね)を収容する者もいない。いたずらに屍を野辺にさらしている。その死に方も無惨だ。彼らの死顔を見ていると、憎らしいという感じはなく、哀れみの感情が起きて来る。彼にも肉親の者はいるのだろう。だのに、彼はこうして、何処(いずこ)とも知らぬ野辺(のべ)の巣に屍となって犬や豚や鳥などに食われてしまうのだ。哀れといえば、まことに哀れな彼らである」
 森下らが対峙した「敵」は国民政府軍でもある張学良軍で、機関銃や砲兵など近代的な武器を展開した。高地など有利な地形に兵士が身を隠せる1メートル前後の塹壕(ざんごう)を掘り、陣地を攻撃してくる日本軍を狙い撃ちする戦闘だった。そのため、昼間の戦闘では、堅固な陣地を攻撃する日本軍には圧倒的に不利で、犠牲者も出るから日本軍は夜襲攻撃作戦、つまり夜間に敵陣地を包囲し、夜明け、それもまだ薄暗いときに総攻撃をかけて敵陣地に躍に込んでいくという戦法をとった。
 森下は機関銃兵であり、ある日の戦闘で使用した弾数は3月10日は39連(1170発)、11日は15連(450発)、12日は38連(1140発)、13日は52連(1560発)というほど撃ち込んだ。ついに日本軍は銃弾の補給が困難となり、銃剣で敵の陣中に突撃して陣地を占領した。
 森下は、中国兵を「匪賊」とはみなしてはいなかった。中国人を差別、蔑視していなかった。しかし、これは日本兵の中では例外的であったと解説されています。
戦後も、森下は、差別しない、理不尽な言動はしない、子どもたちへの心配もさりげなく見守るという人間性をみせていたということです。
 ともかく、よくもこんなに詳細な日記を書いていたということに驚嘆しました。いかにも貴重な資料です。
(2024年7月刊。3500円+税)

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2024年11月15日

従属の代償

社会


(霧山昴)
著者 布施 祐仁 、 出版 講談社現代新書

 先の衆議院選挙では大軍拡の是非が争点となりませんでした。残念です。5年間で43兆円もの大軍拡予算が着々と現在進行形です。石破首相は日本の防衛力を強化する必要があるといって、これまでの安倍-岸田路線をそのまま踏襲しています。公明党はもちろん与党として、それを推進し、維新も国民民主党(玉木)も同じく、軍事予算は聖域扱いで、縮小なんて一言もいいません。本当にそれでいいのでしょうか?
 安保三文書を批判的に検討する討議資料を日弁連は作成中ですが、安保三文書には実は国民を守るための施策は何ひとつありません。たとえば、私たちの毎日の生活は水と電気が不可欠ですし、ガソリンと食料品がなければ行動できませんし、生きていけません。ところが、このようなインフラ・システムを守る手だては何も講じられていません。上下水道施設、火力発電所そして港湾がミサイルで攻撃されたら、多くの日本人は、その時点から生活できなくなります。船舶が動かなくなったら、食料自給率が4割もない日本ではたちまち食べ物がなくなります。車だってガス欠になります。
 そして、主として日本海沿いに50基以上も原子力発電所(原発)があります。地上から「デモ隊」が押し寄せてきたら対抗・排除できる体制はあるようですが、問題はミサイル攻撃です。これには対策の打ちようがありません。放射能がダダ洩れはじめたら、「決死隊」を送り込んでも、止めようがないのです。日本列島のどこにも逃げ場はなく、住むところがありません。
いま、自衛隊はミサイルの放射距離を200キロから1000キロにのばしました。中国内陸部へミサイルを撃ち込もうというわけです。そんなミサイル収納庫(大型弾薬庫)が大分に新増設されようとしています。防衛省は、2032年までに全国で130棟もの弾薬庫を増設するというのです。日本列島はミサイル列島になりつつあります。
 こんなミサイル基地が身近にあったら、あなたは安心ですか...。いえいえ、ミサイル基地は、「敵」から真っ先に狙われるのですよ。周辺の民家は爆発の巻き添えを喰うことでしょう。   
南西諸島にミサイル部隊を配置して「南西の壁」がつくられようとしています。台湾有事に備えてのことです。では、「敵」の反撃を受けたら、この南西諸島の住民はどうしますか...。船や飛行機で戦火の島から脱出できると思いますか...。出来るはずがありません。戦前の「対馬丸」の悲劇を繰り返すことになるでしょう。
中距離ミサイルを中国本土に届かせるためには、日本かフィリピンのミサイル基地を九州に置くしかない。これがアメリカの考えです。日本を捨て石にしようというのです。
 いざというときに、アメリカから見捨てられたら、どうしようと悩む若者が少なくないとのこと。そんな奴隷のような心情は一刻も早く、きっぱり脱ぎ捨てましょう。
 巡航ミサイルや極超音速滑空兵器はステルス性があり、発見されにくい。
本当に「台湾有事」が現実化したとき、先島(さきしま)諸島や南西地域だけの「局地戦」にとどまる保証はどこにもない。そうなんです。
 ミサイルが、核弾頭でないというだけで安心してはいけません。核弾頭が使われたら終りという前に、日本は破滅してしまうのです。
 安保三文書にもとづく大軍拡は、実のところ日本国民を死に追いやってしまう、危険きわまりないシロモノなのです。国を本当に守るのなら、軍備増強ではなく、話し合いしかありません。
(2024年10月刊。980円+税)

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2024年11月16日

涅槃(ねはん)の雪

日本史(江戸)


(霧山昴)
著者 西條 奈加 、 出版 光文社時代小説文庫

 さすが直木賞作家だけあります。読ませます。しびれてしまいます。
ときは、老中・水野忠邦が推進する天保の改革のころ。北町奉行の遠山景元の下で町与力として働く高安門佑(もんすけ)が主人公。
 水野忠邦の改革を推進する側の鳥居耀蔵も登場してきます。数々の弾圧をすすめた張本人です。この鳥居耀蔵が門佑を誘ったりして、事態は複雑に進行します。
遠山景元は、南町奉行の矢部定謙と一緒に水野忠邦の改革案に抵抗します。たとえば、芝居小屋の閉鎖・縮小、そして株仲間の解散です。
水野忠邦は、貨幣を改鋳(かいちゅう)した。貨幣に混ぜる金銀を減らし、浮いた金銀を幕府の収入とするもの。ところが、1両を4千文と定めた公定相場が崩れ、今や6500文として取引されている。そして、貨幣価値が下がると、物価は上がる。
東町奉行所の与力をつとめていた大塩平八郎の乱が大坂で起きたのは、矢部が西町奉行を辞めたあとのことなのに、鳥居は矢部が大塩の乱に関わったかのように申し立てた。矢部を追い落とすため。そして、それは成功した。
奇席の花として、女浄瑠璃(じょうるり)が庶民のあいだで人気を博していた。この奇席を縮小・閉鎖しろというのが水野忠邦の改革。遠山も矢部も、そろって反対したが、水野は押し切った。
 遠山は西丸小納戸頭取として将軍家慶の側仕えをしていたので、家慶の覚えがめでたかった。そのためさすがの老中・水野忠邦といえども、遠山をやすやすと追い落とすことはできなかった。
矢部を南町奉行から追い落とし、鳥居が南町奉行になってから、遠山の人気は鰻(うなぎ)上りとなった。表立っては口にしないものの、人々の鳥居への反発はすさまじく、その反動で、遠山が名奉行と祭り上げられた。
 この本のすごさは、そんな政治背景をしっかり書きこみながら、男女間のこまやかな機微を読み手に、あの手この手で感じ取らせていくところです。その手腕たるや、最後のところに来て、頂点に達します。うむむ、なるほど、その手があったのか...。ついつい唸ってしまいました。
江戸時代の雰囲気をちょっぴり味わってみたいかなと思う人にはぴったりの人情時代小説です。
(2023年12月刊。660円+税)

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2024年11月17日

古代ローマ解剖図鑑

ヨーロッパ


(霧山昴)
著者 本村 凌二(監修) 、 出版 エクスナレッジ

 古代ローマは、紀元前753年の建国から476年の西ローマ帝国の滅亡まで、1200年の歴史がある。
前753年に建国宣言でもされたのかなと不思議に思っていると、なんのことはない、神話なんですね。ラテン人のロムロスが前753年に建国したという神話があるというだけなのです。まあ、それはともかくとして、ローマの政治には私たちもよく知っている人物が次々に登場します。塩野七生の「ローマ人の物語」(新潮社)はかなり前のことですが、最後の15巻まで読み通しました。たいした筆力だと圧倒されてしまったことでした。
ローマがカルタゴと争ったポエニ戦争では、カルタゴ軍の象兵がローマ軍のスキピオ将軍の策略が成功して打ち破られましたが、このときトランペットと投げ矢で象たちを撹乱したとのこと。
 映画にもなった「スパルタクスの乱」は最盛期は7万人もの大反乱軍でした。
 古代ローマ軍の軍団は「レギオ」と呼ばれ、「百人隊」(ケントゥリア)を基本単位とし、ファランクス(密集陣形)を三重戦列に編成するのが特徴。この三重戦列は、最前列が後ろに下がり、第2列が前に出ることを繰り返し、兵を休ませんことが出来たので、持久戦になれば負けなかった。第1隊列には機動性にすぐれた若い新兵が配置され、第2隊列には、体力の充実した中堅の兵、第3隊列には長槍を武器とする古参兵で編成。
 ローマの歩兵の装備は自前で調達するのが当然だったので、装備が用意できないから参加できないという市民もいた。つまり、戦争は、貴族や富裕層の「特権」だった。
 帝政期の首都ローマの人口は100万人。
 円形闘技場ではライオンなどの猛獣と槍一本で剣闘士は戦った。殺された猛獣は3500頭にのぼる。
 映画「ベン・ハー」は忘れられません。大競走場で戦車を競争するのですが、その圧倒的迫力に思わず息を呑んで画面をくい入るように見つめました。
 ローマの偉大さは水道橋をみると実感します。私も、はるばるポン・デュ・ガールを現地まで見学してきました。橋の全長は269メートル、水道全体の長さは52キロメートル。高さ49メートルある水道橋をポンプを使わず、傾斜だけで1日2万リットルの水を流したのです。傾斜は、1キロメートルにつき34センチという傾斜です。その測量技術そして、土木建築技術のレベルの高さには驚嘆するほかありません。機会があったら(ぜひとも機会をつくって)ぜひ現地にまで足を運んでみてください。感激すること間違いありません。
ローマ市民、庶民の家には風呂もトイレもなく、台所もなかったというのに驚かされます。外食店を利用していたようです。そして、トイレは公衆トイレ。
イラストつきの解説本なので。ローマ人の生活について、イメージがよくつかめました。
(2024年4月刊。1800円+税)

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2024年11月18日

裏山の奇人

生物


(霧山昴)
著者 小松 貴 、 出版 幻冬舎新書

 新書版としては新刊なのですが、実は10年前に東海大学出版会から同じタイトルで出版されていて、その復刊本(新書)なのです。カラー印刷なので、見てるだけでも楽しい新書になっています。
10年前は九大につとめていた著者は、関東に移り、また、結婚して、2人の息子がいるとのこと。奥様のコトバがすばらしいです。
 「コマツは組織に飼われたら絶対ダメ。自由におやり、私が養ってあげる」
 そのコトバのおかげで、著者は相変わらず、裏山で自由に生き物(昆虫)たちとの悦楽の時間を過ごしているようです。すごいですね。幼いころから昆虫好きだったとのこと。私もアリの行列に見とれ、その行き先をたどった記憶はありますが、石をひっくり返し、巣穴をのぞいたことはありません。そして、著者はなんと、アリに寄生する虫を発見したらしいのです。好蟻性昆虫と呼びます。このアリヅカコオロギの研究で20数年後に、飯を食うなど想像もしていなかったとのこと。そりゃあ、そうでしょう...。
 昆虫観察を成功させるコツは地元の人を決して敵にまわさないこと。いかに地元の人たちに赦(ゆる)されるかが肝心。要するに、変な奴と警戒されないようにすることなんですね。
 わが家の庭にはモグラが棲みついています。先日もチューリップの球根を植えたところが大きく盛り上がっていて、球根が地上に放り出されていました。トンネル内にあった泥を地上に押し出した後です。モグラはミミズを食べて生きていますので、決して球根なんか食べませんが、球根を邪魔者扱いにして地上に放り出すので困ります。
 このモグラの小型をヒミズと呼び、著者はずっと観察しました。
 ヒミズは、ある面ではとても賢いけれど、別の面ではとてもバカな生き物らしい。
 著者は森の中で、野ネズミを観察しようと夜に待ち伏せした。たった1人、暗い夜の森にじっと座って待つ。足を動かすと地面を振動が伝わるので、足は動かせない。鼻水が流れてもすすると、その音で警戒されるので垂れ流しのまま...。いやあ、寒い中、大変な作業ですね。おかげで動かず、音を出さないと、人慣れしていない野生動物でも至近で観察できることを学んだそうです。
いま、西日本新聞に連載中の昆虫博士・九山宗利先生に手ほどきしてもらい、今は尊敬しているとのことですが、初対象の印象は次のとおり。
 その見た目の胡散(うさん)臭さ、まがまがしさ...。いやはや、なんということでしょう。でも、恐ろしく博識で頭が切れるというホメコトバが続くのです。
 好蟻性昆虫の研究なんかして何の役に立つのか、そんなもの研究する価値があるのか...。よくある疑問です。でもでも、すぐに役に立たなくても、ひょっとして何かの役に立つかもしれないし...。学問って、すぐ目の前の役に立つ者ばかりではありませんよね。
 好蟻性生物は、いずれもアリに寄り添い、利用するために特殊な進化を遂げた、選りすぐりの精鋭ぞろい。アルゼンチンアリのようなアリの放浪種には、1コロニー内に女王が何十匹もいるので、たった1匹でも女王を駆除しそうになったら、すぐに増えてしまう。
天敵というのは、害虫の密度を抑えるのには役立つけれど、滅ぼすことはできない。
ツノゼミは、アリに守られた状態でよく見つかる。ツノガミが排泄する甘露をなめるため、アリがたかるのだ。
 奇人・変人がいるからこそ世の中の進化はあるのです。常識人ばかりでは困るのですよね。そのことがよく分かる本でもありました。
(2024年7月刊。1400円+税)

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2024年11月19日

司法試験に受かったら

司法


(霧山昴)
著者 伊藤 建 ・ 國富 さとみ 、 出版 現代人文社

 11月6日、司法試験の合格発表がありました。合格者は1592人で、政府目標の1500人に合致した人数です。私が驚いたのは、最年少は17歳というのです。高校を卒業していなくても高校在学中に合格するような人がいるのですね。信じられません。
順位1番の慶応大ロースクールの合格率は6割です。わが九大は3人に1人の合格率でしかありません。聞くところでは、六本松を維持できずに伊都に移るそうです。ますます志願者が減るとみられています。合格者の東京集中を加速させることでしょう。心配です。
 ロースクールの在学生に対して五大事務所の勧誘は激しいとも聞きました。五大事務所は、まだまだ規模を拡大しようとしているのですね。それほど日本企業は弁護士を必要としているわけです。この本は、司法試験に合格した人が、その後どんな復習生活を過すのかというオリエンテーションが内容になっています。
 弁護士、裁判官、検察官、そして企業内弁護士や裁判所内部の動きも紹介されています。弁護士の平均所得は減っているとよく言われますが、この本では、2020年の弁護士の所得の平均値と中央値は2018年に比べて上昇したとしています。五大事務所の高給優遇が押し上げているのかもしれません。
 いま司法修習生がもらう給料(収集給付金)は13万5000円です。これは明らかに低すぎます。もっと引き上げるべきだと思います。
弁護士が司法修習生を評価するときの2つ。その一は、法曹になる動機や目標が明確かどうか。その二は、問題の解決に向けてズルしたり、手を抜いたりはしないか。そして、周囲にいる弁護士や事務局と適切なコミュニケーションが出来ることです。
 刑事弁護人として、あまりにも有名な神山啓史弁護士が司法研修所の刑事弁護教官になったのは画期的とのこと。きっと、そうなのでしょう。
 この本に登場する先輩弁護士のなかに川辺賢一郎という現役のプロレスラーがいます。信じられません。福岡にも現役の弁護士でありながら、吉本興業に登録している、お笑い芸人がいます。すごいことですよね...。
 このプロレスラーの弁護士は独立開業して以来の8年間、朝、目覚めたとき、「今日は仕事に行きたくない」と思ったことがないのを自慢に思っているとのこと。それは弁護士生活50年になる私も同じです。
 企業内弁護士(インハウスロイヤー)として大切なことは、主担当として自分で判断できること、判断できないことを見極めること。適切な権限者に判断を任せる必要がある。
インハウスロイヤーの重要性を私も否定しませんが、自由業にあこがれた私は組織のなかでの生活なんかしたくはありません。なので、私は大企業相手の企業法務だけが弁護士の仕事・活躍分野ではない、このように声を大にして強調せざるをえません。
(2024年7月刊。2900円+税)

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2024年11月20日

人間らしく働くための九州セミナー

社会


(霧山昴)
著者 現地実行委員会 、 出版 左同

 11月16日、17日に大牟田市で開かれた第34回セミナーの報告集。筑波大学人文社会系の田中洋子名誉教授の講演はドイツとの対比させて、日本がいかに遅れているかを明らかにするもので、驚くと同時に胸をうたれました。
 ドイツにもパートで働く労働者はいる。しかし、日本と違って非正規ではなく、働く時間が短いという正社員(短時間正社員)。ドイツの労働者は働く時間を自由に選べるし、そのことで処遇に差別されることはない。そもそも、正規と非正規という処遇格差がない。なので、裁判官や検察官、そして官僚から企業の管理職に至るまで、パート勤務の人々は多い。家族と自分の都合・希望により、働く時間を短くしたり、長くしたりできる。ドイツでもかつては主婦のパートが多く、パートの社会的評価は低かった。しかし、2001年のパート法によってそれが変わった。いやあ、これは日本と全然違いますね。うらやましい限りです。日本では、パートは正社員と雇用身分が別で、別体系の低い処遇ですよね...。
スーパーや外食チェーン店だけでなく、公共サービスでも非正規が急増している。
看護師の給与がドイツでは平均で月60万円といいますから、日本の倍くらいです。それでも、病院経営は黒字だというのですから、日本人としては信じられない、の一言です。日本では残念なことに労働条件が悪いうえに低賃金なので、看護師になりたいという若者が減少しています。ドイツに学ぶところ、大ですね。
 韓国から非正規労働センターとして活動しているナム・ウグン氏、キ・ホウン氏を招いて、韓国における非正規労働者の現状だと対策について報告してもらいました。
 すると、2020年9月、ソウル市のソンドン(城東)区で「必須労働者の保護及び支援条例」が制定され、翌2021年5月、必須業務従事者法が制定された。エッセンシャルワーカーを保護する条例であり、法律です。これによって、必須労働者は、コロナ対策ワクチンを優先してうてるようになりましたし、防疫マスクも1人あたり30枚が交付されました。
 支援内容は決して十分とはいえないようですが、条例そして法律によってエッセンシャルワーカー保護のため、市や国が取り組んでいることには敬意を表したいと思いました。
(2024年11月刊。非売品)

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2024年11月21日

トランプ、再熱狂の正体

アメリカ


(霧山昴)
著者 辻 浩平 、 出版 新潮新書

 トランプがアメリカの大統領に返り咲くなんて、まさかの出来事が起きました。まさしく地球の未来にとっての悪夢です。多くの心ある人たちが、この先に何が起きるのか大いなる不安を感じています。私もその一人です。
この本は、トランプ本人ではなく、トランプを熱狂的に支持しているアメリカ国民をNHK記者として取材したレポートです。
 アメリカを再び偉大に。
 Make America Great Again  これをMAGA(マガ)と呼ぶ。
 保守的なトランプ支持者の中には、自分たちが慣れ親しんできたアメリカが変わっていくことへの反発や焦り、不安を覚える人が少なくない。
 トランプ支持者の中には、日常生活で白い目で見られたり、陰口を叩かれたり、疎外感を感じている人もいる。
 トランプ支持の理由の一つが、公的機関という社会を構成するシステムへの信頼の低下にある。
 アメリカではミドルクラス(中産階級)の地盤沈下が顕著だ。トランプのナラティブ(話)は「被害者の物語」であり、支持者は、そこに自分自身を重ねることで引き寄せられている。
陰謀論を信じている人々にとって、いくら政府機関や裁判所が否定したところで、まったく意味をなさない。同じことが日本でも兵庫県知事選挙で起きました。パワハラ自殺なんて嘘だと信じてしまったのです。
共和党の議員がトランプに反旗を翻(ひるがえ)したとき、殺害予告をふくめた脅迫が相次ぎ、果ては落選させられる。
アメリカは車社会なので、ラジオは今も影響力のあるメディアだ。
アメリカの一つのメディアの実際が紹介されています。驚くべき実情です。そこは毎日500万本という大量の記事を配信しているのですが、記事1本を作成するのにかけるのは、わずか7分ほど。記者は70人しかいない。読者(外部の人)が投稿してきたらAIがニュース記事のスタイルに仕上げる。いやはや、そこではフェイクニュースかどうか、まるで問題になりません。まさしく砂をかむようなニュース砂漠です。
 アメリカ社会が極端なまでの分断に行きついているようで、本当に怖いです。
(2024年8月刊。840円+税)

 日曜日、庭のサツマイモを全部掘り上げました。前に試し掘りをしたとき、立派なイモが出てきたので、安心して掘り進めました。見事に大きなサツマイモが次々に土の中から姿を現してくれました。いくらか小ぶりのものもありましたが、大人のふくらませた両手をあわせたのよりも大きいイモが30個ほどもとれました。大豊作です。これまでサツマイモは失敗ばかりでした。なにしろ小さかったのです。しかも、数もちょっとでした。今年豊作だったのは、11月も半ばまで待ったこともあるのでしょう。昨年までは10月に入ってすぐ掘り上げていました。早すぎたのです。
 そして、今年は、チューリップ畑のあとに植えたのが良かったと思います。サツマイモは栄養満点の土地ではよく育たないというのです。不思議ですが、どうやら本当のようです。昨年までは、専用の区画に苗を植えつけていました。この区画には何度も生(なま)ゴミをすき込んでいますので、黒々としてフカフカの土地、つまり申し分のない栄養土だったのです。
 早速、イモを食べてみました。本当は何日か放っておいたほうが甘味が増すということなんですが、ともかく我が家の味を知りたかったのです。
 鳴門金時ほどの甘さはありませんでした。まあ、それでもイモはイモです。とても美味しく食べることができました。

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