弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2024年10月16日
北朝鮮に出勤します
朝鮮・韓国
(霧山昴)
著者 キム・ミンジュ 、 出版 新泉社
何、このタイトルは...?
北朝鮮に開城(ケソン)工業団地という韓国企業の運営するところがあり、そこに韓国人が常駐していたのです。毎週月曜日の朝、ソウル市内でバスに乗り込み、軍事境界線を越えて北朝鮮へ出勤。平日は北で過ごして週末に韓国に戻る。そんな生活をした著者の体験記です。
この本を読むと、北朝鮮の庶民は厳しい統制下にあっても、同じフツーの人々だということがよく分かります。
たとえば、韓国では美容整形手術が一般的ですが(日本からも大勢それを受けに行って
います)、北朝鮮でも同じのようです。食堂で働く7人の職員のうち3人は二重まぶたの手術を闇(ヤミ)で受けていた。
北朝鮮の人が国に対する自負心、指導者の自慢や尊敬の念を示すのは、必ず他の人がいるとき、一人のときは体制の話なんかせず、子どもや夫など、家族の話ばかりする。
北朝鮮には、「総和」という全人民に課せられた反省会(批判集会)がある。労働態度や職務の失態を自己批判し、あわせて同僚の欠陥を相互批判させられる。
開城工業団地で働く人々は、北朝鮮では、かなり恵まれた富裕層。北朝鮮では自転車を持っていると、韓国で自動車を持っているのと同じレベルで裕福だとみられている。
北朝鮮の人々は、数人だけになると純朴。ところが、人目のある場所では行動が攻撃的になる。北の人が南の人と会うときには暗黙の了解がある。一人では絶対に南の人と同じ空間にいてはならない。
北の職員が南の人である著者と話すときには、必ず2人以上でやってきた。この原則は、工場内のエレベーターでも同じように厳守される。
開城の人は、恩着せがましく渡されるプレゼントは受け取らない。なにげなく、そっと、でも気をつかいながら差し出されると、うれしくもないふりをしながら受け取る。そして、お礼を言うことはない。
本当はうれしく、喜んでいる。でも、他の人がいるところでは、絶対に言えない。お礼が言えないことを、心の内では申し訳なく思っている。
北朝鮮では、常にお互いを監視している。
北の軍人は、南の軍人に比べて背が低く、黒色でやせている。
ところが、北の消防団員は、一般的な北朝鮮男性に比べて体格が良い。
開城の工場で働く女性に美味しいものを与えても、食べるふりだけして、家に持ち帰り、子どもや夫に食べさせる。
北朝鮮では、みかんは貴重品。南の温暖な土地でしかとれないからだ...。
北朝鮮の庶民の生活感覚を実感できる、貴重な体験記になっています。
(2024年9月刊。2200円+税)