弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2024年10月13日
モンゴル帝国
中国
(霧山昴)
著者 楊 海英 、 出版 講談社 現代新書
チンギス・ハーンの創設したモンゴル帝国で、カギを握っていたのは、実は女性だったという視点に貫かれた新書です。最後まで興味深く読み通しました。
モンゴルの女性は、遠征や大ハーンを選出する政治集会やクリルタイや宮廷行事に参加していただけでなく、多くの場合、むしろ主催者だった。遊牧社会の経済を牛耳り、日常的に運営していたのは女性。男性は戦士であり、家庭の日常的な経済運営には関わらない。経済と子育て、一家の独立自強を支えているのは女性。
モンゴルの男たちは、みなマザコン。モンゴルなど、ユーラシアの遊牧民は娘を溺愛する。
チンギス・ハーン家と有力な貴族家との婚姻関係は双方向だった。モンゴル帝国が成立したあと、チンギス・ハーン家の娘たちは、草原の慣習法を背負いながらイスラム世界に嫁ぎ、かの地で子どもを育て、政治と軍事活動に加わった。
女性は、独自の天幕(ゲル)式宮殿おルド(宮帳)を持っていた。オルドには、多くの家臣と将軍が陣取り、複数の千戸軍団を指揮し、応範囲にわたって経済活動を展開した。猟は男性の遊びであり、軍事訓練でもある。
モンゴルの男性は、7歳くらいから猟に加わる。天幕の前で馬糞を燃やして人間の匂いを消し、馬の腹帯をしっかりと締めてから出発する。
族外婚の制度を実施する遊牧民は、なるべく遠くから嫁をもらう習慣を古代から現代に至るまで維持する。無理矢理の略奪婚でも、数日後には同じように正式の手続きを進めていかなければいけない。今日でも、結婚式は、略奪婚時代のしきたりに従って挙げられる。略奪婚は儀式と化して残っている。
チンギス・ハーンの本名であるテムージンとは、「鉄のように強い男」という意味。
モンゴルの女性は、ウバジャルタイという野生の果物の汁を顔に塗って、赤く見せていた。
遊牧民の世界では、部下の功績に対して公平に賞与を与え、戦利品を平等に分配することがなによりも重要なこと。
遊牧民の天幕は太陽の方向に門が開くように設営される。家の主人は天幕の北側に南面してすわる。主人の右側は男性のエリアで、左は女性の世界。主人の左に陣取る夫人たちも南に向かってすわる。侍女たちは北に向かって食事を用意したりして働く。
現代に至るまで、モンゴルの男性は、旅するときに自分専用の椀と食事用のナイフ類を持参する。
ユーラシアの遊牧民社会において、人間は父方から骨を、母方から肉を受け継ぐとされている。貴族は「白い骨」、庶民は「黒い骨」だと分類される。
チンギス・ハーンの遺体は故郷にもち帰られ、オノン河の西にそびえ立つブルハン山の頂上、万年雪をいただく峰々のなかに埋葬された。ええっ、大草原の地下深くに埋められ、地上部分は見事に整地されて誰にも分からないようにされたと聞いていましたが...。
高麗の出身者は、モンゴル人の大元ウルスの宮廷において多数派を占めるようにまでなった。ユーラシアの遊牧民社会のオルド(宮帳)に宦官はいなかった。そして、高麗出身の宦官と宮女が主力となった。
著者はモンゴル人として生まれ、日本に帰化しています。中国人(漢人)がモンゴル人を大量に虐殺した過程をたどった本の著者でもあります。
(2024年7月刊。1300円+税)