弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2024年10月12日

「カサブランカ」、偶然が生んだ名画

アメリカ


(霧山昴)
著者 瀬川 裕司 、 出版 平凡社

 映画「カサブランカ」は、史上屈指の人気作品の一つ。
 酒場で、ナチスの将校たちがナチ賛美の歌をうたって気勢をあげるのを、くやしそうに下をうつ向いて指をかんでいた男たちが、誰かがフランスの愛国歌「ラ・マルセイエーズ」を歌うと、その場にいたナチス将校以外の全員が立ち上がって歌い出し、ついにナチス将校を圧倒するという感動的な場面は忘れようがありません。
著者は18歳のときに初めて観たあと、なんと1年間で10回以上も観たとのこと。ええっ、どうしてそんなことが可能だったのでしょうか、それほどロングラン上映されていたのですかね...。
 この本は映画「カサブランカ」が出来あがるまでが、これでもかこれでもかと言わんばかりに、きわめて詳細にその経過をたどっています。
 まず、脚本です。その原作を誰が書いたのか、そして、それにもとづいた脚本は誰が書いたのか...。原作を書いたのは、バーネットとアリスンという男女。そして脚本は、何人もの手が加わっている。アメリカ映画って、すごい人数が関わってつくられるということを知りました。
 まずは、マッケンジーとクライン。そして、エプスティーン兄弟。次いで、ハワード・コッチ。それからケイシー・ロビンスン。これら脚本家全員が、映画が完成して高く評価されたあと、あの高く評価された部分は自分のアイデアだと主張したというのです。それぞれ、すごいプライドです。
 そして、1942年5月から撮影開始。ところが、脚本はまだ完成していなかった。それでも、ハンフリー・ボガードとイングリット・バーグマンは初日から撮影に参加した。
 この夏、ワーナー映画のスタジオでは、ほかに6本の映画の撮影が進行していた。「カサブランカ」は、そのなかで高額の資金が投入された作品ではなかった。製作費103万ドルだったが、別に264万ドルとか150万ドルというのもあった。
 「カサブランカ」が全国公開されたのは1943年。そして翌1944年にアカデミー賞作品賞を受賞した。
 リック役のハンフリー・ボガードはギャングや悪徳弁護士など悪役専門の俳優だったそうです。ところが、戦争が始まってからは、ナチを倒すタフな男の役を演じるようになりました。戦後は、ハリウッドの赤狩りに反対する委員会のメンバーとして活動しています。
 そして、イルザ役のイングリッド・バーグマンは、「カサブランカ」を代表作とは認めないと高言していたとのこと。ヘミングウェイの「誰がために鐘は鳴る」こそ代表作だとしたのです。
 それにしても、この映画に関わった主要メンバーの多くがユダヤ系というのには改めて驚かされます。ハリウッドに多いのは「アカ」と「ユダヤ」だという「非難」はあたっているのですね...。もちろん、こんな「非難」は間違っています。能力ある人は、誰であろうときちんと評価すべきなのです。
 よくもまあ、ここまで調べ上げたものだと驚嘆しながら読了しました。
(2024年5月刊。3400円+税)

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