弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2024年10月10日

私が出会った少年について

韓国


(霧山昴)
著者 チョン・ジョンホ 、 出版 現代人文社

 著者は韓国の少年部判事をしていました。現在は釜山地方院部長判事です。
 著者は2010年2月から2018年2月までの8年間に1万2000人の少年と出会った。
少年の非行は、少年の罪ではなく、社会の罪。
 これは弁護士生活50年の私の実感でもあります。親と社会から見捨てられたと感じながら生きていたら、誰だって大人や社会に対して復讐したいと思うのは必然ではないでしょうか。
 温かく見守ろうとする心持ちのない大人が本当に多いと思います。自分さえよければと金もうけに走る大人のなんと多いことでしょう。軍事産業で働く大人、原発再稼動を目ざす大人、リニア新幹線づくりに狂奔する大人、そして大阪で「万博」をまだやろうとしている大人、カジノでもうけようとしている大人、こんな醜い大人たちばかりを見ていたら、子どもたちが絶望しないほうが不思議でしょ。
なんで、いつまでたっても戦争してるの...?人の命より金もうけが大事だと考えている人たちが政治を動かしているからでしょ。
少年非行は、都市化と経済成長の陰ではびこる毒キノコのような存在。丸8年間の少年部判事のとき、つけられたニックネーム(あだ名)は「ホトン判事」、「サイダー判事」「万事少年」など、いくつもある。
 法廷にやってくる少年たちは、「芋が胸につかえたように、もどかしくて」ならなかった。こんなたとえ方が韓国にはあるのですね...。
 少年非行には、心の拠(よ)りどころも、落ち着いて休める場所もない場合がほとんど。
 保護処分になった非行少年の再犯率は非常に高く、しかも増加傾向にある。保護観察処分を受けた青少年の9割が1年以内に再犯する。
著者は、少年にひざまずかせ、親に向かって、「お母さん、お父さん、ごめんなさい。二度とあんなことはしません」、「お母さん、お父さん、愛しています」と10回ずつ言わせる。この反覆効果は想像以上だそうです。
 著者は、子どもたちをファミリーレストランに連れて行って、ごちそうすることもあるようです。
 厳しい環境に育った子どもたちが大半なので、両親と手をつないでファミリーレストランに外食に行くという、ごくごく普通の日常さえ経験したことがなかったのだ。いやあ、本当に涙が出てきますよね。それほど厳しい子ども時代を過ごしてきたわけです。親から叩かれ、また無視され、温かいご飯も食べさせてもらえなかった子どもたちに何を要求するのですか...。
 ところが、すべては「自己責任」。努力が足りなかったと一刀両断に切り捨ててしまう大人のなんと多いことでしょう。そのくせ、そんな大人こそ、権威にへつらって、強い者にはペコペコ首をすり切れるほど上下させているのです。すべてはお金と自己保身のために...。
 韓国でも、少年犯罪は2009年以降は減少傾向にあります。犯罪全体における犯罪少年の割合は、2009年に5.8%だったのか、2016年には3.6%に減少した。釜山家庭法院でも、2013年と2017年の少年保護事件数を比較すると、40%ほどに減っている。
この本を読んで初めて知ったのですが、フランスにはスイユ(Seuil)という非行少年のための歩き旅プログラムがあるとのこと。私は長くフランス語を勉強していますから、すぐに辞書を引きました。Seuilとは、戸口、入り口、始まりという意味です。
 フランスでは、非行少年が成人のメンターと2人で3ヶ月間、1600キロメートルを歩く旅を完遂するというものがあるそうです。完遂すると、判事や職員などの関係者が盛大なパーティーを開いて祝う。この歩き旅を終えた青少年の再犯率は15%。一般の再犯率85%を大きく下回った。いやあ、これにはびっくりたまげました。こんな3ヶ月間もの長い旅を受け入れる社会はすごいですよ。日本でも、ぜひ考えてほしいですよね。
そこで、著者は早速とりいれたのです。ただし、3ヶ月ではなく、8泊9日間です。済州島のオルレキルを2人で歩くのです。これまで31人の子どもが歩いたそうです。すごいですね。ぜひぜひ、日本でもやってほしいです。
少年非行は日本でも明らかに減少しています。かつての暴走族なんて、まるで絶滅危惧種ですよね。青少年の活力が欠如してしまったのではないかとさえ心配されているのが現状です。
どうして非行少年を厳罰に処分したらいいなんて考えがでてくるのか、私には不思議でなりません。生活保護受給者がパチンコ店に行ってはいけないなんていうのと同じ偏見です。
真面目に考え、行動している人は韓国にも、日本と同じようにいることを知って、少しばかり安心もしました。あなたに一読を強くおすすめします。
(2024年2月刊。2300円+税)

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