弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2024年10月 6日

釜ヶ崎、まちづくり絵日記

社会


(霧山昴)
著者 ありむら 潜 、 出版 明石書店

 大阪・釜ヶ崎に生きる不思議なおっちゃん・カマやんを主人公にした4コマ漫画を中心にした本です。
釜ヶ崎とは、大阪市のJR新今宮駅の南側あたりのエリア。「あいりん地域」とも呼ばれる、日本でも有数の貧困集中地域。
 著者は、大学卒業直後の1975年(23歳)から今日まで50年間も関わってきました。単行本としては著者の9冊目になるというから、偉いものです。
 『カマやんの夢畑』(明石書店)、『カマヤンの野塾』(かもがわ出版)もあります。
 この釜ヶ崎もどんどん変わっているようです。今では釜ヶ崎を含む西成(にしなり)区の高齢化率は止まり、人口減も止まって、むしろ人口増に転じている。外国人住民が増えている。たとえばベトナム人の家族が入ってきている。それで、子どもたち相手に日本語を教えるのではなく、ベトナム語教室が開かれている。子どもたちにとっては日本語のほうがネイティブになっているから...。
 1960年代に釜ヶ崎にある小学校には1300人の児童がいた。ところが2015年には全校でわずか50人になってしまった。子どもたちがいなくなった。住んでいるのも男8対女2の比率で、60~70歳台ばかり、しかも生活保護受給者の男ばっかりになってしまった。そこで、子育て世代も住めるマチづくりを目ざして取り組んだ。
 今や新今宮駅の周辺はホテル、しかも海外からの観光客の泊まるホテルがたくさん立地している。それで、ベッド・メイキングの仕事が新しく生まれた。
 2018年4月に、世界銀行の視察団60人が「あいりん地域」を視察にやってきた。貧困地域なのに、清潔で安全、包摂的でレジリエントなまちづくりが進んでいると評価されたのだ。
 今夜一晩の寝床のない人々のための「あいりんシェルター」は2015年度に建て替えられた。ベッド数530床。そして、ここのトイレは大変清潔。NPO法人のスタッフのおかげで、いつもピッカピカ。もちろんウォシュレット。
 トイレの清潔さは人権でもある。ここを利用すると、自分は世間から人間として対等に扱われていると実感できる。
釜ヶ崎の50年の移り変わりがマンガで知ることのできる貴重な記録になっています。
(2024年6月刊。2800円+税)

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