弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2024年9月27日
生きのびるための事務
社会
(霧山昴)
著者 坂口恭平(原作)、道草晴子(マンガ) 、 出版 マガジンハウス
どうやら著者は有名な人のようですね。私はまったく知りませんでした。早稲田大学の建築科を卒業して、作家であり、画家であり、また音楽家、建築家というマルチタレントです。
私は音痴で、楽器はまるでダメ。せめて絵が描けたらと思いますが、小学校のとき銅賞で入選したのが最高です。マンガが描けたらいいなと思いますが、写実的な絵は残念ながら描けません。写真は好きで、そこそこの写真集を出しましたが、趣味の域を出ません。やっぱり写真は被写体のよさと、シャッターチャンスに恵まれるかどうかです。なので、いい写真をとろうと思ったら、四六時中カメラを携帯していて、チャンスを逃したらいけません。
著者はそううつ病であることを公言しているそうです。とても偉いと思ったのは、2012年から、死にたいと思った人ならだれでもかけられる電話サービス「いのちの電話」(090-8106-4666)を続けているというのです。24時間、365日、著者につながるそうです。1日15人、年に6000人から電話を受けているとのこと。まったく頭が下がります。
この本は5月に刊行されて、7月初めにすでに5刷、5万部も売れているそうです。読んでみて、ナットクでした。
著者が20年前、ほとんど無一文の状態にあったとき、この苦境をどうやって脱出したのか、マンガで紹介されていきますので、よく分かります。そのときでも、「きっと、うまくいく」という確信があったそうです。シンプルに一つずつ、起きた順に対処していく。そうすると、別に死ぬことはない。大丈夫だと思ってやってきた、というのです。
もし、人が自らの夢の方向に自信をもって進み、頭に思い描いたとおりの人生を生きようと努めるならば、ふだんは予想もしなかった成功をおさめることが出来る。これは、『森の生活』という本を書いたアメリカの哲学者ソローの言葉。著者は、この言葉どおりに生きていったのでした。
すべての行動をコトバや数字に書きかえる。「事務」とは、行動をコトバに置きかえること。楽しいことは続けたくなるし、継続すること自体が才能になって、そして最後は、どうせうまくいく。いやあ、すごいですね。この自己肯定感にみちあふれたコトバの威力って・・・。
生きてるあいだにすることって、自分が何が好きなのかを探して、それが見つかったら、死ぬまでそれをやり続けるだけのこと。それ以外の人生は、どれもつまらない、ただの退屈な時間だ。
私にとっては、調べものをして、少し考えて、書いていくこと、これが楽しいことです。
すべての自由な人間は冒険を恐れずに楽しむ。そして、冒険があるところには「事務」がある。冒険を始めないかぎり、事務なんて存在しない。
「事務」とは、抽象的なイメージを数字や文字に書きかえて、具体的な値や計画として見える形にする技術。
この本を読んでいると、何かしら元気が湧いてきます。そうか、自分でもできるかもしれないと思わせるのです。
ヘタウマなマンガによるシンプルなストーリー展開なので、心にすっと入ってくる良さもありました。
(2024年7月刊。1600円+税)