弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2024年9月24日

タコの心身問題

生物


(霧山昴)
著者 ピーター・ゴドフリー・スミス 、 出版 みすず書房

 この本を読むと、タコは意外なほど賢く、好奇心の旺盛な生き物だということがよく分かります。タコは、食べられないことが明らかなものにさえ関心を示す。
大腸菌は単細胞生物だが、自分にとって好ましい物質とそうでない物質とを区別することができる。好ましい物質であれば、その濃度の高いほうに移動するし、逆に好ましくない物質であれば、濃度の低いほうに移動する。大腸菌の外面には、そうした「感覚器」が並んでいる。この「感覚器」は、正確には、大腸菌の外膜を構成する分子である。
 実験室内でテストを受けさせると、タコはおしなべて良い成績をとり、かなり頭が良いことが分かる。
 タコは見慣れないものを弄(もてあそ)ぶだけでなく、有効に活かすこともある。
 タコは好奇心が強く、順応性もある。冒険心がある一方、日和見主義なところもある。いやあ、これって、人間の若者そっくりですよね。
 タコには5億個のニューロンがある。いったい、どうやって、こんなことを数えられたのでしょうか...。
 タコは捕食者であり、自らが動いて獲物を襲う。
 タコは非常に社会性が高い動物とは言えない。
 タコの心臓は一つではなく、三つ。その心臓が送り出す血液は赤ではなく、青緑色をしている。酸素を運ぶのに鉄ではなく、銅を使うから。
 タコは知覚の能力も、運動能力も非常に優れている。大規模な神経系と、活発に動くことのできる複雑な構造の身体をもった動物である。行動も非常に柔軟で、変幻自在だ。
 タコは方向感覚にも優れている。
 タコは身体の色を変える能力に長(た)けている。
 その皮膚は、重層構造のスクリーンのようになっていて、脳によって直接、制御される。脳内のニューロンは直接、皮膚につながり、筋肉を制御する。皮膚には、ピクセルのように色を発する小胞が何百万とあり、筋肉は脳の指令を受けて、その小胞を制御する。何かを感じると、それに従って、即座に色が変化する。一つの色素胞が発するのは一色のみ。
 イカには、人間に対して有効的なものがいれば、強い敵意を示すイカもいる。それでも、友好的なイカのほうが、ずっと多い。
 頭足類の身体の色変化には、擬態と信号伝達の二つの大きな役割がある。
タコの寿命は1~2年が普通。最大のタコであるミズダコも野生ではせいぜい4年しか生きられない。衰えが始まると、あっという間に健康が損なわれてしまう。好奇心旺盛な知性をもつタコだが、2歳になる前に死んでしまう。
 タコのメスは多数のオスと交尾をするが、産卵の時期には、巣穴に入ったまま動かない。卵を産むと孵化するまで抱いている。一度に産む卵は何千。幼生たちが水の中に出ていくとメスのタコは死ぬ。
 大阪はタコ焼き。そのタコがこんなに知能の高い生物とは...。うかうか食べられませんよ。
(2023年11月刊。3300円)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー