弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2024年9月23日

悪なき殺人

フランス


(霧山昴)
著者 コラン・ニエル 、 出版 新潮文庫

 フランスの心理サスペンス小説です。
 牧場で生計を立てている夫婦が冷えきった生活をしていて、声もかわしません。夫はずっと一人でインターネットをしているようです。ネタバレのつもりはありませんが、この本にロマンス詐欺にひっかかる、ひっかける男性と若者が出てくるのには驚かされました。
 日本にはナイジェリアの大学生のアルバイトとしてロマンス詐欺をしかけているという本を読んだことがあります。ここでは、国名は明記されていませんが、コート・ジボワールの若者が仕掛けているようです。
 高速接続のパソコンとケータイ1台ずつ、一人ひとりに与えられ、パソコンの前に座って1日7時間、働く。稼いだカネの70%はボスがとる。バッティングマシンみたいに、クライアントのメドを手に入れて、文書を作成し、添付する写真を選んでメッセージを送信する。若者は28歳、独身女性のアマンディーヌになりすます。このグループには、他にもギャンブル詐欺、遺産相続詐欺など、いろいろな形態がある。それぞれ得意分野で攻めていく。
ヨーロッパの連中は愛情に飢えてやがる。出会いがない。真実の愛っていうのが不足している。だから、真実の愛で酔わせる。
ロマンス詐欺は、たった数時間では片がつかない。長い時間と忍耐が必要だ。最初のお金を手に入れるまで数ヵ月かかることもある。我慢すればするほど高額を稼げる。
隣のパソコンでも獲物をゲットした。海外宝くじに当選したけど、莫大な当選金を受けとるには弁護士に手数料を支払う必要がある、こうやって白人をだますのに成功したらしい。
これって、日本でも同じ手口がありますよね・・・。この本で不思議なのは、騙す側の若い男が、被害者の白人を呪いの力でつなぎとめようと真面目に考え、呪い師に頼み込みに行く情景があるということです。
ロマンス詐欺では、途中、相手にとことん優しくするのが鉄則。甘い言葉をいくらでも与えてやる。相手はそれを望んでいる。そして安心させるために、アマンディーヌが実在する証拠を見せる。AV女優の写真を次々に送りつけ、どんどん肌の露出を多くしていく。ぼけている画面は、カメラが古くてピントがあわないからだと弁解する。ケータイに向けて、一日中、愛のことばをささやく。
白人たちは若者の国からいいように収奪してきた。だから、なりすまし詐欺にひっかかった白人は、だました国の借金を少し返済しているだけ。ネット上に騙されやすい無防備な人間がいる限り、なりすまし詐欺は横行しつづけるだろう。
こうやって若者は、アマンディーヌが交通事故にあって、大至急手術をする必要があり、そのための費用を送金するよう相手の男を説得する。そして、うまく送金させた。ところが、ある日突然、警察に踏み込まれた。警察官が相手の男に詐欺にあって騙されているので告訴するかと聞いた。しかし、男性はしないと断った。それで若者は釈放された。
なかなか読ませるストーリー展開でした。
(2023年11月刊。850円+税)

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