弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2024年9月13日
原爆(上)(下)
アメリカ
(霧山昴)
著者 ディディエ・アルカント(文)、ドゥニ・ロディエ(絵) 、 出版 平凡社
フランスの真面目なマンガ本です。映画「オッペンハイマー」と同じく、アメリカの原爆開発の過程をマンガによって視覚的に明らかにしています。日本の物理学者である仁科(にしな)芳雄な登場するのは意外感がありました。日本の原爆研究・開発がそれほど進んでいたとは思えないのですが...。
それより驚いたのは、「森本」という架空の人物が登場し、その息子2人が戦死するという状況も描かれていることです。この「森本」は、今も銀行の階段に黒々とした「影」が残っていますが、その「影」の持ち主、つまり原爆が投下されたときに銀行の階段に腰をおろして休んでいた人物とされていることです。なるほど、そうなんですよね。原爆投下によって一瞬のうちに何万人もの人々が蒸発したように亡くなったわけですが、その人たちはみんなみんな、それぞれの人生を過していたわけです。それが原爆によって一瞬のうちに消滅させられたのです。
原爆開発にはナチスも取り組んでいました。そして原料となるウランの争奪戦も水面下で激しくたたかわれていました。
アフリカのベルギー領コンゴがウランの原産地です。ノルウェーの山中にドイツは「重水」の生産工場があるので、連合国軍は特殊部隊を派遣して爆破しようとしましたが、悪天候のせいで見事に失敗してしまいました。
下巻では、いよいよ原爆の人類初の爆発実験の様子が描かれます。映画でも緊張の瞬間でした。放射能汚染の怖さを誰も知りませんから、ゴーグルで目を保護するくらいで、防護服を着た人は誰もいません。
実験があったのは1945年7月14日未明のこと。実験が「成功」したとき、アメリカ軍の将校はこう言った。
「我々は戦争に勝つ。日本に1.2発落とせば、終わる。よくやった」
8月6日に広島、そして8月9日に長崎に原爆が落とされ、日本は8月15日に無条件降伏しました。なので、原爆が日本敗戦の決め手になったのは間違いないでしょう。でも、多くの日本人は「新型爆弾」と呼ばれた原爆のことを十分に知らされず、また、広島・長崎の惨状も共有化されませんでした。
それは戦勝国アメリカ人にとっても同じです。原爆の悲惨さ、そのケタ外れの威力について認識を深めることはありませんでした。各戸の地下室に「シェルター」をつくる動きがあらわれたのは、その象徴です。原爆は「シェルター」をつくったくらいで被害を回避できるというものではありません。ところが、政府・当局は、それを知ったうえで、知りながらも「核シェルター」づくりを現在でも推奨するのです。おかしなことです。
映画「オッペンハイマー」には、原爆投下による広島・長崎、悲惨な状況が一切描かれませんでした。しかし、この本には銀行の階段に腰かけていた「森本」をはじめ、都市全部が消滅した状況が視覚化されています。マンガ「はだしのゲン」はとてもよく描けたマンガだと思います。ところが、子どもには残酷すぎると称して読ませないところ(学校)もあるとのこと。信じられません。大判のずっしりしたマンガ2冊です。図書館に備え置いて、誰でも見れる、読めるようにしたいフランス産のマンガ本です。
(2023年7月刊。(3800円+税)×2)