弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2024年9月 9日
ドキュメント・生還2
人間
(霧山昴)
著者 羽根田 治 、 出版 山と渓谷社
私は九重山を歩いたことくらいはありますが、本格的な登山をしたことはありません。また、したいとも思いません。苦労して頂上にのぼって、はるか彼方まで見通したら、さぞかし気持ちがいいだろうというのは分かりますが、それまでの苦労に耐えられそうもありません。登山ではありませんが、大学2年生のとき、授業をズル休みして尾瀬沼に行ったのは、今もいい思い出になっています。
この本は山で遭難して無事に生還した人たちの手記、聞き取り、そして対談から成っています。みんな長期間の遭難です。重傷を負いながら13日間、道を間違えて8日間、とかです。2週間とかではなく、3週間も山中で一人生き抜いた人もいます。人間の生命力はなかなかのものなんですね...。
ヤマの地図をスマホのアプリで活用するYAMAPは福岡の春山九州男弁護士の長男さんが創設した会社だと聞きました。便利なようですね。
でも、バッテリーが切れてしまったらどうしようもありませんよね。やはり水が大切。石をひっくり返して、アリやミミズを食べたり、苔をむしって食べたとのこと。でも、それで空腹感が満たされるほそのことはない。食べられる山野草の知識があれば良かったでしょうね。
死ぬかもしれないとは考えないようにしていた。絶対に助かるんだという気持ちでずっといた。簡単にあきらめないということなんですよね。寒いので、夜は寝ずに乾布摩擦をして、昼に寝る。日にあたると、太陽エネルギーのすごさを感じた。太陽光を浴びることによって、体に活力が湧いてくる。
絶対に無理はしない。迷ったら引き返す。引き返す勇気が大切。ライターやマッチは必需品。脱水症状にならないように、沢の水を積極的にたくさん飲んだ。
この本の最後に、「自己責任なんだから遭難者なんか助ける必要はない」とか、「救助費用を税金でカバーするな。全額自己負担にしろ」と、心ない攻撃をしてくる人が少なくないとのこと。悲しい現実です。そんなことを言う人は、きっと本人は他人からたすけてもらった経験がないのでしょうね。
人間は誰だって失敗するわけです。その失敗をした人を切り捨ててしまったら、この人間社会はますますギシギシしてしまいます。助けられる限り全力で救出するのは当然のことです。
アメリカ軍の不要不急の高額な戦闘機やイージス艦などを買うお金(税金)は日本は持っているのです。そんな戦闘機を買うよりも生きた人間の救出に使うほうが、よほどいい税金の使い道です。
(2024年6月刊。1760円)