弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2024年9月 7日
スラムに水は流れない
インド
(霧山昴)
著者 ヴァルシャ・バジャージ 、 出版 あすなろ書房
そもそもの問題は水不足にある。インド有数の大都会であるムンバイ。そこのスラムにはムンバイの人口の40%もの人々が住んで生活している。ところが、水はムンバイ市全体の5%しか供給されていない。水不足は3月がきびしい。
そんなスラム街に住む15歳の兄と12歳の妹(主人公)と両親。
ムンバイに水道はあっても各家庭まではなく、家の外にチョロチョロ流れる蛇口まで、毎日、水をバケツを持ってもらいに行かなければいけない。水が出るのは朝2時間と夕方1時間のみ。各家庭はタンクを備えて、そこに水を貯めておく。蛇口で水をバケツに入れるためには列をつくって並ばなければならない。
ところが、よからぬ連中が夜に盗水し、それを売って莫大な利益を上げている。それを偶然、兄は目撃し、良からぬ男に顔を見られてしまった。
これはタダではすまされない。仲の良い兄は遠くの親戚の農場に身を隠すことになった。
そのうえ、母親が病気になったので、実家に戻って静養するという。その期間、主人公は母がメイドとして働いている家でメイド見習いとして働かなくてはいけなくなった。
その家は、高級マンション。主人公と同じ年齢の娘がいて、その部屋にはバス・トイレがある。これに対して、主人公のスラム街では、7つの個室が並んだ1ヶ所のトイレを30家族で使っている。
そして蛇口をひねると、時間制限なく、勢いよく流れ出てくる。そこは、スラムとはまったく別世界なのだ...。
主人公には大の仲良しの女生徒がいて、お互いに助けあっている。ヒンズー教とイスラム教の違いはあっても、子どもには関係がない。
さて、水泥棒とは誰なのか、主人公は学校と仕事を続けられるのか...。
スラムでは女の子はどんなに頭が良くても、本人が学校に行きたいと思っても、途中で学校を辞めて働きはじめるのが普通だった。でも主人公は学校に行きたいし、パソコン教室に行けるようになった。さあ、どうする、そして、どうなる...。インドのスラム街に住む少女のみずみずしい感性が生かされている物語です。
(2024年4月刊。1500円+税)