弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2024年9月 6日
藍子
日本史(戦後)
(霧山昴)
著者 草川 八重子 、 出版 花伝社
朝鮮戦争が勃発したのは1950年6月25日。このころ、京都の高校生だった著者が、当時の社会問題と格闘する日々を振り返っています。
藍子の通う高校では、生徒会が総会を開いてイールズ声明(共産主義の教授は追放すべきだというもの)に反対することを決議しようとします。しかし、そんな決議をしたら、アカい高校と見られて生徒の就職が困難になるという現実重視派から反対の声が上がるのでした。
前年(1949年)4月の総選挙で共産党は35人の国会議員を当選させたのに、GHQが共産党の追放を決め、6月の参議院選挙で当選した2人も無効とされてしまった。そして、下山、三鷹、松川という大事件が相次いで起き、世の中は急速に反共ムードが高まっていった。
この高校には民青団の支部があり活発に活動しています。藍子は初め反発しながらも、戦争反対の声を上げるべきだと考え直して加入します。そして、オモテとウラの活動があるうちのウラにまわされます。レポ、要するに連絡係です。当時は、こんな活動も高校生にさせていたのですね、驚きました。
驚いたと言えば、まだ高校生なのに、男子生徒が山村工作隊員に選ばれ、丹波の山村に入って革命の抵抗基地づくりをしたというのです。そして、その活動の一つが地主宅に投石して窓ガラスを破れというものでした。そんなことして、世の中に大変動が起きるはずもありませんが、当時は、大真面目だったのですね。
高校生の藍子は疑問も抱きます。当然です。
何でも「革命のため」と理由をつければ、指導者は勝手なことができて、藍子はひたすら我慢しなければならないのか...。そんなことはないはず。
「革命」は世の中をひっくり返して、虐(しいた)げられていたものが権力をとること。労働者が、自分たちの政府をつくること。それを成し遂げる人間は、自由で積極的な自分の意思で活動すべきだろう...。
著者は1934年生まれですので、私よりひとまわり年長です。50歳前後からたくさんの本を書いています。今回の本は、共産党の「50年問題」を、高校生だった自分の体験を描くことによって、「あの時代を抹消してもいい」のかと問いかけています。90歳になる著者が「体力と気力のある間にと蛮勇を振る」って書いたという貴重な記録です。それにしても、多感な女子高校生の会話まで見事に「再現」されている筆力には驚嘆するしかありません。
(2024年8月刊。2200円)