弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2024年8月31日

トヨタ、中国の怪物

社会


(霧山昴)
著者 児玉 博 、 出版 文芸春秋

 日本を代表するメーカー(トヨタ)の社長が創業家の一族で占められているのは、私も本当に不思議な現象だと思います。創業家の持ち株はわずか2%ほどなのだそうです。
 豊田章一郎、英二、そして章男...。能力があろうとなかろうと、豊田家に生まれたというだけで社長になれる(なる)なんて、まったくおかしなことです。
 トヨタの社長だった奥田碩も同じことを考えていたようですが、結局は、追われてしまいました。同じく社長だった張富士夫は、この本によると豊田一族には逆らわなかったようです。
 先日、豊田章男でしたか、社長報酬(年間)が株式配当を含めて34億円だと発表されました。トヨタの数値ごまかしが暴露されたにもかかわらず、です。これは、株式配当は少しでも多くしてもらいたいという大株主の意向だそうです。従業員の賃金アップなんか、どうでもよく、ひたすら株式配当アップしか考えない巨大な株式投資集団がいるわけです。
 この本は、トヨタが中国進出するにあたって、中国で生まれ育った日本人(服部悦雄)の半生をたどったものです。大変興味深い内容でした。
 服部は日本人の両親のもと、中国で生まれ育っていますので、ネイティブの中国語を話します。小さいころから、日本人の子どもとして迫害され、また文化大革命も経ています。服部が生きのびられたのは、ひとえに学業成績が優秀だったからのようです。それでも、北京大学には受験すら認められませんでした。
 服部は、こう言います。
 「日本人は中国人を分かっていない。本質をちゃんと見ていないから、中国人のこと、中国共産党のことを見誤る」
 私も『トヨトミの野望』は読んでいますが、この本のなかに服部について「八田」として登場しているものの、事実に反することも多いようです。服部は残留孤児ではないし、中国人の名前を持たない。なーるほど、です。
 奥田碩は、「創業家に生まれただけで社長になるのは、おかしいのではないか。豊田家は、本当に必要なのか?」と常々言っていたし、章一郎をトヨタから遠ざけようともした。創業家は、旗のような特徴的な存在であるのが望ましい。つまり、経営には口を出してはならない。そう考えた。
 中国に進出するのを決める会議で、豊田英二は、こう言った。
 「中国では、小さければ、つぶされる。大きすぎれば、取られる。それを覚悟でやるか!」
 最高幹部だけが集められた会議に服部は特別に参加が認められた。服部の肩書は「トヨタ中国事務所総代表」(2001年)。トヨタの中国進出を可能にした男は、豊田章男を社長にした男でもあったことがよく理解できました。トヨタという超大企業の一断面を知りました。
(2024年3月刊。1700円+税)

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