弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2024年8月30日
ナチス逃亡者たち
ドイツ
(霧山昴)
著者 ダニ・オルバフ 、 出版 朝日新聞出版
ナチス・ドイツの体制を支えていた幹部たちは、敗戦と同時に逃亡し、身分を偽って世界各地で生きのびました。南アメリカの各国は、ナチ残党を喜んで受け入れたことで有名です。アイヒマンは偽名で生活していましたが、ドイツから妻も息子たちも呼び寄せて家族で楽しく暮らしていたのです。
この本は、アイヒマンのような逃亡者ではなく、スパイとして暗躍した人間たちを追跡しています。
ナチス時代と同じく反共精神ではアメリカのCIAと共通するということで、その下でスパイになって働く人間もいましたが、逆にソ連のスパイになった人間も少なくはなかったのです。そして、二重スパイも多数いました。
ナチス・ドイツの情報機関にいて、戦後はアメリカ(CIA)と協力して活動したゲーレン機関のお粗末な内情も明らかにしています。ゲーレンはアメリカに売り込むときには誇大妄想的なところがあった。この本では、ゲーレンは、しぶとい出世主義者でしかなく、有能とは言えないと冷たく突き放した評価をしています。
アメリカは使えると思えば、リヨンのゲシュタポ隊長だったクラウズ・バルビーをスパイとして使いました。バルビーは数千人に及ぶフランス人の処刑・拷問に責任のある男なのです。
なぜ、人はスパイになるのか...。それは単純に金銭のみではない。もちろん金銭は大事だ。それとともに、冒険がもたらすスリルそして、二つの強大な政治勢力を操ることで得られる満足感も動機の一つだった。うむむ、なるほど、そうなんでしょうね。
ドイツ敗戦後、ボンにいる政府幹部で、ナチ狩りをしたり、ドイツの暗い過去に光を当てたいと思う者はほとんどいなかった。支配層のエリートたちは、無傷とは言えない人物と関係して信用を危くしたくはなかった。フリッツ・バウマー検事長の熱意と実行力がなかったら、ドイツだって今の日本と同じようなへっぴり腰でのぞんでいたことでしょう。やはり、誰か歴史を動かす原動力となる人は必要なのですね。
(2024年5月刊。3600円+税)