弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2024年8月27日

台湾のデモクラシー

中国


(霧山昴)
著者 渡辺 将人 、 出版 中公新書

 これは面白い本でした。「台湾危機」をあおり立てる風潮が強まっているのは、軍備予算を拡大させて自分の金もうけにつなげようとする腹黒い人間がいかに多いかということだと思います。まあ、それにしても、この本を読んで、つくづく私をはじめ日本人の多くが台湾のことをちっとも知らないことに気づかされました。
台湾には「四不一没有」がある。四つのノー、ひとつのない。中国共産党が台湾に軍事力を行使する意思がない限りは、台湾の独立を宣言しない。国号を変更しない。憲法に「二国論」を盛り込むことを推進しない。現状を変更する統一か独立かの国民投票を推進しない。国家統一綱領や国家統一委員会の廃止をめぐる問題もない。
 つまり、台湾の人々の多くは台湾の独立を望んでいるけれど、それが中国と戦争することを意味するのなら、もう少し先送りして様子をみようという賢明な選択をしているわけです。
 それなのに、自民党の麻生太郎のように「台湾危機」をあおりたて、いざとなったら日本は戦争しても台湾を守るなんてバカなことを放言したのです。戦争が起きないようにするのが政治家の勤めなのに、お金欲しさに馬鹿なことをヌケヌケと言ったのです。許せません。
 長く台湾を支配してきた国民党は一般庶民に直接訴える必要はなく、団体を通じて有権者を動員できると考えてきた。それに対して民進党は、社会的な草の根組織がなかったことから、市民を動かすために宣伝する必要があった。
 アメリカと違って戸別訪問文化のない台湾では、辻立ちするか、集会を開くしかなかった。台湾は38年間も戒厳令を体験している。日常が非日常という日々を生きてきた。
アメリカへの台湾人留学生は多く、年間2万人を維持している。アメリカ留学帰りが一番偉く、次にヨーロッパと日本が来る。
台湾は学者閣僚が多い。台湾では、教授は尊敬の対象だ。台湾の政治集会は、台湾特有の夜市文化と一体化している。夜市と政治は、台湾では選挙集会をライブコンサートに進化させてしまった。集会は政策を語る場ではない。地域と同じ体験を共有して確認しあう場。感情の共振こそが大切で、政策論は関係ない。だから音楽が欠かせない。
 テレビメディアが急に党派的になったのは、市場経済の競争原理が関係している。むしろ政治的に色があいまいな人はテレビに出演できない。政治討論番組は生放送ではなく、録画して、編集されている。
 若い人々は台湾語を理解できないことが増えている。
台湾には言論の自由があるため、偽情報も流通しやすくなるというジレンマがある。
台湾が日本と決定的に違うのは、台湾の運動が成果をあげ、成功体験が学生そして市民に共有されていることです。1990年の「野百合(のゆり)学生運動」、そして2014年の「ひまわり学生運動」は、いずれも成果をあげて成功体験が集団的記憶として積み重ねられている。いやあ、これは日本と決定的に違いますね。
10年前に安保法制法反対運動は大きく盛り上がりました。弁護士会も市民とともに集会を開き、パレードをしましたが、若者そして市民のなかに成功体験を共有化することはできませんでした。
台湾について、大変勉強になりました。ご一読を強くおすすめします。
(2024年5月刊。1080円+税)

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