弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2024年8月 7日

定年自衛官再就職物語

社会


(霧山昴)
著者 松田 小牧 、 出版 ワニブックスPLUS新書

 自衛官の定年は55歳(2024年9月までは54歳)。ただし、将官は60歳。
 そうすると、まだまだ元気な定年後をいかに過ごすのか、真剣に考える必要があります。そのとき、定年後、何もしないという選択肢はおすすめできません。魚釣りざんまいの生活をしいているうちに社会的刺激がなくなって認知症になったという話も聞きます。やはり、何かしらの社会に関わる仕事をしたほうがよいのです。
 定年の早い自衛官だから、年金も早くもらえるとばかり思っていました。でも、年金は65歳からしかもらえないのです。そしたら、ますます働かざるをえませんね。もちろん、自衛官のトップ層は別格です。そんな心配は不要です。需要産業である三菱重工やら川崎重工に顧問として迎え入れられ、破格の顧問料が保障されます。
 潜水艦の保守・点検作業の関係で、川崎重工や三菱重工が現職自衛官に供応・接待している事実が先日から発覚しました。需要産業と軍部の癒着は戦前もありましたし、古今東西、あたりまえの現象です。要するに、口先では勇ましいことを言ってくるくせに、実は自分と身内の便益優先というのが、いつだって、どこだって悲しい高級軍人の現実なのです。
 自衛官が高給取りなのは昔も今も同じです。陸・海・空将は月給70万円から117万円、一左(昔の大佐)で40万円弱から54万円、1尉(少尉)で28から44万円。しかも、これに年4.5ヶ月分のボーナスが付加されます。そのうえ、イラクやジブチなどに赴任すると、さらに破格の危険手当が支給されます。
 そして、55歳で定年退職すると300万円の退職金がもらえます。
 どうですか、こんなに高給・優遇されているのに、近年、志望する若い人が激減しています。なぜ...。もちろん、戦争の危険が現実化しているからです。
 自衛隊の訓練の基本は何か...。要するに、人殺しの訓練です。それも、効率よく大量の人殺しができるようになる訓練です。ためらうことなく「敵国」人を殺さなければいけません。そして、それは当然、殺される危険も伴います。それでも上司の命令とあらば、四の五の言わず黙って従い、文句を言うことは許されず、ただ死ぬしかないのです。死んだら遺族は1億円もらえるぞ、靖國神社に祭られるぞ...、誰だって、そんなの嫌でしょ。私は、もちろん嫌です。
 定年した自衛官の再就職事情をピンからキリまで、知ることができる新書でした。
(2024年6月刊。1100円)

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