弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2024年8月 6日

韓国映画から見る、激動の韓国近現代史

韓国


(霧山昴)
著者 崔 盛旭 、 出版 書肆侃侃房

 この本を読むと、韓国の近現代史は、まさしく激動そのものです。済州島四・三事件、朝鮮戦争、朴正煕暗殺、光州事件、IFM危機、セウォル号沈没事件...。
 韓国の人々は、決して黙って受けとめたわけではありません。キャンドルを持って集まり、声を上げて世の中を大きく動かしていきました。それで、日本に住む韓国人である著者は日本人の態度は理解しがたいと嘆いています(いるように思われます)。
 日本人は、権力の不正や理不尽な仕打ちに対する怒りを行動として表明しない。森友・加計問題、公文書偽造、河合夫妻の選挙違反、検察庁の不正、東京オリンピックをめぐる諸問題...。自民党の裏金問題もそうですよね。近年、あとを絶たない権力側の疑惑に対して、多くの国民は納得できないものを感じているにもかかわらず、それが明確な行動として示されることがほとんどない。一部の人がデモに集う一方で、そんなことをしてもムダだという、あきらめムードが国全体に漂っているように見える。韓国なら、これではすまされないだろう。
 本当に、そうですよね。先日の東京都知事で160万票以上もとった石丸某は、まともな政策らしいものは何もしないのに、SNSでなんとなく好感をもたれて集票してしまいました。国民(ここでは都民)の怒りが妙なところに吸い込まれてしまって、怒りの表明にはなりませんでした。
 しかも、三位にとどまった「蓮舫」に対して、女のくせに強く主張しすぎるから嫌だといわんばかりのバッシングがマスコミとSNS上であふれています。正論を主張したら、それが叩かれる世の中になってしまっては、どうしようもありません。それでは、カイロ大学を中退したのに卒業したという学歴詐称が濃厚な小池百合子のステルス(逃げ切り)を許してしまうのです。
 光州事件は1980年5月に起きた軍による市民虐殺事件です。当局は、ずっと「北朝鮮にあおられたアカによる反乱」だとしてきましたが、軍事政権から替わった金泳三政権のとき、真相究明のための特別立法がなされ、ついに、軍を動かし虐殺を指揮した大統領である全斗煥と慮泰愚に対して2人とも死刑判決が下ったのです。これはすごいことです。
 日本で、自民党の裏金事件というのは、数千万円いや数億円もの税金が私物化されたというものです。なので自民党の責任者(総裁)である岸田首相は当然に刑事裁判の被告人として裁かれるべきものですし、死刑はともかくとして、金額からして、実刑相当なのです。
この本を読んで、韓国で死刑制度が廃止されていないのに死刑執行がされていない理由として、明らかな冤罪(えんざい)にもかかわらず、死刑判決確定後まもなく処刑してしまった事実があるということを知りました。
 朴政権は、何の根拠もなく「北のスパイ」として罪なき人々を逮捕し、国家転覆を図ったとして死刑判決に持ち込み、死刑の確定からわずか18時間後の1975年4月9日に8人を処刑してしまったのです。いやあ、これはひどい、ひどすぎます。
 この裁判の過程では、事件を担当した検事が起訴を断念しようとしたこと、ついに4人のうち3人まで辞職してしまったのでした。良心がとがめたからです。
 韓国映画は大変面白く、勉強になりますので、私はなるべくみるようにしています。見逃してしまった映画もたくさんありますので、これからはできるだけ見逃さないように心がけるつもりです。
(2024年6月刊。2200円+税)

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