弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2024年8月 5日

病棟夫婦

社会


(霧山昴)
著者 宮川 サトシ 、 出版 日本文芸社

 よく出来た、考えさせられる社会派マンガです。
もう十分に老年の夫婦が二人してガンにかかって、入院中です。病院ですから、ホテルと違って夫婦同室というわけにはいきません。どっちが先に逝(い)くのか、ちょっとした言い争いになりします。
 抗ガン剤の影響で食欲がなかったりします。
 病院食の塩気抜きだと味気ないので、白ごはんにふりかけをたっぷりかけて、看護師に叱られてしまいます。
遠くに住む娘は孫を連れて病院にまで面会に来てくれます。でも、もう一人の息子のほうは、ずっと自宅に引きこもっています。もう10年にもなります。家の中は両親が出たあとは、ゴミ屋敷状態です。ゲームざんまいの生活のようです。恐らく両親の財産と年金を頼りにしているのでしょう。
もう青年とはいえない年齢の引きこもりの男性は、私の身近に何人もいます。いろんな原因があると思いますが、この本では、親父が息子のやりたい道を「世間体(せけんてい)」を気にして「弾圧」したことによります。父親は息子のためを思ってというのですが、それは自分の見栄のためということが少なくありません。
夫婦の入院先の病院には小児ガンの子どももいます。元気だったのですが、ある日突然、亡くなってしまいます。その子の好きなゲーム機を買ってやったのに、手渡す前に亡くなってしまったのです。
 そして、いよいよ老夫婦は終末期を迎えます。主治医は転院を息子に言い渡します。
 そのとき、息子は、土下座して両親を同室にさせて下さいと主治医に頼むのでした。
 「こんな自分なんかの土下座になんの価値もないのは分かっています。それでも、これしか思いつかなくて、すいません」
 泣かせるセリフです。まもなく、夫婦はほとんど同時に、同じ病室で亡くなります。
 老親と引きこもりの子どもを描いたマンガとして、秀逸だと思いまいた。
 ひきこもっていた息子はマンガ家になるのです。自伝のように思わせるところが憎いです。
(2024年6月刊。814円)

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