弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2024年8月 3日
海を破る者
日本史(鎌倉)
(霧山昴)
著者 今村 翔吾 、 出版 文芸春秋
日本が外国の大軍によって襲撃・占領されたのは、先のアメリカ軍と、その前の元冠(中国・元軍と朝鮮・高麗軍)だけですよね。朝鮮半島へ出かけて行って、白村江の戦いでは日本は大敗しています。文禄・慶長の役ではいったんは朝鮮のほぼ全土を制圧したかと思うと、結局はほうほうの態(てい)で日本侵略軍は日本に逃げ帰ってきました。その次は、またもや朝鮮侵略そして台湾支配ですね。
そこで、元冠です。先日、テレビで唐津あたりの海底に眠っている元の船の発掘調査の模様、そして、その意義を語る番組が放映されていました。
元軍は4000隻もの大量の船で日本に押しかけてきて、日本占領を企図していたようです。ところが、事前予想に反して、日本軍は乏しい武器を駆使して最大限の抵抗をしたので、元軍がもたもたしているうちに台風(神風)が吹いてきて、元軍の船のほとんどは沈没してしまいました。その結果としての海底に眠る元軍の船の遺構をじっくり観察すると、当時の科学技術水準も分かります。
さて、この本です。主人公は河野(こうの)水軍である河野家の当主。そして、一遍(いっぺん)上人が登場します。一遍上人は、もとは河野一族に連なる存在でした。さらに、合戦屏開で有名な竹﨑季長(すえなが)も登場します。これまた、先日、テレビで、この合戦屏風を見ましたが、実にリアルな合戦状況の「再現」ですよね。描いた画師が合戦に参加したはずはないと思うのですが、その迫真さには圧倒されます。
瀬戸内海を拠点とする河野水軍は船戦(ふないくさ)を得意とする。船戦において重要なのは、常に風上をとること。そうすると、敵に接近することも退却することも容易だし、矢の飛距離にも対応できる。風上をとるためには、船の速さが重要。大型の船は動きが鈍(にぶ)いと素人は考えがちだが、実際は逆。大型船ほど大きな帆を付けることができるし、櫓(ろ)を多く出すこともできる。
蒙古帝国は、かつて一度たりとも侵略をあきらめたことがない。それなのに、日本侵略に2度も失敗し、3回目は企画倒れで終わってしまったのは、なぜなのか...。
「神風が吹いた」というのは、いったいどういうことなのか...。
いろいろ考えながら、面白く読みすすめました。
(2024年6月刊。2200円)