弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2024年8月 1日
「モディ化」するインド
インド
(霧山昴)
著者 湊 一樹 、 出版 中公選書
この本を読んで、インドのイメージをすっかり考え直しました。インドは教育大国で、優秀な頭脳をもつ著者を日本を含めて世界中に送り出していると思っていました。それ自体は間違いないのですが、インドの圧倒的多数の子どもたちが十分な教育機会を与えられていないというのです。深刻な格差と教育システムの欠陥によります。そして、14億人をこえて、中国を抜いて世界一の人口だと言われるものの、2011年に国勢調査したあとはなく、正確な人口統計はないとのこと。驚きました。
イスラム教徒はインドの全人口の14%を占めているのに、あからさまなヘイトや直接的暴力によって、イスラム教徒を社会生活から排除して、「2等市民」に追いやるような差別的法律をモディ政権は次々に制定している。
インド経済は、コロナ禍の下での、突然の全土封鎖(2020年3月に始まった)により、大きな打撃を受けた。農村部は疲弊し、雇用不足が深刻化している。また、若者のあいだで雇用不足が深刻になっている。著者は雇用の安定を求めて、公的部門に殺到している。
インドがロシアとの関係を重視しているのは、兵器の調達先としてロシアに大きく依存しているから。
モディは、人の意見を聞かず、独断専行で物事を進め、派手な行動で注目を集める傾向が昔からあった。2020年2月末から数ヶ月もモディが州首相となったグジャラート州で多くのイスラム教徒がヒンドゥー至上主義組織によって虐殺された(グジャラート暴動)。このとき、モディは、人々に手静を保つように呼びかけるどころか、イスラム教徒への敵愾(てきがい)心をかきたてるような言動を繰り返した。そして、自らの責任を認めないばかりか、遺憾の意を表明することもなく、釈明もしなかった。
モディを支持するゴータム・アダニの資産は9年間で80億ドルから1370億ドルにふくれあがった。2022年だけで、720億ドルを稼いでいる。
「モディ旋風」はインド全部で吹いたわけではない。インド全体では3割ほどの支持でしかない。
グジャラート州は、学校への子どもの出席率、子どもの栄養不良、予防接種率のいずれでもインド全体の数値を下回っている。
モディ政権は、都合の悪いデータを隠し、改ざんしている。モディという一人の政治指導者が絶対的な権力と圧倒的な存在感を誇っている。まるでワンマンショーの世界。
これって、中国における習近平政権と似ているというか、そっくりですよね。
モディ首相は、記者会見を開かないし、記者からの質問を受けつけない。メディアの個別インタビューは、モディが一方的に自説を述べるだけの場。
そして、モディ政権に批判的なジャーナリストに対して集中砲火をたきつけるため、モディは、SNSを活用している。
コロナ禍に対してモディ政権は2020年3月25日から3ヶ月、全土封鎖に踏み切った。これは事前準備も周到な計画もないままトップダウンによって突然はじまった。この全土封鎖は、インド経済を直撃した。モディ政権は、大規模な選挙集会や宗教行事を規制しなかったので、コロナ感染の拡大をむしろ助長した。
中国からインドへの輸入は増え続け、貿易面での中国への依存は、むしろ深まっている。
モディ政権は、貧困層に対して、政策的に無関心。モディ政権は、個人支配型統治と専門知識の軽視が特徴。
突然の雷雨のため、福岡空港で2時間も飛行機のなかに閉じ込められたときに一心に読みふけった本です。インドと中国、そしてロシアに大きな共通項があると思いました。ご一読を強くおすすめします。
(2024年5月刊。1980円)
またぞコロナ禍が広がっています。どうしたことでしょう。私の身近な人が何人も発症しました。ワクチンを6回うったのに、コロナに2回かかったという人もいます。軽症の人が多いようですが、なかには重症の人もいるそうです。
そして、信じられないほどの炎暑の毎日です。熱中症で次々に倒れる人がいます。私の孫2人も次々に熱中症にかかりました。幸い、早く寝たら、翌日には軽快しました。地球環境がおかしくなっているようです。気をつけましょう。