弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2024年7月 3日
ナチ親衛隊(SS)
ドイツ
(霧山昴)
著者 バスティアン・ハイン 、 出版 中公新書
最近、たて続けにナチスに関わる映画を2つみました。「関心領域」は、この本にも登場するアウシュヴィッツ収容所のヘス所長の一家を淡々と描いています。この新書によると、ヘスは、回想録のなかで、自分のことを「意思のない、常に礼儀正しい、命令に従うだけの者」としているが、実際には、強制収容所の司令官として無制限の権力を振るい、収容者の生死を左右し、親衛隊であげた「業績」(いかに効率よくユダヤ人を大量殺害したか)を誇りにしていた。
映画では、壁の向こうで大量虐殺が進行しているのに、ヘス一家はプールもある豪勢な家で安穏と過ごしていたのです。ユダヤ人犠牲者から奪った宝石や衣服など身を飾りながら...、です。いかにもおぞましい生活なのですが、壁の向こうで進行中の人道に反する大量虐殺の事実は、見ようとしなければ、まったく見えてこないわけです。
もう一つの映画は「ワン・ライフ」です。こちらは、ナチス・ドイツの侵攻直前のチェコから子どもたちをイギリスに連れ出して救出したという実話を映画にしたものです。一人の証券マンが、事実を知ってやむにやまれぬ思いで現場に行って、600人以上の子どもたちの救出に成功したのです。現在進行形のガザの現実を重ねあわせて、涙の止まらない思いでした。
ヒムラーが最終的に第三帝国のナンバー2になった(なれた)のは、競争相手から繰り返し過小評価されていたこと、外見がぱっとせず、人目を引くことがなかったこと、そして、常にヒトラーに対してへりくだった態度をとっていたから。なーるほど、そういうこともあるのですね。
ヒトラーは、「アーリア人」の厳密な定義づけをむしろ避けた。「アーリア人」とは、「ユダヤ人」とは正反対の存在だと定義するだけだった。人間は、そんなに簡単に定義づけられるものではないということです。
親衛隊の隊員は優秀な人種から選抜されるということだったが、ナチスの医師の多くは「人種検査」を行う能力も動機も欠いていた。「人種検査」は客観的と称していたが、実際は恣意的なものだった。
親衛隊は「エリート集団」のはずだったが、実際にはそうではなかった。隊員の出身の多様性は特徴的だった。
ヒトラーの無二の友人だったエーミール・モリスは、曾祖父がユダヤ人だったが、「名誉アーリア人」として親衛隊に迎え入れられた。
親衛隊員は、自分たちの残忍性を隠すべきこととは思っていなかった。
国防軍の将校になるために必要だったアビトゥーア(大学進学資格試験)は親衛隊の将校には不要だった。
武装親衛隊の「英雄行為」は、軍事上で見込みのない戦争を長引かせた、だけだった。
ユダヤ人大量殺害に手を染めた親衛隊は、心を病んでいった。彼らの目は、海底に横たわって死んでいるタイの目に生き写しだ。彼らの人生は終わった。これで育成される部下は、神経病者か荒くれ者だ。
戦争を生きのびた親衛隊は武装隊員で60万人、一般隊員でも15万人もいた。
1963年から1965年まで続いたアウシュヴィッツ裁判では、刑は軽かったが、アウシュヴィッツ収容所の実態を広く世界に知らせたという点で大きな意義があった。そうなんですね、広く知られてはいなかったわけです。まあ、想像を絶する残酷な世界だったわけですから...。
ナチ親衛隊(SS)の実像を手軽に読んで知ることのできる新書です。戦争が起きると、こんなひどいことがまかり通るのですね...。日本も、自民・公明政権がどんどん戦争準備をすすめていて、かえって戦争を招こうとしているのですが、本当に心配です。軍備増強より教育・福祉を充実させましょう。
(2024年4月刊。1100円)