弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2024年7月31日
ノルマンディ戦の6ヶ国軍
ヨーロッパ
(霧山昴)
著者 ジョン・キーガン 、 出版 中央公論新社
映画「史上最大の作戦」をみたのは、私が高校生のころだったでしょう。圧倒的なスケールの戦闘場面には、まったく度肝を抜かれました。最近では、映画「プライベート・ライアン」です。あたかも観客にすぎない私自身が戦場の真っ只中に置かれているかのような迫真性がありました。
ナチス・ドイツ軍を率いる砂漠の鬼・ロンメル将軍が鉄壁の陣地で待ち構えているところに突撃・突進していく連合軍兵士はどんなに心細かったことでしょう。そして、部下を死地に追いやった総司令官のアイゼンハワー将軍は万一、敗れたときに備えて早々に挨拶原稿まで用意していたそうです。
ところが、「鉄壁の陣地」のはずのドイツ軍は、実はそれほどでもなかったのです。「軍事の天才」を自称するヒトラーがノルマンディーではなく、もっと東側に上陸してくると思わされていたことにもよります。ヒトラーは「天才」でもなんでもなく、ただの狂人でしかなかったのです。
それにしても、当時は天候の予測はかなり難しく、まさかこんな悪天候の日に上陸はないと確信してロンメル将軍をはじめ、何人もの高級司令官たちが現場を離れていました。
そして、現地からの報告を受けたドイツ軍司令部は「陽動作戦」だと信じていたので、対処が遅れたのでした。
この本を読んで、連合軍のグライダー部隊が「お粗末」だったことも知りました。敵(ドイツ軍)の背後、奥深いところに連合軍兵士を大勢送り込むはずだったのです。でも、現地上空で厚い雲に覆われて、目標を見逃します。そのうえ、グライダー操縦も機材も、不十分だったのです。1590機の兵員輸送機のうち、440機が大破したか撃墜されました。これはひどい損耗率ですね...。
ドイツ軍のレーダー探知を逃れるため、高度150メートルを30分間も飛び、いったん高度460メートルに上昇して目標地を視認し、さらに高度120メートルで目的に接近していったのです。
パラシュートが故障したら、どうなるのか...。その恐怖心に備えて、アメリカ軍は予備のパラシュートをもっていたが、イギリス軍にはなかった。
降下員たちの4分の1は、捻挫か骨折をしていた。各師団で、3000人以上の兵士が行方不明または死亡した。これまた、すごい高い損耗率ですよね...。
ノルマンディー上陸作戦に参加したカナダ兵5千人のうち、生存者は4割の2千人しかいなかった。1900人近くがドイツ軍の捕虜になった。交戦したカナダ兵の65%が損耗した。いやはや、これはひどい結果です...。
カナダの将兵が上陸したとき、連合軍の艦隊による艦砲射撃は、ドイツ兵をまったく殺傷していないことが判明した。あの艦砲射撃って、見るからに威力がありそうなんですけどね...。
1944年6月6日のノルマンディー上陸作戦の翌月、フランスでドイツ軍がまだ連合軍と戦闘していた7月20日、森の中の総統大本営(「狼の巣」)で、ヒトラー暗殺計画の爆発が起こり、未遂に終わった。ワルキューレ作戦の遂行と失敗です。ドイツ国防軍のなかにはヒトラーを亡きものにしようという確固としたグループがあったわけです。ところが、悪運の強いヒトラーは生きのびてしまいました...。
8月19日、パリ解放のため、フランス(パリ)警察の3つのレジスタンス組織が共同行動をとることで一致して、パリ警視庁の屋上に三食旗を掲げた。このとき、共産党主導のレジスタンスは一歩出遅れてしまい、ドゴール将軍がリードすることになったのでした。
ノルマンディー上陸作戦の前と後を、アメリカとイギリス軍だけでなく、連合軍に加盟していたカナダ軍、ポーランド軍、フランス軍などについても丹念にフォローしていて、画期的な本だと思いました。
(2024年3月刊。3600円+税)