弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2024年7月26日

tsmc、世界を動かすヒミツ

社会


(霧山昴)
著者 林 宏文 、 出版 cccメディアハウス

 半導体産業には莫大なお金がかかるのですね。
 著者は日本が半導体産業の復活のために国の投じる3500億円では、TSMCの研究開発費の3分の2にもならないので、世界に追いつくのは無理だと断じています。
 日本は、かつて半導体産業で世界をリードしていたが、今では見るかげもない。それは、設計と製造の分離という業界トレンドに乗り遅れてしまったから。日本は、過去・独自路線を歩み、産業も垂直統合型だったが、世界は分業制へと向かった。
日本の半導体産業が出遅れてしまった4つの原因。
 その1は、財閥系企業の意思決定が非常に遅い。その2は、グローバル市場で戦える人脈と能力を経営者が持っていない。その3は、強烈な閉鎖主義で、独自技術に固執し、買収や合併を嫌がった。その4は、技術偏重で、マーケティングを軽視した。
 それでも、長期的に取り組む必要のある半導体の精密機器や設備、光学、材料の分野では、日本は目覚ましい成果をあげている。たとえば、シリコンウェハー業界では、日本の信越化学工場が1位とのこと。日本も、まったくダメというのではなさそうです...。
 この本を読んで驚いたことの一つが、TSMCは研究開発部門を年中無休の24時間体制で動かしているというのです。技術者は、2日出勤したら、2日休む、「2勤2休」制で仕事をするのです。製造部門で三交代制は珍しくありませんが、研究開発で三交代制を導入して、24時間ノンストップで研究開発を続けているというのです。これは、すごいことですね...。
 TSMCの会議では、何も発言しなかった人は、次の会議からは出なくてよいとされる。ということは、会議に出席するためには意味のある発言を1回はしなくてはいけないというわけです。
 台湾のIC設計会社上位10社のうち、台湾企業が4社を占めている。
TSMCは国営企業ではない。しかし、台湾政府が出資して設立し、手厚く支援した企業。
 台湾は世界の半導体の7割を生産する力があり、そのなかでもハイエンドなプロセス技術(半導体の製造技術)の9割を独占している。
 熊本にTSMCの工場が出来ることになって、地価が上昇し、マンションが次々に建っているようです。しかし、他方で、地下水汚染を心配する地元の声が上がっています。私も大丈夫なのか、不安なんです...。IC産業なしでは世界がまわらないことは分かりますが...。TSMCのヨイショ本です。
(2024年3月刊。2700円+税)

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