弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2024年7月12日

アイヌもやもや

人間


(霧山昴)
著者 北原モコットゥナシ ・ 田房 永子 、 出版 303Books

 アイヌ民族と差別について、マンガをふくめて問題点が手際よく紹介されている本です。私自身も読んで大いに反省させられました。
 沖縄の人から見ると、九州・四国・本州の人々は「やまとうんちゃ(やまとの人)」です。同じように、アイヌ民族からすると「シサム」と呼びます。初めて知りました。
 日本は「単一民族国家」だとか「一民族一国家」という、アイヌ民族という少数民族の存在を無視した言い方をする人が少なくありません。これは、たしかに間違いだと私も思います。
 ちなみに、「奄美・琉球民族」という表現は、私には正しいものとは思えませんが...。
 在日コリアンを含めて、多数の外国人労働者が現に日本に存在していることも無視してはいけない現実です。私は福岡市内でフランス語を学んでいますが、そのフランス人講師は、フランスの歌手にもサッカー選手にも起源はフランス外の人が驚くほど多数いることを紹介していました。国際交流が進んで世界平和につながっていくことを私は願っています。ところが、今、ヨーロッパでは移民排斥を主張する極右勢力が支持を集めているという悲しい現実があります。
 1899年に制定された北海道旧土人保護法は、名称からして「旧土人」といういかにも差別的な法律ですが、アイヌの農耕民化・和風化をすすめるため、アイヌに農地が用意された。しかし、和民族に対しては1人あたり10万坪なのに、アイヌに対しては1戸(1人ではなく)あたり1万5千坪だけ。ケタ違いでした。
 1980年代、札幌市の高校で、社会科の教師が、「誤ってアイヌと結婚しないように」と言って、授業でアイヌの「見分け方」を解説した。信じられません。これって偏向教育そのものですよね...。
 マイクロインバリデーションとは、相手の感情、経験を排除・否定・無化すること。
 「北海道には歴史がない」とか、「開拓」「フロンティア」を礼賛するというのは、アイヌの歴史・被害の否定なのだ。そのとおりですよね。
 そもそも平安時代の書物(新撰姓氏録)を見ると、当時の貴族の10人に3人は渡来人だったし、平安京を開いた桓武天皇の実母は、百済(くだら。朝鮮半島にあった古代国家の一つ)の人だった。これは歴史的事実です。
 アイヌ人なんていないというのは、見ようとしないから見えないというだけ。なるほど、そのとおりです...。
(2024年6月刊。1760円)

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