弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2024年7月11日

キンダートランスポートの少女

ドイツ


(霧山昴)
著者 ヴェラ・ギッシング 、 出版 未来社

 チェコ人の子どもたちが、ナチス・ドイツの侵攻直前に集団でイギリスに疎開して助かったという話の当事者が語った本です。
 先日、天神の映画館(KBCではなく、キノ・シネマ)でみた映画「ワン・ライフ」のパンフレットで紹介されていたので、至急とり寄せて読みました。
 チェコにいた1万5千人ものユダヤ人の子どもたちがヒトラーのユダヤ人絶滅政策によってホロコーストで殺害され、強制収容所から生還できたのは、わずか100人だけでした。
 ところが、ロンドンで村の仲買人をしていた30歳のニコラス・ウィントン(愛称はニッキー。元ユダヤ人)が、チェコに入ってユダヤ人の子どもたちをイギリスに集団疎開させる事業に取り組んだのです。大変な事務手続がいります。輸送費用もかかります。子どもたちを引き受けてくれるイギリス人家庭も探さなくてはいけません。それをニッキーは仲間と一緒にやったのです。
 ヒトラー・ナチスがチェコを併合する前の3ヶ月間にニッキーはやり遂げたのです。でも、最後の列車の便に乗っていた子どもたち250人は列車に乗り込んだものの、ついに引きずりおろされ、死に追いやられてしまいました。ニッキーは、自分たちの努力で助けた669人の子どもの存在を誇るというより、むしろ助けられなかった250人の子どもに申し訳なく、罪の意識を感じてしまい、戦後ずっと自分たちの行動とその成果を封印して生きていたのです。
 それが、1988年2月にイギリスのテレビ番組で取り上げられ、ついに世の中にニッキーたちの取り組みが知れ渡りました。助かった669人の子どもたちが、先日の映画では子や孫たちが増えて6000人になったとされていました。「シンドラーのリスト」や日本人外交官「センポ・スギウラ」の話とまったく共通します。
私は、ガザに侵攻したイスラエル軍の蛮行は、まさしく「ユダヤ人虐殺」と同じようなもので、立場を変えて「虐殺」が進行していて、今も止まっていないことを思い、涙が止まりませんでした。
 この本には、なぜチェコのユダヤ人の子どもを受け入れたのかと問われたイギリス人の答えが紹介されています。
 「私は自分が世界を救うことができないことも、戦争を止めさせることができないことも分かっていたけれど、人を一人助けることはできると思ったんだ」
 ニッキーはイギリスで棟の仲買人として安楽な生活をしていたのです。しかし、チェコに行って子供たちが危ないと思ったら、救助活動しなくてはいけないと思って行動を開始したのでした。もちろん、一人でやれることではありません。大勢の仲間と一緒にやったことです。
 でも、肝心なことは誰かが口火を切って動き出す必要があるということです。
 ウクライナもガザも戦火を止める必要があります。尖閣諸島が中国にとられないように日本が軍備を増強するのは仕方がない。そんなことを考えている問題ではないのです。むしろ、日本(政府)の行動こそ戦争を招いている。それを一刻も早く日本人みんなが自覚すべきだと、映画をみて、本を読んで痛切に思いました。
(2008年5月刊。2500円+税)

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