弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2024年6月28日

祝福二世

社会


(霧山昴)
著者 宮坂 日出美 、 出版 論創社

 安倍元首相を射殺した山上容疑者の裁判がようやく始まりそうです。
 統一協会のために一家が大変悲惨な状況に陥ったことから、その責任を追及すべく安倍首相を射殺したと伝えられています。もちろん私も、どんな事情があったとしても、「元首相暗殺」という手法を肯定するつもりはまったくありません。ただ、統一協会が昔も今も日本社会に多大な害悪をもたらした(もたらしている)団体、エセ宗教団体であることは間違いありません。
 著者は統一協会の解散命令には反対のようですが、私は、一刻も早く政府は解散命令を出し、税法上の特典なんか統一協会から奪うべきだと思います。
 それにしても、山上容疑者の母親は、今なお現役の信者のようです。本当に怖いことです。「洗脳」とは、こんなにも人間を変えてしまうものなのですね...。まともな判断力を奪ってしまう怖さです。
 この本の著者も長く統一協会の信者として活動していて、今でも信仰を捨てたとしながら、この本の最後に「今は味方が少ないからこそ、統一協会を応援したいと私は思っている」と書いています。信じられません。
 著者は、あるとき突然に統一協会を脱会したというのではないそうです。いくつかの出来事があって、次第に疑問がふくれ上がっていったとのこと。
 その一つが、「祝福結婚」の実態です。韓国の結婚できない若い男性が日本人女性と結婚できると思って申し込むのです。その実例の日本人女性の話を著者は会って聞いたのでした。男性は信者でも何でもありません。片方が信者ですらない「祝福結婚」が存在することを知って、「祝福結婚」への意欲を完全に見失った。そして、それは「祝福二世」として生きつづける意味が崩壊したことも意味した。まったくショックだったと思います。
 次に、文鮮明が、あわれみの涙をこぼした話。ある日本人信者が、寄付集めの物品販売を7年も続け、その間に新しい下着を買うことすらできなかった。それを聞いた文鮮明は「かわいそう」と泣いたという。しかし、著者はそれは違うと考えたのです。むしろ、堂々と、ほめたたえるべきではなかったか...。
 「万物復帰」という物品販売・寄付金集めは、「救い」になるというのではなかったか...。文鮮明が「あわれみを感じて泣いた」というのは、「自己洗脳」が足りていなかったということではないか...。
 日本人の信者には厳しい献金ノルマが課されるのに対して、韓国人信者には、そのようなものはない。日本人の著者からみると、韓国人は「選民」としてあぐらをかいているだけ。
統一協会の信者として活動するなかで、著者は自分の頭で考えることができなくなった。それは自己中心的だとして批判の対象にされるから...。
 統一協会での物品販売活動は「堂々と嘘をつく」ことが基本。こんなのを「宗教」と呼んでいいのでしょうか...。
 自民党議員の秘書には今も少なくない統一協会の信者がいて、彼らは相互に連絡をとりあっているとみられています。そんな秘書をかかえた自民党議員が、今なお夫婦別姓の実現を阻止しているのです。ひどい話です。
 著者が出会った信者たちは、もともと真面目な、真面目すぎるほどの人たちがほとんどだったと思います。そのような人々を大切にすることは理解できますが、元凶である統一協会に「味方」するというのは、ぜひ考え直してほしいです。
 なお、私は、「統一教会」という略称は間違いなので、使いません。教会ではないのです。
(2024年3月刊。1800円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー